作品タイトル不明
42「警棒と麺棒って似てね?」②
基本的に、由良夏樹は善意には善意、悪意には悪意を持って接する人間だ。
魔族アマイモンのように敵対しながらも、愚直に真っ直ぐ向かってくる相手には真っ直ぐ向き合う。
綾川杏にしても、反省し、新しい道を進んだのであれば、過去に対してどうこういうつもりはない。
そのくらいの度量はある。
だが、戦う相手に敬意もなく、相手の力量を見極められないとはいえ、中学生を襲撃し攫おうとする発想の持ち主を心から嫌悪する。
行動した者ももちろんだが、指示をした者は、嫌悪を通り越して殺意さえあった。
■
「なんなんだ、お前は! 由良夏樹を捕らえたのか、捕らえていないのか、それだけのことを答えるのにくだらん問答を繰り返すな!」
「――由良夏樹の身柄は俺が預かった」
「な、に?」
一登、杏、すみれが吹き出したが、必死で口を押さえて電話越しの加座間吉座に聞こえないように耐えた。
夏樹が夏樹の身柄を預かったと真顔で言っているのだ。
見ている側からすると何の冗談だ、と笑うしかない。
「由良夏樹の身柄は俺が預かった。俺は、お前に雇われたはぐれ共じゃない。いい加減に気づいたらどうだ?」
スマホの向こう側で「ぎりぃ」と歯を食いしばる音が聞こえた。
「――何が、目的だ。由良夏樹は無事なんだろうな?」
「いや、攫うように命じたお前が心配するんかーい!」
つい突っ込んでしまった。
一登は口を抑えて、地面に倒れて笑っている。
杏とすみれも、まさか「攫え」と命令した人間が攫う予定だった人間の身を案じていることに笑うしかない。
「心配も何も、殺したら利用ができないだろうが! いくらこちら側にいるとはいえ中学生を殺す趣味はない! せいぜい、その手の子供が好きな奴に売るくらいだ!」
「死んだ方がマシじゃない?」
「生きていればきっといいことがある!」
「お前が言うんじゃえねえよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
もっともである。
「黙れ! この誘拐犯め! 由良夏樹の身柄をこちらによこせ。金が目的なら、応じよう」
「羽振がいいな」
「はっ、こっちは新しいビジネスを始めるからな。商品待ちの客から前金をもらっているんだよ。いや、それはどうでもいい。そうだ、こうしよう。使えない無能でもはぐれ共を出し抜いたのであればさぞかし力がるのだろう。俺に付け」
「あん?」
「これからのビジネスを展開するにあたり、護衛を探していた。どうだ? 稼がせてやるぞ」
「いいねぇ」
「話がわかるようでよかった。だが、由良夏樹の身柄は渡して欲しい」
「仕方がない、いいだろう。お前が雇ったはぐれ霊能力者はどうする?」
「なんだ、死んでいないのか?」
「俺は殺しをしない主義なんだよ」
「ふむ。だが、殺してくれた方が助かる。金を払わないでいいからな」
「……それが望みなら、あんたへの挨拶がわりこっちで処分しておくが?」
「気前がいいな。では、頼む。どうせ訳ありでまともに表で生きることができない奴らだ。死んだところで悲しむ人間はいない」
「そう言うことか。ま、いいさ。それで、落ち合う場所は?」
「その携帯に現在地を送る」
「…………オッケー、来た来た。ああ、大学の近くの廃墟ビルにいるのね」
「そういうことだ。では、待っている」
「了解」
通話を切ると、切り捨てられて絶望を顔に貼り付けているはぐれ霊能力者にスマホを投げた。
しかし、受け取る気力もないようで、スマホは地面を転がる。
「――残念なお知らせっていうか、聞こえたと思うけど、殺せだってさ」
未だ正座を崩せない三人は、ボロボロと涙を流す。
もう命乞いさえすることができないらしい。
「だから、なっちゃん、あえて生かそうと思います!」
地面に転がったスマホを拾って、差し出す。
「俺ね、あんたら嫌いだけど、加座間吉座の方がきらーい! だから、あんたたちは殺さない。そう決めた」