軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77「正直、やばくね?」①

夏樹は茨木童子を両断できなかったことを舌打ちした。

七割の力の範疇の中で、限界の一撃だった。

しかし、茨木童子は腕を重ねて聖剣を受けたことで、左腕を斬り落とされながら、右腕と胴体は無事だったのだ。

それでも夏樹の一撃は茨木童子の胴体を大きく斬り裂き、鮮血が溢れ、内臓が露出している。

殺しきれなかったが、このまま押せばなんとかなるはずだと考えた。

夏樹は前に出ようと足を進めようとして、無意識に後ろに飛んだ。

「…………あら。まるで野生動物のように恐怖に敏感なのね」

茨木童子が笑う。

間違いなく、夏樹が前に進んでいたら死んでいたなにかをしようと企んでいたのだろう。

「――夏樹、二分よ」

聖剣さんの声が聞こえ、夏樹は高めていた魔力を抑えた。

大きく力が下がると同時に、倦怠感が身体を襲う。

「もう限界なのね。でも、それはお互い様ね。私ももういっぱいいっぱいよ」

「そりゃそうですか。じゃあ、首を差し出せ。楽にしてやる」

「嫌よ。私はしののんと幸せになるために、お前を殺し、この場にいる全員を殺し、食って食って食ってあげるわ!」

「そんなことをしてどうやって幸せになれるんだよ?」

「私はしののんと一緒にいることができれば幸せなの」

「……そうじゃねえだろ。しののんと一緒にいること「だけ」じゃなくて、しののんの大切にしている人たちも、お前の姉妹も、みんなのことを考えて初めて幸せに――いや、いい。悪かった。俺は鬼になにかを言うつもりはないんだ。万が一、あんたが考えを改めたら、殺し辛い」

夏樹の言葉は茨木童子に届くことはないだろう。

それでも言いたかった。

言っても無駄だとわかっていても、つい言ってしまった。

まだ青い。

未熟を恥入る。

「続きだ。俺も弱体化したが、あんたも同じだろう。決着をつけようぜ」

「――そうね。本気を出しましょう」

「……なに?」

夏樹は耳を疑った。

茨木童子は「本気を出す」と言ったのだ。

現時点で、夏樹と同様に限界まで力を出しているはずの茨木童子がまだ力を持っているような言い草だ。

強がりを言うような鬼とは思わないが、虚言を吐くとも思えない。

夏樹の選択は、とりあえず首を刎ねる、だった。

まだ力を隠していようが、奥の手があろうと、その前に殺せばいい。

限界を超えて七割の力を再び出した夏樹が地面を蹴り、茨木童子に肉薄すると目にも留まらぬ速さで聖剣を薙いだ。

刀身が茨木童子の首に吸い込まれ――硬い音を立てて弾かれてしまった。

「いや、有り得ねえだろ。岩だってバターのように斬れるんだぜ?」

「まずは認識から改めなさい。お前の目の前にいるのは、最強の鬼よ!」

夏樹の腹に茨木童子の鋭い蹴りが突き刺さった。

地面を何度か跳ね、体勢を整えるが、追撃はなかった。

「げほっ、おえっ」

内臓に大きなダメージを受けたようで、吐血する。

ヒールをかけ、回復を試みた。

――その判断を後悔する。

「……お前のせいで私の計画は大きく狂ったわ。だけど、嬉しいこともある。お前を食うことで、私はさらなる力を得るのよ!」

そう叫び、茨木童子は右腕を自らの下腹部に突き立てた。

「――あ?」

なにをしたのか理解できず、夏樹が動きを止めてしまった。

その間に茨木童子は、自らの腹を掻き回し、血を溢れさせる。

狂気じみた行為をしばらくすると、彼女はゆっくり腕を引き抜く。

茨木童子の右手には、莫大な霊力が溜まった球体が握られていた。

「――私の可愛い赤ちゃん……ママに力を貸してね」

「ま、て」

茨木童子の意図を理解した夏樹が動くが、遅かった。

彼女は愛しげに球体に頬擦りすると、大きな口を開けて、ずるり、と丸呑みにした。

――どくんっ。

刹那、霊力の暴風が吹き荒れ、茨木童子は完全な鬼となった。