作品タイトル不明
69「祐介くんマジでやばくね?」②
佐渡祐介は、ベアトリスが初心な仕草を見せるもすべてが虚像だと理解していた。
かつて祐介は、勇者として異世界召喚された折に、種馬扱いされ、尊厳を踏みつけられた過去がある。
その時、祐介を辱めた女たちと同じ目をしているのだ。
(僕がそう何度も弄ばれてたまるか)
できることならこの場でベアトリスを殺して脱出したいという考えが過ぎる。しかし、いくら異世界人だろうと、お世辞にも善良な人間ではなかろうと、躊躇なく人を殺すことは祐介にはできそうもなかった。
(そ、そうだ、この女は魔族! 魔族さん! 実は人魚で、今だけ人間の姿になっているとか……カモン!)
妄想の世界に翼を広げた祐介だが、すぐに「そんなことはありえない」と冷静な部分で、思考が戻ってきてしまう。
「先代勇者様とは相思相愛でしたが、戦いに次ぐ戦いのせいで清い関係のままでした」
ベアトリスの後ろで、メイドがぶんぶんと首を横に振っている。
メイドが否定しなくともわかっている。
夏樹が、このような女を相手にするはずがない。
以前、彼女のことは聞いたことがあるので、尚更だ。
そもそも、騎士団長をはじめ不特定多数の男性と密通している彼女の言葉を信じられるはずがない。
「先代勇者様のことは今でもお慕いしていますが、勇者様のことを心身ともにお支えしたいのです」
ベアトリスの背後でメイドが「おえっ」とえずいている。
正直羨ましい。
祐介も「おえっ」てしたい。
「勇者様、わたくしとひとつになり、魔族を駆逐し、新たな世界の支配者となりましょう」
彼女の言葉は祐介を体良く利用しようとしているのがわかった。
言葉のひとつひとつから、自分の野望が隠せていない。
余計なことを言わずに、ただ関係を持とうとすれば、まだ可能性があったのだが、ベアトリスは自分の欲望に酔っているようだ。
(そもそも、この世界だと夏樹くんが帰還して間もないでしょう!? なのにもう心変わりして次の男っていうか、駒を選ぼうとするとか怖っ、怖ー! きっと、俺以外の勇者にも同じことしているんだろうなぁ! きんもー)
祐介がなんとか助けてほしいとメイドを見るが、彼女は残念そうに首を横に振るだけ。
心なしか、口元が笑っているように見えるのは、祐介の危機を楽しんでいるのかもしれない。
そうこうしている間に、ベアトリスがナイトドレスを見せびらかすように、ベッド脇の灯りの近くに立った。
「さあ、勇者様」
おもむろにベアトリスがベッドの上に乗り、祐介に口付けをしようとした。
そして、祐介の限界が訪れた。
「息が臭いんだよ。触るなブス!」
刹那、ベアトリスの動きが止まる。
何を言われたのかわからないようだったが、すぐに祐介の言葉の意味を理解し、能面のように表情を消した。
(ああ、やっちゃった! 素直な自分が憎いよ!)
後悔はしていない、自らの尊厳を守れたのだ。
――この日、佐渡祐介の死刑が決まった。