作品タイトル不明
24「未知との遭遇とかやばくね?」①
「ハンバーガー、シェイク、ポテト、たい焼き、たこ焼き、最高ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
家に帰るまでの時間を潰すため、夏樹は買い食いに走った。
母の料理も最高だが、今まで当たり前に食べることができていた物をとにかく食べたかったのだ。
都、杏、優斗という面倒臭いイベントが立て続けに起きたので、ストレス発散のためのやけ食いとも言う。
「ハンバーガーって、考えた奴天才じゃない? なんでパンと肉を挟むだけでうめーんだよ! さらにチーズを挟むとかもはや狂気だろ! シェイクもたまんねぇ! アイスが飲めるとか、発想が狂ってる! ポテトを揚げるとかさ、うん、割と普通かもしれないけど、指が止まらないのよ。たい焼きとかさ、あんこを生地で挟んだら美味いに決まってるじゃない! たこ焼きとか、考えた奴王様でいいよ!」
とにかく地球の食文化に感動しかなかった。
他にも、ラーメン、炒飯、うどん、そば、冷やし中華、お好み焼き、クレープ、ケーキ、スムージー、ラテ、オムライス、ハヤシライス、ビーフシチュー、焼肉、魚の煮物と食べたいものは山のようにある。
さすがにお腹がいっぱいになってしまったので、日を改める必要があるが、育ち盛りの夏樹は夕食くらい余裕で食べられるだろう。
(異世界のなにが嫌かって、飯がうまそうじゃないことだよね。食事って、生活の基礎じゃん。その食事が絶望的って、異世界終わってるよね? 魔族の方はまだマシだったなぁ。一番美味しそうだったのが木に生えていたよくわかんない果実ってやばくね?)
すっかり思い出と化した異世界を思い浮かべながら、帰ってこられてよかった、二度と行くか、金くれても行かない、などと心の中で吐き捨てて自転車を漕ぐ。
近所のお兄さんのお古の自転車もこれでもかというほど快適だ。
異世界では、馬車移動が多く、尻が痛くなって辛かった。
天馬を捕獲してからも、空を飛んでいる癖に揺れる揺れる。結局、自分で飛んだほうが快適だと気づいたのだが、集団行動中や凱旋などではそうもいかず尻を痛めるはめになった。
(そういえば、天馬も元気にやってるかな。魔王の娘にあげたけど、ちゃんと世話をしているんだろうか? 試してないけど、天馬ってめちゃくちゃ美味しいらしいからなぁ。まあいいや!)
「そろそろ帰ろっかな。――って、あれ?」
商店街を抜けて、自宅に向かって路地を進んでいた時だった。
――周囲から人の気配が消えた。
民家は並ぶが、耳を澄ませても生活音が聞こえない。もちろん、声も、犬や猫の鳴き声も、カラスのやかましい声すらない。静寂の世界だ。
(俺だけ切り取られた感じ? 結界とはちょっと違う。なんだこれ?)
少なくとも魔力や霊力を感じなかった。
敵意も感じないが、敵意なく攻撃できる者はたくさんいるし、夏樹も敵意を抱かず相手を殺すくらいできる。
自転車を止め、警戒しながら周囲を見渡していると、ふ、と視界の中に『何か』がいた。
「――え?」
『それ』は電柱の陰にいた。
薄暗くなり電灯が道路の一部を照らしている。
その中に『それ』はいた。
「――え? え?」
小柄な人型だった。
しかし、あきらかに人ではない。
百六十センチ台半ばの夏樹よりも少し背丈は小さい。おそらく百五十センチないだろう。
頭は大きく、手が長い。それでいながら、足は短く胴が長かった。
目を引くのは、感情が何も籠らない、顔の大半を覆う大きさの真っ黒な目。
「いや、あの、さすがにこれは――」
見ていると吸い込まれてしまいそうな目も気になるが、なによりも印象に残るであろう、灰色の肌だ。
全裸なのか、全身タイツなのかわからないが、とにかく灰色なのだ。
異世界で魔王もドラゴンも倒し、神さえ倒した夏樹でさえ、本気でビビった。
――なにせ『それ』は俗に言うグレイと呼ばれる宇宙人だったのだ。
「コンニチハ、チキュウノセイメイタイヨ。ワタシハ、キミタチガ、ウチュウジントヨブ、セイメイタイダ」
「――未知との遭遇!?」
異世界帰りの勇者は、ファンタジーを通り越して宇宙人とコンタクトしてしまった。