作品タイトル不明
8「夏樹たちを見守る人がいるんじゃね?」
――衣料店の店員として働く森吉乃は、店に「向島市の三大悪夢」が現れたことに戦慄した。
(や、やばい! 店が破壊される!)
向島市の三大悪夢、向島市のなまはげ、破壊神、心霊スポットクラッシャー、やばい筋の方でもすれ違う時に地面から視線を動かさない、と名高い由良夏樹が急に店にきたのだから、驚かないはずがない。
(しょ、職場が更地になる……きっと燃やされるんだわ)
吉乃はこれから起きる惨劇に、逃げようと入口の方に向かう。
音を立ててはいけない。
万が一、こちらの気付かられてしまったら、殺られてしまう。
吉乃は緊張に汗を浮かべた。
(――あら?)
逃げようとしていると、不意に気づいた。
夏樹がひとりではなく、誰かと一緒だった。
(しっている顔じゃないわね)
夏樹とよく一緒にいるのは、向島市の良心と名高い三原一登だ。
彼の兄は最低最悪の悪魔のような少年だが、一登はまるで天使である。
こっそりとファンが多く、ファンクラブもあるほどだ。
(なんてお顔の良い子なのかしら……って、ボーイッシュな女の子かと思ったら、もしかして男の子!? あ、やば、めっちゃ好み! 高校生かしら、さすがに私があの場に行って声をかける勇気は……ないわねぇ。そんなことしたら、なまはげに腹を斬られて内臓引き摺り出されちゃうわ)
吉乃の中の夏樹は本人が聞いたらびっくりするほど恐ろしいようだ。
(――っ、あの子、動作のひとつひとつが上品ね。さぞ名家の方と見た! いいえ、それよりも、あの子のなまはげへの視線、仕草、表情……友達というレベルじゃないわね。これは……推せる!)
くわっ、と目を見開いた吉乃はなまはげが怖いが、少しずつ距離を縮めていく。
耳を澄ます。とにかく、聴覚に集中する。
楽しそうに会話をしている様子が微笑ましい。
美少年がなまはげの洋服のコーディネートをしているようだ。
それだけなら微笑ましいのだが、吉乃は見逃さない。
さりげなく美少年がなまはげに進める服は、彼の好みの服であった。
落ち着いた系の美少年の衣服に対し、彼がなまはげに進める衣服は快活系だが、系統的には今はやりのものだ。
おそらく、同じ系統のファッションをしたいのだろう。
(――これだけでご飯三倍食べられるわね)
店員やっていてよかった。
吉乃は心から思った。
(今度、銀子ちゃんと照子ちゃん、沙也加ちゃんに教えてあげないと。きっと喜ぶわぁ!)
間違いないという確信があった。
高校時代の親友たちとはあまり連絡が取れていないが元気でやっていることは知っている。
銀子が警察官になったのは驚いたが、きっと国家権力を利用して悪いことをするつもりなのだろう。
(なまはげとラブラブな美少年。――ふっ、今年も熱くなるわね)
■
「あ! 吉乃ちゃんじゃないっすか!」
「――銀子ちゃん!? うわっ、久しぶりっていうか、隣の子なにすごい頭が割れそうなほど美少女すぎ!」
「……銀子の友達の割には見る目があるのう、俺様はルシファー・小梅じゃ!」
「個性強っ! 嗚呼、こういう子、すごくしゅき!」
「やっぱり銀子の友達は銀子の友達じゃなぁ」
「どういう意味っすか!?」