作品タイトル不明
28「祝福の神じゃね?」③
「いいんですよ、由良夏樹くん。君の心は、今も悲鳴をあげています。強がらなくていいんです」
「強がってねーし!」
「そんな君を私は救いたい」
「だーかーらー!」
話聞かねえ神だ、と夏樹は嫌そうな顔をした。
経験上、こういう奴は会話しているようでできないパターンが多い。
(ぶっ殺したいけど、俺だけじゃ無理だな。ていうか、星槍さんっていつになったら帰ってきてくれるの!?)
相棒がいないのは痛手だった。
「私は、淫魔とは違い慎重に行動する派です。君のことは念入りに調べました」
「へえ」
「君がこの地の神みずちを殺した時から、私は君を知っていました。どんな子なのだろう、味方になるのか、敵になるのか、祝福が必要か、必要ではないか。私は――興信所にお願いして調べてもらいました」
「おおい!? 神様パワーで調べるとかしろよ!」
「神様のお金パワーです」
「こいつなんか嫌!」
「これが、君に関しての資料です。一番、高いお値段でお願いしたので、高かったですよ」
祝福の神は分厚い書類の束を手に持っていた。
「意外と興味深かったです。ああ、もちろん、個人の情報を流したりはしません。君の家に襲撃をかけるなど酷いこともしませんよ」
「そりゃどうも」
「ええ、中学生ですもんね。脚が好きでも、スレンダー女子とかが好きでも、競泳水着が好きでも、鼠蹊部が好きでも、仕方がないことです」
「うぉおおおおおおおおおおい! 言ってる! 今、言ってる!」
「……由良、お前………鼠蹊部もか。いや、まあ、なんとなく察してはいたが」
「千手さん、違うんです。誤解です。おのれ、祝福の神め! そうやって俺を精神的に追い詰める作戦だな! なんて酷いんだ!」
夏樹は今にも血を吐きそうだった。
力なく、崩れ落ちてしまう。
「由良、あんた……ま、まあ、仕方がないわよ、男の子だもんね!」
「そうだよ、由良っち! 俺は背中が好きだから人それぞれだよ!」
「――え?」
森は夏樹に生暖かい視線を向けていたが、片岡のフォローなのか暴露なのかわからない発言に驚きを禁じ得ないとばかりに目を見開く。
「友人たちからの理解がある夏樹くんは少し幸せに近づきましたね。私はこの瞬間、幸福を覚えるのです。誰かを幸せにしたい。それが、私、祝福の神です」
「……よーく、わかった」
「わかってくれましたか」
夏樹は立ち上がり、涙を流した。
雷が夏樹にまとわりつき、音を立てる。
「お前ほど邪悪な神は初めて見た。俺は、お前を絶対に許さない!」
「おい、待て由良! 今戦うのは得策じゃねえ! まずは人質を逃すことが重要だろう」
「千手さん、どいて! あいつ殺せない!」
「いいから落ち着け! 男の子が性癖暴露されたくらいでキレてんじゃねえよ!」
「じゃあ、千手さんの性壁も暴露してよ!」
「…………それはそれ、これはこれだよ」
「裏切りものぉおおおおおおおおおおおお!」
「だあああああああああ! そういうのはいいんだよ! おい、あんた、祝福の神! 戦う気がねえならさっさと消えろ。んで、できれば二度と向島に来るんじゃねえ」
「おやおや、随分と嫌われてしまいましたね。しかし、帰っていいのであれば、帰らせていただきましょう。みなさんに心からの祝福を。しばし、さようなら」
「――いいえ、あなたはここでさようならよ」
祝福の神の背後に、いつる・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星が立っていた。
彼女の手には刀が握られている。
「新たな神々とかよくわからないけれど、弟子の敵ならば死になさい」
いつるは音もなく刀を祝福の神に突き立てた。