軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65「祐介くんが抵抗を始めるんじゃね?」

佐渡祐介は、異世界に召喚された勇者である。しかし、異世界で命を散らしてしまった過去とトラウマを持つ。

そんな祐介は、かつて自分が召喚されたよりも数十年早い時代に二度目の異世界召喚をされてしまった。

「僕は囚われのプリンス! 獣耳を生やした麗しのプリンセスが助けに来るまで、籠の鳥なのさ!」

――佐渡祐介は軟禁中だった。

天蓋付きのベッドと、メイドがひとり用意されている環境下にいるので、待遇としては悪くない。

だが、かつてこの世界で、自分を召喚した国に種馬扱いされ、人としての尊厳を踏み躙られた経験がある祐介にとって、苦しい時間だった。

「逃げ出したいのは山々ですが――何ということでしょう、無理やり握手を求められたと思えば腕に魔力封じの腕輪をされたじゃありませんか! しかも、前勇者様が規格外の魔力だったので、その対策として作られたんですって。前勇者って、夏樹くんやないかーい!」

召喚され、籠城し、軟禁されてから、こうやってずっと祐介はひとりで喋ってはツッコミを入れている。

そうでもしていないと落ち着かないのだ。

(夏樹くんたちと合流した時のことを考えてこの国のことを探ろうとしていたのに、まさか囚われのプリンスになるなんて……ここでも種馬扱いの可能性があるだけで吐き気が……ゴッドよ、なぜ僕は魔族サイドに呼ばれなかったのですか!?)

もっと早く強行していればよかったと思うが、後の祭りだ。

せめて少しでも情報を、とメイドに話しかけても基本的に返事はない。

彼女の動きから察するに、万が一祐介が裏切ろうとしたら殺すくらいの準備をしているのだろう。在り方が、訓練された人間のそれだ。

(なんとなくだけど、勇者っぽいのが数人……あと神とか魔族みたいな規格外な力を持つのが複数人……これやばくね? 僕が召喚された時代よりもヤバくね? 人間が滅びそうとかどうこうの前に、魔族とガチバトルで滅びそうでヤバくね? 人間はいいんだけど、まだ見ぬ僕の獣耳っ子が殺されるなんて、嫌ぁああああああああああああああああああああ!)

祐介は、お世辞にも好戦的ではない。

夏樹のように割り切ることもできず、いつも受け身だ。

そんな自分が嫌になるが、先日まで異世界のトラウマで引きこもっていたのだ。すぐに性格を変えて、異世界で大暴れ、なんてできるはずがない。

せめて友人たちがいてくれたら心強かったのだが、今はいない。

いずれ合流できずとも、夏樹たちが異世界に来ることは決定事項なので時間を稼ぐしかなかった。

(夜中にこっそりと窓から……いけるね。まだ完全に日が落ちていないから、動き回れないけど、訓練されていたとしてもメイドさんひとりならなんとかなるはず)

祐介がメイドを伺っていると、部屋の扉が何度か一定のリズムで叩かれた。

メイドも廊下側に対し、扉を叩いて返事をすると、祐介の方をまっすぐ向く。

「――勇者様、お清めの用意ができました」

「ほえ?」

「ご支度をお願いします」

何を言われているのか理解できなかった。

「えっと、あの、どういう」

「……お湯の準備ができました。お身体を清めていただきたく思います」

「いえ、遠慮しておきます」

お風呂に入れということだが、拒否した。

夏樹のようにこの世界の物を口にしないと決めているわけではないが、この国の世話になるのが嫌だった。

「メイドたちも準備ができているので、そう言わずぜひ」

「お、男の子の日なので、お風呂に入れません」

「意味がわかりません。……いいでしょう。隠すように言われていましたが、お伝えさせていただきます。ベアトリス様がお部屋を訪れますので、身を清めてお待ちいただきたいのです」

「ほえ?」

「…………」

「…………」

「…………」

「ごほん。つまりはそういうことです」

長い沈黙の果てにメイドが告げた言葉を、祐介は理解するのに時間がかかってしまった。

「あ、あははは、そういうことですか。いやー、それなら仕方がないなぁ」

「お分かりいただけてなによりです」

「今日は男の子の日なのでやっぱり無理です!」

「だからそんな日はないだろ! 下手に出てりゃいい気になりやがって、おらっ、裸にひんむいてやるよ!」

「いやぁああああああああああああ! お代官様ぁああああああああああああ!」

――勇者とメイドの攻防が始まろうとしていた。