作品タイトル不明
38「杏も学校に来たんじゃね?」①
昼休み。向島私立第一中学校の屋上で、夏樹と一登は昼食を取っていた。
「え? 一登もレベルアップしなかったの?」
「うん。ていうか、普通はレベルアップしないと思うよ。昨日のレベルアップのほうがおかしいんだって。なんだったんだろう、あの声?」
「さあ。河童大神様の御使様のお声ではなかったよ」
「……う、うん」
なぜか一登が、うわぁ、みたいな目を向けてきたが、その意味がわからず夏樹は不思議そうだ。
「一体全体、俺のレベルって幾つなんだろう?」
「異世界でレベルアップしたことないの?」
「ないよ」
「経験値的な意味だったら、魔王さんとか四天王、魔神まで倒しているんだよね」
「うん。魔神は確実に殺しているし、経験値的には普通すごいよね?」
「ゲームなら、そう、だね」
「なぜだろう。あ、でも、よく考えたら昨日もレベル上がってないんだよ。よくわからない謎の声が、レベルを上げようか悩んでいるって」
「それはそれでおかしくないかな!?」
確かにそうだ。
仮にシステムだったとしたら、人間臭い。
もし、何かの意思であれば、弄ばれている気がする。
「ところで、レベルアップして力が上がったって感覚はないの?」
「うーん。どうなんだろう。俺って、現時点で結構弱体化しているから、上限まで出したのってアマイモンさんとガチバトルした時だけかなぁ」
「……あれ以上強くなったら地球壊れちゃう」
「そういう一登はどうなの?」
「力も何も、俺は戦ってないからね。火輪の剣だって、ゴッド預かりのまま帰ってきてないし」
「……そういえば星槍さんたちもゴッドのところから帰ってきてないな。ゴッドは女の戦いがどうのうこうのって言っていたけど、まだ何かやっているのかな?」
異世界から帰還後、何度か戦ってきたが、やはり星槍さんがいないとキツい。
異世界で今の限界を超えて力を出したおかげで、星槍さんがいなくとも、聖剣を再現できるくらいになったが、もしアマイモンクラスがまた現れたら星槍さん抜きだと勝てる自信がない。
「ま、いろいろ気になるけど、――その前に、いつまでこっちを窺ってるの?」
「え?」
屋上の入り口に夏樹は声をかけた。
一登は気づいていないようだったが、夏樹はとっくに気づいていた。
「別にどうこう言うつもりはないから、こっちに来なよ」
そう言ってあげると、扉を開けて、少し気まずそうな顔をしていた綾川杏が現れた。
「……杏、学校に来ていたんだ?」
「……うん」
綾川杏は、かつて夏樹の義理の妹だった人物だ。
しかし、彼女の言動によって、家族は壊れてしまった。
今は他人だが、和解とまではいかないが、普通に会話するくらいは問題ないくらいになった。
その大きな理由として、彼女が今までの言動を反省し、夏樹に謝罪したからだろう。
後日、彼女の父、綾川誠司と、夏樹、春子と四人で一度会う約束をしている。
「昼は食べた?」
「う。うん」
「そっか」
「うん」
夏樹が声をかけるも、杏はどこかぎこちない。
一登は温かい目で、かつての兄妹を見守っている。
「それで、どうかしたの?」
「えっとね、さっきガープさんから連絡が来たの」
「……あの魔族め、女子中学生の連絡先知っているとか犯罪じゃね?」
「犯罪じゃないと思うけど……」
ガープは、異世界で杏に根気強く説教したり、言動がおかしいと説いたりした魔族である。
アマイモンの忠実な配下として、日々の世話までしていた。
「んで、そのガープがなんだって?」
「アマイモンさんがシャバに出てくるからみんなで迎えに行こうって」
「……そんなムショから出てくるみたいに」
アマイモンも星槍さんたちと同じくゴッド預かりだったので、ある意味出所みたいなものかもしれないが、それでももっと他に言い方がなかったのかと夏樹と一登は苦笑した。