作品タイトル不明
56「デートイベントとか都市伝説じゃね?」①
「おはよーございまーす」
土曜日の朝。
夏樹は久しぶりにゆっくり起きた。
夢に何かが出てくることもなく、叫んで起きることもなく、優雅に二度寝をしてしまったのだ。
さすがにもう十時なので、ベッドから起き茶の間にくる。
「おう、おはようなんじゃ!」
「小梅ちゃんおはよーってみんなは?」
茶の間を見渡すと、小梅以外誰もいない。
「銀子は警察のお偉いさんの父親に報告に行っておるぞ。春子ママさんはクソ親父と買い物に行っとる。なんかしらんが、会員制の大型スーパーに行くそうじゃぞ。リヴァ子もついていきよった」
「……なんかお母さん、サタンさんを旦那さんにリヴァ子さんが娘のご家族みたいになっちゃった!」
「行きたかったんか?」
「いーやまったく! 小梅ちゃんは行かなくてよかったの?」
「土産は頼んだからええんじゃ。それに、俺様ほど美少女が人が多いところに行くとスカウトやナンパで鬱陶しいからのう。以前はぶん殴って終わりじゃったが、最近じゃあ動画に撮られて拡散されて社会的に殺されてしまうんでなんもできん!」
「小梅ちゃんは絶世の美少女だもんね。有象無象が群がってくるのはしゃーない」
お世辞でもなんでもなく小梅は美少女だ。
古の女神に美の神もいただろうが、小梅の方が美少女であると確信している。
見なくてもわかる。
比較しなくてもわかる。
何よりも、小梅は美脚だ。
性格だって快活で気さく。ときどき可愛らしいのだから、接すれば接するほどドキドキする。
まだ知り合って一ヶ月未満なこともあり、彼女の魅力は日々発見である。
今だって、元気いっぱいの笑顔で「おはよう」と言ってくれただけで、栄養ドリンクを一箱分の元気をもらった。
異世界で無双した勇者でもこれほどときめいてしまうのだ。一般人が群がってくるのは仕方がないことだ。
「――っ、こ、こら、夏樹! そんな不意打ちのように褒めると、わ、わたくし照れてしまいますわ」
「小梅ちゃんっ、キャラ! キャラが崩れてるよ!」
「――はっ、俺様としたことが! んっ、ごほん!」
昔のお嬢様キャラが動揺したことで出てきてしまった小梅は、慌てて咳払いする。
元気一杯俺様天使が、ときどきお嬢様系美少女を覗かせるのも夏樹的にポイントが高かった。
「あー、なんじゃ。ジャックとナンシーはまた観光じゃ。昨晩、言っておったじゃろう?」
「そういえば、普通列車でどこまでいけるかギリギリを責めに行くって言ってたよね」
「当てのない旅も良いもんじゃとわかるんじゃが、せっかく日本にいるんじゃから観光名所を網羅せいと言いたいのう。個人の自由じゃが」
「当てのない旅か……したことないなぁ」
「家出とかしたことないんか?」
「ふっ、小梅ちゃん。そんなことをしようものなら、お母さんにしばかれるからね。恐ろしくてできないよ」
「……俺様も春子ママさんは怒らせたくないんじゃ」
夏樹としては、母に怒られるのは嫌だと思う一方で、母ひとり子ひとりの家族だったので心配かけることはできるだけしないようにしていた。
周囲は反抗期な子もいるが、反抗する理由がないため夏樹に反抗期は訪れることはないだろう。
普段はやんちゃな夏樹ではあるが、家ではいい子であろうと心がけていた。
「長期休みになったら一緒に当てもなくどこかに行ってみるかのう? あ、やっぱなしじゃ。行く先々でバトルする未来しか見えん」
「そんな馬鹿な!?」
「ありえるじゃろう! 絶対、現地の神や魔族や妖怪、もしくは人間に巻き込まれてラノベ一冊分のイベントが起きるんじゃ!」
「ははは、小梅ちゃん。そんな愉快なことが現実に起こるわけがないじゃない!」
「毎日イベント盛りだくさんなのに、その自信はどこからくるんじゃ!?」
夏樹はそっと小梅から視線を逸らした。
「長期休みのことはまた今度にして、お昼ってどうする?」
「急に話を変えてきよったな。一応、春子ママからお昼代はもらってあるんじゃ!」
小梅が千円札を四枚を広げて見せつける。
「ほほう、これはこれは。ちょっといいもの食べれますねぇ」
「そうじゃのう」
「……そういえば、小梅ちゃんと前に行ったラーメン屋さんが少し早いけど冷やし中華始めたって」
「――出陣じゃ!」
「ははぁっ!」
夏樹と小梅は身支度を整え、少し早い昼食を食べに出かけるのだった。