作品タイトル不明
23「お別れの時間じゃね?」
「あー、ごほん。ゆうちゃんも元気になってよかったぜ。とにかく厄介事に巻き込んじまってすまんかった。なによりも、京都の奴らを追い払ってくれたことにも感謝しかねえ。ありがとうな」
「いいってことよ」
「はははは。ありがてえ。ところで、なっちゃん」
復活した祐介が、隣に侍らせるろくろっ首と二口女と一緒に、もりもり食事を始めた。
二口女が髪を器用に操って、後頭部にあるふたつめの口に食べ物を運ぶたびに、祐介だけではなく夏樹と千手も拍手する。
そんな三人に笑いながら、ぬらりひょんが夏樹に改めて話しかけてきた。
「うん?」
「安倍さん家の円くんだっけか? その子の亡くなった友達と名前が同じだったんだが」
「千手さんにも突っ込まれたけど、関係ないって。というか、その子は死んじゃっているんでしょう? 俺だったら、俺がここにいないじゃん!」
「ま、そうだよな」
「言っておくけど、俺は昔はどこにでもいる少し可愛らしい少年でしかなかったから。鬼に襲われたらぱっくんだよ」
そもそも論として、京都で亡くなった由良夏樹が夏樹ならば、ここにいないのは当たり前だ。
夏樹は数日前に異世界に召喚されるまで、ファンタジーのファの字も知らない普通の少年だったのだから、霊能力者との関わりだってない。
無論、知らないところで関係があったというのは別とするが。
「おじちゃん的に、そんな都合よく同じ名前が出てくるかなぁって思っちまってな」
「それは確かに」
「妖怪に過去なんかを見通せるやつがいるんだが、見てもらうかい?」
「だから、俺は違うって。そもそも俺の過去を見たら、その妖怪発狂するかもよ? 俺って、今はほら、優しさが溢れるただの少年だけど、異世界でかなりやらかしたんだよねぇ。俺の過去は心に毒だと思うよ」
「おじちゃん的には、そんな経験を積んだなっちゃんの心のほうが心配なんだけどなぁ。あと、優しさ溢れる少年はいきなり股間は蹴らねえよ!」
「やだなぁ、勇者が最初に覚えるのは股間蹴りだよ。次は、相手が気を失うまで顔面を殴るで、その次は、既成事実を作ろうと夜這いをかけた女を蹴り飛ばすだよ」
「嫌な異世界だなぁ。こうもっとゲームみたいに夢や希望は」
「あるわけないじゃん。絶望と絶望と絶望しかなかったよ!」
「ぬらぬら、ドン引き」
ははははは、と軽く笑う夏樹であったが、その強さの代償は夢も希望もない異世界生活だったので、嬉しくはない。
夏樹だってできることなら、異世界で俺ツエーとかハーレムとかしたかった。だが、そんなことを考える余裕さえなかったのだ。
「ま、異世界に行ったら誰だって強くなるさ」
「……ゆうちゃんもゆうちゃんで強いもんな」
「きっと異世界は免許合宿のノリで強くしてくれるんだよ」
「ぬらぬらおじちゃん的には話を聞く限り、そんな楽しそうなノリではないんだけどなぁ」
その後、ぬらりひょんも交えて楽しい時間を過ごした。
トラブルがあったものの、思い返せば妖怪さんたちと楽しい時間を過ごせたものだと満足する。
宴会に盛り上がる妖怪たちを見て、彼らがここでのんびり楽しく過ごすのなら、夏樹は安倍円のように彼らと戦うことはしなくていいと安堵する。
手が出るのが早い夏樹ではあるが、根っこは平和主義だ。
戦わずに済むのならそれでいい。
もちろん、戦うのであれば容赦はしないが。
「なっちゃん、なっちゃん。一反木綿がアップが終わったからいつでも帰れるってよぅ」
「一反木綿さんずっとアップしてたの!?」
「帰り道もなっちゃんと勝負したいんだって言うから、すまねえが付き合ってやってくれや」
「まあ、受けて立ちますけど? 次は余裕でぶち抜きますけど」
「おい、こら! 由良! また俺たちが海に落ちる未来しか見えねえじゃねえか!」
「……また半魚人さんに助けて貰えばいいじゃない! ずるいよ、千手さんと祐介くんだけ半魚人さんと戯れて!」
「戯れてねえよ!」
帰りもレースが決まっていることに、千手が抗議するが、逆に夏樹に文句を言われてしまう。
千手は諦めて、ぬらりひょんから洗ってもらった衣類を受け取るが、「きっとまた濡れるんだろうなぁ」と悲しそうな顔をした。
「よし、俺も準備体操だ!」
ラジオ体操を始める夏樹の背後に、いい感じに酔っ払った妖怪たちが集まり、みんなで体操を始める。
なんとも言えない光景がそこに広がっていた。
そして、
「じゃあな、なっちゃん、せんちゃん、ゆうちゃん! 三人はいつでも顔パスだから、遊びに来てくれよな!」
「もちろんだよ! なんか困ったことあったら、そっちもいつでも声かけてね!」
別れの時が訪れ、妖怪たちに見送られながら、ぬらりひょんと夏樹たちが握手を交わす。
さらに、河童勇者が帰ってしまうことを残念がる河童たちと、夏樹はハグを重ね、再会を誓った。
「猫又のお姉さん、ろくろっ首のお姉さん、二口女のお姉さん、僕は、また、ここに! きます! あなたたちのために!」
「……ま、お世話になりました。土産もありがとうな。大事に食べさせてもらうわ」
妖怪の里で作った団子や、味噌、酒をもらって夏樹のアイテムボックスにしまってある。
千手は間違いなく、一反木綿から振り落とされると確信していたので夏樹に頼んだのだ。
妖怪たちに手を振りながら、夏樹は単独で宙に浮かび、一反木綿に千手と祐介が乗った。
「――またね!」
「さようなら!」
「お疲れさん!」
口々に挨拶を交わしたのが合図となって、夏樹と一反木綿のレースが始まった。
――僅差で夏樹の勝利となり、向島市に到着した。
――なお、千手と祐介は東京湾あたりで落下した。