軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5 帰還石

その後。

トンカツに満足したらしいワイバーンはダズだけではなく私の言うことまで聞くようになった。とはいっても『待て』とか『静かに』とか簡単なもの。

これもトンカツ効果かと思うと、さすが聖女様の伝えたメニューである。

とりあえず、冒険者ギルドではトンカツで野生のワイバーンが捕獲できるか検証しようとしてるらしい。

ダズはずっとお世話になっていた冒険者ギルドから抜けることになった。

あのピンクの髪色の彼女はギルド長の娘さんだそうだ。ギルド職員として王都の本部ギルドで何年か研修をしてきたのだが、ダズや冒険者仲間が言うには『田舎者が都会にかぶれて戻ってきた典型』だそうで、仕事はともかく対人関係は残念らしい。

その娘の状況をわかっていながら何もしなかったこと、あわよくば銀級のダズを結婚で取り込めると考えていたことをギルド長は謝罪してきたが、他所からやってきた冒険者を止めなかったことも含めてダズは許さなかった。

「ナンシーが消えて俺は死にかけた。そんな状況を作った職員を抱えるギルドは信用ならない。育ててもらった恩はあるが、それはそれだ。ただ、銀級の 竜騎士(ドラゴンライダー) を育てたことはギルドの宣伝に使っていい」

そこを落とし所に決別。

そして、結局は私にまで懐いたワイバーンのせいで 竜騎士(ドラゴンライダー) を辞めることはできず、ダズは冒険者のままだ。

竜騎士(ドラゴンライダー) になったワイバーンは繁殖期以外は元の群れや居場所に戻らず、主人と認めた人間が亡くなるまでそばにいるのだそうだ。

ということで冒険者を辞めるから帰れとはできず、面倒をしっかりみなければならない。

そしてワイバーン含めた従魔を養うには冒険者が手っ取り早い。

ダズは私に対してものすごく言いにくそうだったけど、私は私で何度かトンカツをあげているうちにワイバーンに情が移ってしまったので、しかたないよねとなあなあに。

ただ、ワイバーンを飼うには私の実家ではかなり難しい。隣の家が近いし、庭も、家に入ったとしてもワイバーンには狭い。

わりと住宅地なので、飼うには問題ありまくりだ。ワイバーンのためにお隣さんを追い出すわけにもいかないし。

なので、まだミレイさんの叔母さんの家にお世話になっている。

こちらの町外れの土地を買い、ワイバーンの厩舎込みで家を建てているところだ。許可が出て良かった。

もちろん、うっかりでも家畜を襲ってしまったら出て行かなければならない契約だ。

そう説明したら、ワイバーンはしっかり頷いてくれた。え、うちのコすごい。

ダズはここから一番近いギルドに登録し直した。冒険者はソロ活動もできるが、住処の登録をしておかないと連絡のしようがないからだ。

近いといっても馬で二日掛かりなので結構な距離。

でもワイバーンならひとっ飛びなので、あっさりと帰ってくる。

ダズが 竜騎士(ドラゴンライダー) になってから、ほぼ毎日を一緒に過ごせている。

ちなみに、現在ダズが寝泊まりしているのは宿屋。

ワイバーン用の厩舎は粗方できあがり、ワイバーンは屋根のあるそちらに寝ているが、新居は骨組みが組み上がったところ。

結婚は新居が出来上がってからする予定。

家具は持ってきて物置に入れっぱなしの物を使うつもりなので、内装はきっとほぼ実家と変わらない。

夕飯を叔母さんの食堂で済ませて宿に向かうダズを見送るのが最近の日課だ。

ダズは閉店時間まで居座るので、見送りが終わると叔母さんたちみんなにニヨニヨされるのが恥ずかしい。

結婚式は新居の前で挙げるのがこの地域の風習で、いつもより小ざっぱりとしたダズと、生成り色のワンピースの私が並び、集まってくれた人の前で夫婦になることを宣誓。

それを神父様が承認し、新郎は新婦を抱えて家に入って終わる。

その後は食堂に移動してお振る舞いという、お祝いに集まってくれた人たちへの食事会だ。

私たちは新参者なので、ダズは懸命に稼いでくれて、なかなか豪勢なメニューになったと思う。

もちろん私は着替えてトンカツを揚げ、ダズは次々と肉を切り、できた料理を娘ちゃんや弟くんたちが運んでくれた。

ダズの家族は式の前日にはみんなで来てくれて、代わる代わる抱きしめてくれた。おじさんもおばさんも泣いて喜んでくれたので、私も泣いてしまった。

そしてなぜかそこからダズへの説教が。ダズは床に膝をついて座り大人しく言われるがままでいた。

私がいないとわかって実家に駆け込んだダズは、ミレイさんにしこたま殴られたらしい。ここに来たときのあのヨレヨレ具合の半分はミレイさんが原因と知った。強すぎないだろか。

『惚れた女に何も言わずに囲いこむことばかり考えるむっつり野郎は自力で探し出せ!』とミレイさんに蹴り出されたダズは、妻のあまりの暴れっぷりに弟が不憫になったお兄さんにこっち方面の商隊と一緒に出たと手がかりをもらって、その経路周辺の町を手当たり次第にあたったそうだ。

