作品タイトル不明
10「堕天使って聞くと左手が疼くんじゃね?」①
世界が軋む音がした。
「……こやつ、今まで以上の阿呆みたいな力を」
「というか小梅さんの花粉症を取り込んだからってどれだけパワーアップするっすか!?」
「姉貴レベルじゃねえか!」
花粉症の神から放たれる神力が圧迫感となり、小梅たちを襲う。
天使、鬼、鍛えられた身体能力を持つ人間だからこそ、耐えていられる。
一般人であれば、この圧迫感だけで心臓が止まっていただろう。
「私は花粉症の神。新たな神々の中で上位の力を持つ『十天』の三位にいる神だ。たかだか天使と鬼と人間が――私を舐めるな!」
ついに神力の圧に小梅たちが吹き飛ばされる。
だが、小梅たちも負けていない。
吹き飛ばされると同時に、小梅の撃った光弾が女神の肩を貫いていた。
銀子の投げたナイフが女神の腹に刺さっていた。
虎童子が投げた瓦礫が女神の片目を潰していた。
「――お前たちの限界はこの程度だ。再生できる傷をつけたところで、どうなる? 私は殺せない」
「言いたいことを言ってくれるのう! ええじゃろう! 花粉症をとっぱらってくれた感謝があったから手加減してやろうと思ったんじゃが、そこまで言うんなら――望み通りに殺してやるんじゃ」
「やってみろ、サタンの娘。魔王を倒すのはまだ早いと思っていたが、娘がこの程度であれば父親も倒せるだろう。ついでだ、由良夏樹も殺す。お前たちは、我々新たな神々の神話に必要がない」
小梅が銀子と虎童子を守るように翼を大きく広げた。
純白の翼に変化が起きていた。
片翼は純白のままだが、もう片翼は漆黒に染まっていた。
小梅の瞳も、片目だけ黒く染まり血の涙が溢れる。
「あら、素敵。知っているわよ、厨二病っていうんでしょう?」
「――じゃからこの姿は嫌なんじゃ。クソ親父よりママの血の方が強いんじゃもん!」
「小梅さん! 自分はアリだと思うっす!」
「褒められてると思ってええんじゃろうな!?」
「モチっす!」
「じゃあ、ええじゃろう!」
小梅が翼を広げたまま拳を花粉症の神に向けた。
「俺様の力は強すぎじゃから地上じゃあまり使いたくないんじゃが、せっかくおどれが擬似空間を作ってくれたんじゃ。思いっきり暴れさせてもらうんじゃ!」
「魔王と夜の女王の娘――ルシファー・小梅。いいわ。その力が神に通用するのか、見せてごらんなさい!」
「ええ度胸じゃ! ここからは小梅ちゃん堕天使モードの時間じゃ!」
小梅と花粉症の神が、同時に仕掛けた。
神力を圧縮した剣を握り振り下ろす花粉症の神に対し、小梅は徒手空拳のまま突っ込んでいく。
「今のあなたは神力じゃなくて魔力なのね。さっきみたいにどちらも同時に使えないのは未熟な証拠」
「手加減しとるだけじゃ!」
「負けず嫌いなところは、嫌いじゃないわ」
小梅の腕が剣を弾いた。
まるで盾のような強度を持ち、それでいてそのまま振るえば打撃系の武器だ。
ただ無作法な拳が女神に放たれる。
剣で受け止めるが、身体が浮いてしまい吹き飛ばされた。
「――くっ」
空を飛べる女神にとって、宙で戦えないことはない。
ただ、戦いにくさはある。
「踏ん張りがきいてないのう!」
背後から声がした。
意識を外していないのも関わらず、小梅をいつの間にか見失っていたことに女神が驚く。
とんとん、と肩が叩かれ、嫌々振り返ると頬に拳が突き刺さる。
――が、耐えた。
二度も三度も吹き飛ばれてたまるか。
「――光よ在れ」
「堕天モードと言いながら、天使の力を」
花粉症の神を中心に、百を超える羽根が浮いていた。
一枚の羽根に、かなりの力が込められている。
矢のように飛んでくるのか、爆発するのか、それによって対応は変わるが捌けない数ではない。
「――光よ」
羽根が二百になった。
「光よ」
三百。
「――光よ、光よ、光よ、光よ」
「なによ、それ」
瞬く間に千を超えて万に届いた羽根が花粉症の神を埋め尽くした。
「――――在れ」
小梅がゆっくり手を握ると同時に、万を超える羽根が花粉症の神に殺到する。
刺さり、貫き、抉る。
身体中に羽根が四方八方から矢のように襲い掛かり、最後に爆発した。