作品タイトル不明
7「敵討ちじゃね?」②
――花粉症の神は苛立っていた。
(……まずい、この女……天使の中でも相当、強い。一撃一撃に、バカみたいな神力が注がれている……このままだと殺される)
神であっても不死ではない。
新たな神々でも、古き神々でさえも例外はない。
名前だけしか知らない不死の神だけは、その理から外れていると聞くが、信じてはいなかった。
いずれ死ぬ。
神も、人も、この星でさえも。
「いい加減にしやがれ!」
神力を全身から放出させて、花粉症の神は天使――ルシファー・小梅を吹き飛ばした。
だが、小梅は翼を大きく広げると、神力の圧に耐えた。
「俺様よりも神力は上じゃが、使い方が雑じゃのう! お酒様を殺した以上に、夏樹を狙いにきたのはわかっとる。せっかく当たり前の日常を謳歌しようとしとったのに水を差すのはいくらなんでも見過ごせん」
小梅の片目が黒く濁った。
「おどれら新たな神々などどうでもええが、殺す。俺様は夏樹の家族じゃ。ならば、敵であるおどれは殺す」
「殺意が高いわね! だけど、こっちも部下を殺されているのだから引くにひけないのよ!」
「知るか!」
振り上げた拳に魔力が宿る。
神力と魔力。
相反する力が、混ざり合い更なる力となった。
「死ねやぁああああああああああああああああああ!」
轟音がするほどの一撃をもらい、花粉症の神の顔面が潰れた。
幸いなことに、脳が破壊されなかったので思考は低下していない。
放っておいても勝手にある程度は回復するので、鼻から喉にかけてが潰されても、死ぬほど痛いだけであって死ぬことはない。
不便な身体だ。
「はぁっ、はぁ……」
よほど無理をして力を使ったのだろう。
小梅が魔力と神力を合わせたとき、花粉症の神の力を一瞬だけだがはるかに超えた。
その力を維持できていれば、殺すことができただろう。
「――残念ね」
身体を再生した花粉症の神は、攻撃することはしない。
ただ、己の力を放出した。
「……なん、じゃ?」
小梅が涙を流し、咳き込み出す。
何が起きているのかわからず、混乱していた。
「私は花粉症の神。あなたに花粉症の症状を全力で楽しんでもらっているわ。でも、驚いた。天使も花粉症になるのね。でも、おかげでもうさっきまでの攻撃はできないでしょう?」
「お、どれ」
翼を展開することもできず手をつき、涙を流しながら睨んだ小梅の顔を蹴り上げた。
「そのまま倒れておきなさい。後回しにしてあげる」
「じゃあ、次は私の番っすね!」
青山銀子が短剣を構えて降ってきた。
「あなたには腕の借りがあったわね、飲んだくれ!」
「今はシラフっす!」
銀子が短剣を投擲する。
まっすぐに襲いかかる短剣は神の身であれば、避けるに容易い。
「なにを」
「もういっちょ、っす!」
袖から短剣を取り出し、再び投擲する。
だが、やはり脅威ではない。
「この程度のこと――で?」
短剣を避けたと同時に、何かが眼前で光った気がした。
背筋が寒くなり全力で潜るように回避する。
短剣と短剣が地面に刺さる。
花粉症の神が振り返ると短剣と短剣の間に限界まで細くしたワイヤーのような何かが結ばれていた。
「目がいいっすね。これ初見でみんな首がすぱーんって愉快なことになるっすけど」
「……怖い女ね」
「あははははは! お酒の恨みは怖いっすよ! 春子ママさんが喜んでくれると思って買ったのに、人の心を踏み躙るような神様はいらねーっす」
「単に酒が台無しにされて怒っているだけでしょう?」
「それもあるっすけど、基本的になんでも無駄にされたら怒るっす。よかったっすね、お米じゃなくて。もし、あんたがお米を地面にばら撒いていたら日本中の主婦という主婦を敵に回していたっすよ」
「……はぁ?」
「昨今の米の高騰を知らんっすかぁああああああああああああああああ!」
急にキレた銀子が袖からナイフを取り出して突っ込んでくる。
「よくわからないけれど、あなたも痛い目に遭わせてあげる。くらいなさい!」
花粉症の症状を与える力を放ち、花粉症の神は勝利を確信した。
小梅は父親が魔王サタンであり、母親が夜の女王リリスであることが判明している以上、殺すことはできない。今、無駄に敵を増やすことはしたくないのだ。
だが、銀子は違う。人間風情など大した問題ではない。
――しかし、銀子には何も変化がなく変わらず突っ込んでくる。
ナイフが頬を深く切り裂き、さらに新しいナイフを袖から抜き取ると、腹部に突き立てられる。
「――な、ぜ」
腹に刺さったのは、神を傷つけることのできる何かしらの儀式を施したナイフだった。
手当たり次第に武器を抜いていると思ったが、きちんと考えているのだ。
「なぜ、花粉症の症状が、出ない?」
影響を受ける前に無理やりナイフを引き抜く。
ダメージは大きいが、困る傷ではない。
「そういえば、花粉症の神とか言ってたっすね。小梅さんの状況を見て察するに、能力は花粉症の症状を与えるのではなく、持っている症状をこれでもかと引き上げ、もしくは倍増させるんでしょうね。しかし、私には全く効かないっす!」
「――まさか」
銀子は思い切りドヤ顔をした。
「この美少女であり壮健である銀子ちゃんは――花粉症などないっす!」