そういえば、ワイバーンのことや結婚準備にばかり気を取られてそこらへんの経緯を聞いてなかった。

改めて嬉しくなったし、私ももっと早く勇気を出せば心配させずにすんだと申し訳なくなった。

でも最後には、まとまって本当に良かったとみんなに喜ばれ、『やっとうちの娘って言えるわ』とダズのお母さんに言われると、涙があふれた。

そして今日、家族なんだからとみんなが給仕係や皿洗いを手伝ってくれて、かなり助かった。

そして食事会が終わり、お客さんがいなくなった食堂で身内だけで酒やツマミでおつかれ会をし、子供たちが眠くなってきたころ。

ダズが洗い物をしてくれているのを確認したミレイさんがこそっと話してくれた。

「そのネックレスね、冒険者が 地下遺跡(ダンジョン) で使う魔道具なの。『帰還石』っていって、使い切りなんだけど、一瞬で地上の出入り口に移動できるんだ。だから冒険者のプロポーズにはよく使われるのよ。『あなたの元に必ず帰る』ってね」

知らなかった。ただのアクセサリーじゃなかった。そして意外なロマンチックさにネックレスを触る。

ダズがそういう意味でくれたのが嬉しい。

ミレイさんもダズのお兄さんにそうプロポーズされたらしい。お兄さんは商人だけど、あちこち買い付けで遠出することが多いので帰還石にしたそうだ。

そんなお兄さんは今いい感じに酔っぱらって、若旦那と肩を組んでなにやらご機嫌に歌っている。愉快なお兄さんをみやるミレイさんの目が優しい。

なんかいいなぁ。

と、にやりとしたミレイさんがさらに耳もとに口を寄せてきた。

「俗なことを言うとね、階層が深くなる毎に値段が上がっていくんだけど、階層毎に石の色が決まってて、ナンシーちゃんのは一番高いらしいよ」

「え、そうなんですか…」

思わず小声になる。だからミレイさんはもしもの時は売れって言ったんだ……一番高いっていくらくらいだろう?

「二百万」

「にっ!?」

「ね。使い切りにえらい値段だよね~。さて、旦那がそろそろ寝ちゃうから私らも宿に戻るね〜、おやすみ〜」

にこやかに去っていったミレイさんたちを混乱したまま見送っていると、食器洗いを終えたダズが調理場から出てきた。

「んじゃ俺らも帰ろうか」

「う、うん」

酒豪一家の叔母さんたちに挨拶をして外に出ると、夜の風がほんのりと涼しい。

「ナンシー……て、手を、つな、繋ぎま、せんか…」

「…照れないでよ…私まで恥ずかしくなるじゃない…」

言いながらダズの差し出した手を握る。それだけなのに、ダズの緊張が伝わってくる。

結婚式で私を横抱きにした時はお互いに照れはしたけれど、普通にしてたのに。

「いや、なんか、初夜か、と思うと、いよいよ緊張して、手に触るのも、勝手、には、できない、というか…」

ランタンに照らされたダズは真っ赤だ。

その様子に、なんだかネックレスの混乱がどうでもよくなってきた。

思っていたより遥かに高価でとても驚いたけれど、気にするところはそこじゃない。

ダズがそばにいる。

同じ家に帰る。

朝まで、その後も、次の日も、いつでも、一緒にいられる。

「…ねぇダズ」

「…ん?」

「今夜失敗してもずっと一緒にいてね」

「ぎゃあ!?」

「ふふふ」

「なんてことを言うんだ!でも絶対だよ!失敗しても一緒にいてよ!」

真っ赤になってオロオロわたわた半泣きのダズに抱きつく。

鼓動が速いのは、私なのかダズなのか。

「うん。ずっと一緒にいるし、ダズがどこに行っても帰ってくるのを待ってるし、遠すぎるところなら一緒に行く」

抱きついてもびくともしない逞しさに安心する。

「だから、こうするのは私だけだよ?」

「なんだよ可愛いな俺を殺しにきてんの最高か」

鼻声で抱きしめてくるダズに、さらに強く抱きつく。抱きしめられる息苦しさもいとおしい。

「よし」

「え、わあっ」

またも横抱きにされ、ダズの首にしがみついたらそのまま歩きだした。

「家まで歩くよ、降ろして。今日は色々やってもらったから疲れたでしょ?」

「全然、むしろ生き返った、ちょー元気」

「またまた」

「帰ったら明日まで寝室から出さないから。そんくらい元気」

「……手加減してね…」

「嫌われたら死ぬからそこは頑張るけど、童貞だから正直どうなるかわからない」

「ええぇ……まあ、初めて同士だもんね。私も頑張る」

耳年増なので色々情報はあるけれど、結局のところ、何が良いかは人それぞれだっていうし。

「あ、でもワイバーンにごはんはあげないと」

「大丈夫。皿洗いの隙に食い物置いてきたから。明後日の朝まで静かにしてろって言っておいたから」

「明後日の朝は言い過ぎじゃない?」

「あー、その後にまたトンカツ揚げてほしい」

「あはは、うんいいよ。あのコのおかげで不安が減ったからね」

「えー、うん?……えー、そうなの?」

お喋りしてるとあっという間に家に着いた。ここまでダズはよろめく様子もなかった。

鍵を開けるために降ろされ、そしてゆっくりとドアを開けてくれ、ダズは当たり前のように手を差し出した。

「改めて。ナンシー、俺の妻になってくれてありがとう。俺の幸せを倍にしてナンシーに返す」

その手に重ねる。

「ふふ、幸せに溺れちゃいそう。でも私も負けないからね。私を娶ってくれてありがとう、ダズ」

そのまま一歩近づき、つま先立って口づけた。

「大好き、きゃあっ」

「せっかく寝室まで我慢しようとしてんのにこれが小悪魔的ってこと?可愛さがおそろしいな!」

「わわあわわ!」

今度は担ぐように抱き上げられ、そのまま階段を駆け上がられた。

階段はちょっと怖かったけれど、なんだかおかしくなってベッドに降ろされても笑い続けてしまった。

このことは後々もダズに言われるけれど、初夜は無事に過ごせたので、結局は笑い話なのである。