軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18「千手さんの違和感じゃね?」①

七森千手は、虎童子に腕を引っ張られて向島市を歩いていた。

「らーめん! らーめん!」

「昨日も肉を散々食ったっていうのに、鬼っていうのは食欲旺盛というかなんというか」

目指すのはアルフォンス・ミカエルの食堂だ。

彼の店では中華ばかり頼んでいるが、和食も美味しい。

虎童子はらーめんを食べたがっているが、千手としては生姜焼きが食べたかった。

「あたいもだけどダーリンだって異世界帰りでいろいろ不調でしょう? そういう時は食べないと!」

「そりゃそうなんだが。限度があるだろうに」

千手の食欲は一般成人と変わらない。

霊能力は、食べる、寝ることで回復するため、食事は大事だ。

厳しい旧家などでは、食べるものに制限されている場合もある。

ただ、千住は食事に関して割と淡白だ。

一日、一食か二食、美味しいものを食べられればいいくらいにしか考えていない。

これは、千手の霊力の燃費が良いことと、回復が早いからだった。

そんな千手でも、慣れない異世界で霊力を酷使したことで霊力も体力も精神力も回復しきっていない。

とくに精神力は昨晩、七森家当主であり千手の父親の七森康弘が来たせいもあるだろう。

「ほらほらダーリンったら、早く行こうぜ!」

「あ、ああ」

不意に千手の視覚にひずみが走った。

「――ん?」

「ダーリン?」

「いや、今、なにか」

何度か瞬きをするが、異常はない。

少なくとも表の世界も、霊的にも何も見えない。

「何か、起きたのか?」

「え? え?」

「虎童子、今、何か感じたか。ギャグじゃなくて、マジだ」

「えっと、何も? つーか、この街は匂いが濃いんだよぉ。神も魔族も妖怪も幽霊も人間も多いじゃん。だから、普通じゃないってことしかわからないかなぁ」

「そうか。いや、気のせいならいいんだ」

そう言って、千手が足を進めようとした時、男女一組の中学生とすれ違った。

再び視界にノイズが走る。

同時に、どことなく硫黄のような不快な匂いがした。

「――っ」

「ダーリン?」

片目を抑えて近くの電柱に寄りかかってしまう。

「……なんだ、なんだ、この違和感は?」

「ダーリン、マジでどうしっちゃったの?」

「あの」

戸惑う虎童子の後ろから、すれ違った中学生が心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫ですか?」

「救急車を呼びますか?」

「あ、いや、大丈夫だ。心配かけてすまん」

「ダーリンったら、急に厨二病発動しちゃって」

「厨二病じゃねえよ! ちょっと目眩がしただけだ。すまんな、せっかくのデート中に」

中学生を安心させるように笑いながら謝罪すると、少年少女は顔を赤くした。

初々しい反応が微笑ましい。

「べ、別にデートじゃ」

「片岡くんと家が近いから一緒に帰っているっていうか」

「……悪い悪い、からかったわけじゃねんだ。俺の知り合いの中学生はやんちゃを通り越してぶっ飛んでるから、ちゃんとした中学生を見てついな」

「ぶっ飛んでるって、そんな由良じゃないんですから」

「ははは、そうだよね」

由良、という名前がでてきて千手は確信した。

この中学生は夏樹と同じ中学校だろう。

「これ、よかったら」

少女はそう言ってスクールバッグからミネラルウォーターの入ったペットボトルを千手に差し出した。

「口はつけていませんから、どうぞ」

「いや」

「体調悪いかもしれないのなら、水分は大事です」

「……ありがとう」

少女の善意を千手は素直に受け取ることにした。

「じゃあ、私たちはこれで。もし目眩がひどいようなら薬を飲むか、病院に行ってくださいね」

「お大事にしてください」

「ああ、ありがとう。また会う時があれば、何か奢らせてくれ」

「ふふ、楽しみにしています」

少年と少女は会釈をした。

千手と虎童子も手を上げて応じる。

「良い子だったね」

「ああ、由良に見習わせたいぜ」

「無理だと思う」

「だよな」

千手は、目に霊力を集中させて少年少女を注意深く視る。

しかし、何も感じない。

霊的なものは一切ふたりについていない。

「気のせい、か」

「やっぱりダーリン疲れているだって。はやくにんにく増し増しのラーメンを食べにいこ!」

「嫌だよ! ニンニクはたくさんいらないから!」

千手はなぜか親切な中学生を気にしてしまう。

何もないはずのなのに、「なにか」気になってしまった。