作品タイトル不明
25「ホラーは映画の中で十分じゃね?」②
――じ、じじ、じぃ、じ。
受話器の向こうからノイズが鳴った。
――じ、じ、じ、じじ、じじじ。
ただの不快な音だ。
――じ、じじ、じ、さん、じ、じじ。
気のせいか、少女の声が聞こえた気がした。
――じ、じじじ、さん、じ、じじ、あ、さん、じ、じ。
やはり聞こえる。
少女の声だ。
間違いない。
夏樹は息を殺し、耳を澄ませた。
――ねえ、お母さん、どこ?
「いやぁあああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫した夏樹は、雷を纏った拳で公衆電話を砕いた。
「なにしてるっすかぁああああああああああああああああ!?」
銀子が絶叫する。
「ちょ、これ、始末書ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
はぁ、はぁ、と息を切らした夏樹が銀子に言い訳をしようとすると、まだ握っていた受話器から声が漏れた。
――ねえ、なんで?
「ひ」
――ねえ、なんで、ひどいことするの?
「あ」
――ねえ?
――ねえ?
――ねえ?
少女の声が、責める。
夏樹は、全力で公衆電話に向かって雷を放った。
「いやぁあああああああああああああああああああああああああ!」
また銀子の悲鳴が響いた。
■
「はぁ、はぁ……こわっ! 幽霊こわっ! え? 首なしライダーさんと百メートル競走するんじゃなかったの!? なんでこんなホラー映画みたいな目に遭わないといけないの!? この怒りは誰にぶつければいいの!? 新たな神々? 新たな神々に、怪奇現象の神とかいるの?」
「いや、おどれがこわいんじゃ! なーんで、怪奇現象に向けて問答無用で雷撃っとるんじゃ! おかしいじゃろうて!」
小梅が夏樹の頭に拳を落とす。
鈍い音がして、夏樹がその場にうずくまった。
「ええい、おどれは余計なことせんとこっちへこんかい!」
全壊となった電話ボックスの跡地から、夏樹を襟首を掴んで引き摺り出す。
「だ、だって、女の子が急に話しかけてきたんだもん!」
「急にって、夏樹が電話にでるからじゃろう!?」
「つい!」
「つい、で出るんか普通!?」
「怖かったから、つい出ちゃった」
「意味わからんて! なんで怖いのに、その怖い原因に向かっていくんじゃ!?」
「――勇気がある者と書いて勇者ですから!」
「ただの阿呆じゃろう!」
小梅も怪奇現象に驚きながらも、それ以上に夏樹の言動に驚いていた。
むしろ、夏樹のほうがホラーだと言わんばかりだ。
「ちょっと! ダーリンが!」
「千手さんがどうしたの!? まさか、心霊現象が」
「ううん、公衆電話が鳴った瞬間、気絶しちゃった!」
「嘘ぉ! 千手さん、本当に幽霊苦手だったんだね」
「いや、あたいらからしても、いきなりなった公衆電話に出たお前の方が怖えから」
虎童子でさえ、夏樹の行動がおかしいと言い、星熊童子、熊童子、一登、円も同意するように頷いている。
「あれー?」
夏樹は困ってしまう。
だが、もう安心だ。
公衆電話は消し飛ばしたから、もう怖くはない。
「あのー、夜遅いのであまり大きな音を出したり、騒いだりしないでもらっていいですか?」
「あ、すみませ――」
不意にかけられた声に反射的に謝ろうとして、夏樹は固まった。
思わず二度見した。
一登たちも、口をあんぐりと開けている。
――そこには、首なしライダーがいた。