作品タイトル不明
間話「銀子さんのお友達じゃね?」
由良家の茶の間で、青山銀子は同人誌を広げ物思いに耽っていた。
「……おどれはなんちゅーエグい描写が表紙から全力で描かれた同人誌を茶の間に持ち込んどるんじゃ!」
銀子の奇行に全力で突っ込んだのは、天使のルシファー・小梅だった。
夏樹が学校に行っている間は、比較的暇なふたりはなんだかんだと一緒に行動している。
ただ、みんなの憩いの場である茶の間にえぐい内容の同人誌が広げられている光景は異質であり、言動はやんちゃだが常識はある小梅が顔を引き攣らせたのは仕方がないことだった。
ーー内容は、描写することはできない。
「いえ、ぴっちぴっちの高校生時代を思い出しちゃったっすよ」
「ぴっちぴっちとか最近の高校生は使わんじゃろうて。おどれはいくつじゃ!?」
俗に言う死語を使う銀子は、残念だが令和の時代にJKをしていたとは思えない。
「ぴっちぴちなんです! 私と照子ちゃんが同人誌を描いていた頃、必ず読んでくれた友人がいましてね」
「ほう。さぞかし癖のある小娘だったんじゃろうな」
「そうっすね。同好の士であると同時に、意見がぶつかり合うライバルのような存在っす」
「ほうほう。あ、ええぞ。詳しく説明せんでええからな」
興味がないと言い切った小梅は、煎餅をかじる。
だが、聞こえてなかったのか銀子は遠い目をしながら語りはじめた。
「私は人間の男の子と男の子が好きで、なんなら少女のように可愛らしい男の子が好きなんっすよ。夏樹くんはまさに理想っす」
「俺様、せんでええと言ったんじゃがな!」
「しかし、彼女は人外の男の子ではないと駄目だというこだわりがありまして」
「聞いて!?」
「放課後、照子ちゃんや他の同好の士とみんなでハンバーガーショップで遅くまで熱く語り合ったものっす」
「営業妨害も甚だしいじゃろう!」
よく営業妨害で訴えられなかったものだ。
もし小梅がそのハンバーガーショップでバイトしていたらドロップキックを喰らわしている自信がある。
「作品の登場人物について語り合った時、人間の少年でいいところを、執拗にエルフの少年にしたいとこだわる子でしたっす」
「どーでもえぇえええええええええええええええ!」
「彼女の好きな作品はこれっす!」
「見せんでええんじゃがのうぉおおおおおおおおおお!」
ぐいぐい、と同人誌を押し付けてくる銀子に小梅は心底嫌そうな顔をした。
人の趣味に口を出す趣味はない。
夏樹の美脚趣味、競泳水着趣味、鼠蹊部趣味、こっそり黒ギャル趣味も「思春期じゃのう」と微笑ましく思っている。
しかし、こう思いきり趣味を全開にされると困る。
「川崎沙也加さん。小学校の教師を目指して大学の教育学部に進学したと聞きましたけど、元気っすかねぇ」
「あかんじゃろぉおおおおおおおおおおおおおお! 小学生にとって危険人物がおるぞぉおおおおおおおおお!」
小梅が保護者であれば、絶対に通わせたくなかった。
いや、逆に安全なのかもしれない。
小梅が知る限り、この世界にエルフはいない。
つまり、川崎沙也加なる者が、大好きなエルフに遭遇することはないのだから。
唸る小梅に、銀子がカラカラと笑った。
「なあに言ってるっすか、現実と妄想は別っすよ。我々はきちんと訓練されていますから」
――銀子が沙也加と再会するまで、あと少し。