作品タイトル不明
90「千手さんは向島市の勇者じゃね!?」②
――時間は少し遡る。
七森千手は居候の虎童子と、朝から「千ちゃんあーそーぼー!」と突撃してきた父七森康弘と三人でスーパーにいた。
「――――っ」
「どうしたの、ダーリン? 急に何かを感じ取った強者みたいな顔をして?」
「どこかで俺のツッコミが求められている気がする」
日用品と食材をカートに入れていた千手は、手を止めて神妙な顔をした。
「ダーリン、いくらなんでもそれは……というか前にもそんなこと言っていた気がするんだけど。もう職業病みたいになっているんじゃない?」
「俺のツッコミは職業じゃねえよ」
「……ツッコミで喉を痛めても労災降りないもんね」
「悲しいこと言うな。というか、嫌な予感がする」
霊能力者である千手は己の直感を大事にしている。
その直感が「これから面倒なことが起きる」と告げている。
「やべえ、絶対何かが起きるぞ。間違いなく由良関係だ!」
「ダーリン? 由良夏樹って今日、学校休みじゃなかったかなーって、とらぴー記憶しているんだけど」
「だからイベントが起きるんだ!」
「休日なのに!? 今日日、中学生が午前中から活動しないんじゃないかなってとらぴー思うんだけんどなぁ。むしろ、散々イベントばかりだったんだから、休日ぐらいのんびりしない?」
「甘いな虎童子。お前が、こっそりカートの中に入れた高いアイスクリームよりも甘いぜ。由良レベルになると、イベントだって向こうからくるぜ」
「もうそれって呪いじゃん!」
虎童子は震えた。
毎日毎日これでもかとさまざまなイベントを休みなく体験している夏樹に休みがないのか、とちょっと可哀想になった。
「ねえねえちょっと、千ちゃん、とらぴー、聞いてよぉ。急に草履の鼻緒が切れちゃったんだけど。何か悪いことが起きないといいなぁ」
康弘がお菓子とビールを持ってしょんぼりしながら歩いてきた。
手にしていた物をカートの中に入れると、鼻緒を応急処置しようとハンカチを使うが、びりっ、と音を立ててハンカチが破れた。
「…………パパ、気のせいかな。とても悪いことが起きそうな気がする」
「奇遇だな、親父。俺もちょうど同じことを思っていたぜ」
「とらぴーも」
次の瞬間、なぜか黒猫が数匹千手たちの前に現れて「にやぁ」と鳴いた。
千手たちは顔を見合わせる。
「やべえ。早く会計して家に帰るぞ。鍵をしめて毛布をかぶって立て篭もるんだ!」
千手がカートを押そうとした時、スマホが鳴る。
はぁ、はぁ、と千手たちの呼吸が荒くなった。
じっくりと一分、着信音を聞きながら、ゆっくりスマホを手に取りディスプレイを見ると「月読先生」と名前が表示されていた。
千手が通話をタップする。
「はい」
「……大変申し訳ありませんが、あなたの力が必要です」
月読といくつか言葉を交わし、通話を切った千手はその場に崩れ落ち、叫んだ。
「――Oh jesus!」