軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33「名前が紛らわしくね?」①

夏樹は迫り来る拳を右手で受け止めた。

「おっと、と――想像以上に馬鹿力だね!」

ダメージこそなかったが、自称ルシファーの勢いは止まらない。

「馬鹿とか言う方が馬鹿じゃぞ!」

子供のような叫びと共に、夏樹の身体が浮いた。

「隙ありじゃ! おらぁああああああああああああああああ!」

拳を突き出したまま、純白の翼を羽ばたかせて突進する。

夏樹の身体が、背後の壁にぶつかり、そのまま突き破った。

「あいたーっ!」

「まだまだじゃあ!」

壁を二枚、三枚と突き破り、押せると思ったのかルシファーがもう片方の拳を放ってきた。

背中が少し痛いくらい程度のダメージしか負っていなかった夏樹は、腕で拳を弾くと、彼女の懐に入ってかなり力を込めた一撃を放った。

「おえっ!?」

夏樹がぶち破ってきた壁の穴を、今度はルシファーがまっすぐ吹っ飛び潜っていく。

「あー、びっくりした。情報量に驚いて後れをとったけど、こんなもんか。ルシファーを名乗るなら、阿呆みたいな強さを見せてほしかったな。あ、聞こえてるかわからないけど、俺って男女平等なんで、よろしく!」

床を蹴り、夏樹の姿が消える。

次の瞬間、廊下の端の壁に背中をぶつけ体勢を崩しているルシファーの眼前に現れ、腹部へ容赦のない蹴りを決めた。

身体をくの字に折ったルシファーに、もう一度蹴りを入れ、彼女ごと背後の壁を蹴り砕いた。

が、そのまま吹き飛ばすことはしない。いちいちビルを壊しながら移動するのを面倒だと思った夏樹は、彼女のジャンパーの襟を掴んで引き寄せると、音を立てて荒ぶる雷を纏った拳を数発叩き込んだ。

内臓が潰れる感覚と、骨を砕く感触が伝わり、若干の不快感を覚えたので、手を離し、思い切り頭上に蹴り上げる。

彼女は血を吐きながら天井に激突すると、そのまま屋上まで貫通し、綺麗な穴を作った。

夏樹は追撃をするために、跳躍し、意識を半分飛ばしながら翼を広げてバランスを取ろうとしているルシファーの真上から、大きく足を上げて、一気に振り下ろす。

踵が彼女の翼の付け根を潰し、地面に向かって蹴り落とした。

ルシファーは屋上のコンクリートを、各階の床のまだ崩れていない部分を壊しながら一階へ落下していく。

「ま、こんなもんかな? よくわからないけど、攻撃してきたのは向こうだし、とりあえずこっちが上だと示さないと。それにしても、ルシファーか……四天王よりは強かったから手は抜かなかったけど、もし天使や魔族がこの程度なら、俺笑っちゃうよ?」

ゆっくりと崩れていない場所へ着地すると、大穴の中からグレイ型宇宙人がこちらを覗いていた。

(――真下から宇宙人が覗き込んでいる光景ってちょっと怖い!)

「夏樹、無事か!?」

「あ、うん。ちょっと予想外のことが起きたけど、対処しちゃうからビルの外に出て! 多分、知り合いの警察関係が来るから助けを求めてもいいし!」

「だ、大丈夫なのだろうか? 我々を見て夏樹のように友好的に接してくれる者ばかりではないだろうに」

「信頼できる人に応援頼んだから、平気平気。あ、ところで、宇宙人って神様なの?」

「……どういう意味なのだろうか? 我々はあくまでも我々であり、神という存在ではない」

「……グラサン野郎。全然違うじゃねえか。ていうか、言葉が通じるんだから聞けばよかったのに……まあ、違うと言っても信じなかったんだろうけどさ」

お茶の一杯でもご馳走すればグラサン男の疑問はすぐに解決したような気がする。

尤も、そのような柔軟な思考があれば、解剖などしようとしないし、させもしなかっただろう。

「ところで夏樹は今、なにと戦っているんだ?」「ナンシーを捕まえた者とは違うんだが、それを知りたいからちょっと問い詰めてくる! とにかくビルがぶっ壊れるかもしれないから、早く外へ!」

「わかった! 夏樹、気をつけろよ!」

「あいよ!」

屋上から一階に向かって飛び降りながら、夏樹は途中でジャックとタッチした。

そのまま着地し、ルシファーを探す。

すると、すぐに見つかった。

「……おのれ、魔族の分際で高貴な俺を好き勝手しよって!」

口の周りを血で濡らしながら、衣服を汚したルシファーが荒い呼吸をしながら廊下に立っていた。

ダメージが残っているのか、壁に寄りかかっているが、それでも立ち上がっている。夏樹が砕いた骨や、潰した内臓は回復してるように思えた。

「俺、魔族じゃないんだけど?」

「そんな嘘が通用するものか! ありえんほどの魔力を持っていながら、どの口が言う!」

「魔族は魔力なのか? じゃあ、あんたのその霊力とも違う力は?」

「神力じゃ! おどれはそんなことも知らんのか!」

「えっと、一応聞いておくけど、宇宙人との関係は?」

夏樹の問いかけに、ルシファーは大きく首を傾げてから、失笑した。

「おどれは馬鹿か! 宇宙人なんぞいるわけないじゃろうが!」

「まじかー! 謎は深まる一方だ! いや、俺的にはどうでもいいけど!」

ざっくりルシファーと戦ってみて、強いことは間違いない。

夏樹も本気を出していないが、向こうもまだすべてを出している感じではない。

仮に、ルシファーが神族だというのなら、いくつか隠し球は持っているだろう。

(俺じゃなかったら、最初の一発でひき肉だと思うんだけど――おおっ、なんかくるぞ!)

今までの比ではないほど、ルシファーの力が高まっていく。

「おいおい、あんたの立場は知らないけど、ほいほいそんな力を使っていいのかな?」

「ふん。人間の都合など俺が知るか! それに、矮小な人間どもでは俺の力が大きすぎて、気づけんじゃろう!」

「んで、俺と決着つけるってか?」

「当たり前じゃ! 魔族はぶっ殺す! ルシファーさん家の中でも一番の器量よしと言われた俺をボコボコにした報いを受けさせてやるぞ!」

間違いなく頭に血が上っているルシファーの右手に、一本の光の槍が生まれた。

夏樹の中で、彼女の強さの評価が変わった。

四天王級だと思っていたが、魔王に近い力がある。

もちろん、夏樹にはまだ脅威ではない。

「一応、言っておくけど、それをぶっ放したらまずいぞ?」

「知るかぁあああああああああああああああ、ぼけぇええええええええええええええええええええ!」

神力なる力をこれでもかと注ぎ込んだ光の槍を、ルシファーは夏樹に向かって投げた。

一直線に向かって迫り来る光の槍。

さすがに、直撃すれば夏樹も死ぬだろう。

「俺にこの剣を抜かせたことをあの世で自慢していいぞ!」

アイテムボックスから一本の漆黒の剣を取り出した。

夏樹は右手に剣を握ると、無造作に横に薙いだ。

「――くろのつるぎ」

次の瞬間、光の槍は闇の刃に呑み込まれ、ルシファーの胴体は両断された。

さらに、ビルが音を立てて崩れたのだった。