軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17「魔王でもパパなんじゃね?」

魔王サタンことルシファー・太一郎は泣いていた。

ゴッドに太一郎と名付けられた時も、グレて堕天した時も、魔界統一をかけて長い時間を戦った時も、欧州にこっそり遊びに行ったらいきなり「去れサタン!」と拒絶された時も、泣いたことはなかった。

それでも、今は我慢できずに泣いている。

「まさか、俺が娘の作ったお弁当を食べられる日が来るとはな…………若気の至りで地上を滅ぼさなくてよかった」

「……いや。お弁当を渡しただけで号泣されても私の方が困るんですけど」

由良家にお弁当を届けにきた花子は、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにする父親にちょっと引いていた。

ここ何年か心配をかけた自覚はあるが、まさかこれほどの反応が返ってくるとは思ってもいなかったのだ。

「ちょっと、小梅。ティッシュでも」

「……うぐっ、ぐすっ。お姉ちゃんのお弁当じゃ……見た目と言動は婚活女のままじゃが、俺様にはわかる。心優しいお姉ちゃんじゃと。ぐすっ」

「あんたもかい!」

ルシファー・小梅も父親に負けず号泣している。

「ていうか、婚活女って言わないでくれる!? もうしないわよ!」

「大変っすねぇ、花子さん。どうぞ、ティッシュっす」

「ありがと。ほら、親父、小梅、鼻かみなさいよ」

銀子からティッシュを受け取った花子は礼を言って、父と妹にティッシュを渡す。

ちーん、と父と娘が仲良く鼻をかんだ。

「私にまでありがたいっす」

「いいのよ。みんなに迷惑かけちゃったからね。雲海おばあちゃんが、気持ちを込めてお弁当でもっていってくれたから、初めて包丁なんて握ったわ」

花子はどこか嬉しそうだ。

自分で料理を作る機会などなかったのかもしれない。

また、雲海のように厳しくも優しい言葉をかけてくれながら、最後まで見守ってくれる人も。

「俺は決めたぞ! ――魔王サタンの名において、水無月家を祝福しよう!」

「クソ親父が祝福したら呪いと同じじゃろうて! ここはスーパー天使の小梅様が祝福したる! いや、そうじゃ! ゴッドに電話して水無月家にマジもんの祝福をしてもらうんじゃ!」

「それだ!」

「それだ、じゃねえから! 私がお世話になっているお家に迷惑かけんな!」

花子がサタンの頭頂部に踵を落とした。

「くぺっ……花子、そのすぐに暴力に訴えるところはよくないとパパは思うんだけど」

「魔王サタンに言われてもねぇ」

「そうじゃ! 水無月家が駄目なら、雲海のばあちゃんを祝福すればええんじゃ!」

「――それだ!」

「だーかーらー! 余計なことをするなって言ってんだよ!」

花子は、サタンの側頭部を蹴り、小梅に頭突きをした。

ルシファー兄妹の中で一番攻撃力がある花子の一撃は、手加減しても相当痛いようで、サタンと小梅が揃って呻く。

「はぁ。悪いけど、銀子。私は他にもお弁当を届けるから、このバカ親父と妹を頼んだわよ」

「了解っす!」

「ありがと。あ、そうそう、新たな神々がこの街にいたから戦ったけど、なんか面倒くさそうな奴だったから気にするように夏樹に言っておいて」

「……花子さんが面倒ってやばくないっすか?」

「次は殺すわ。向島市は私が守る!」

「土地神っていうか、守護天使っすねぇ。いや、ありがたい限りっすけど」

「じゃあ、そういうことで!」

花子はそう言い残して、由良家を去っていく。

テーブルの上にリヴァイアサンことリヴァ子の分までお弁当が用意されているのをみて、

「良いお嫁さんになると思うっすけどねぇ」

そんな感想を抱いた。