軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 -未知への訪問- 09 ミッシェルとの交渉

戦いが終わり、何事もなかったようにヴェルドラがホットケーキ焼きを再開した。

放置されたミッシェルは戸惑いつつも、ヴェルドラに歩み寄る。

そして周囲の子供達が怯えるのを見て、ミッシェルは思い出したように言葉を発した。

「さっきはゴメンなさい。音は全て収集されていたので、ゴミみたいって言うしかなかったの。本当は、貴方達がこんなに美味しそうなものを食べているのを見て、驚いていたのよ」

そう言って謝罪する。

事実だ。

内通者からの定時連絡では、レジスタンスで供される食事は悲惨の一言に尽きる。

そう思っていたのに、ホットケーキである。

ミッシェルが驚いたのも、無理のない話であった。

「クハハハ、そうであろう? お前も一つ、どうだ?」

――同じ物を食べてみせるのが、誤解を解く近道であろう? ミッシェルには、ヴェルドラの言葉がそう聞こえた。

「ありがとう。頂きます」

ミッシェルは迷うように皿を受け取った。

そして試食。

どこから取り出したのか不明なフォークとナイフを用いて、それを小さく切って口に含む。

手本となるような、とても上品な仕草だった。

家庭で作られるようなホットケーキには似つかわしくないはずなのに、何故か絵になる姿である。

「――美味しい」

思わず本音で呟くミッシェル。

それは見た目は宜しくないものの、素朴で懐かしい味をしていた。

都市で出される洗練された食事とは趣の異なる、手作り感満載の一品だったのだ。

そしてミッシェルがホットケーキを食した事で、子供達もミッシェルに対する警戒心を和らげた。

自分と同じ人間であると、親近感を持ったのだ。

そうした空気を感じとり、ミッシェルも小さく微笑む。

それが決め手となった。

美女の笑顔は強烈な効果を持つ。死を覚悟していた者達も、その笑顔で一発で懐柔されたのである。

どうやら本当に戦いは終わったと、皆がそう安堵したのだった。

そうなると、今度はミッシェルの目的がなんなのかと不安に思い始める。

「あ、あのう、ミッシェル、様……? さっきの話ですけど、俺達を粛清しに来た、という訳ではないのですかい……?」

最初にカルマンが、ミッシェルに疑問をぶつけた。

裏切り者とか言っておられましたが、と頭を掻きつつ恐る恐る聞く。

するとミッシェルは、キョトンと首を傾げた。

小さな口に頬張っていたホットケーキを、モニュモニュと味わってから飲み込む。

怜悧な美貌に似合わぬ、可愛らしい動きだった。

ミッシェルは満足そうに表情を綻ばせつつ、チラリとカルマンを一瞥した。

「粛清……?」

少し思案して――

「それね! ヒイラギが騒いでいたのだけど、あの男は大袈裟なのよ。レジスタンスを見逃したからと言って、貴方が裏切ったとは思わない。そんな事を言い出せば、レジスタンスに物資を横流ししていた私の方が、余程に裏切り者と謗られるでしょうし」

――思い出したように爆弾発言をしたのである。

「はぁっ!?」

「物資を横流し!?」

「いやいやいや、ミッシェル様!? それは一体どういう意味で……?」

驚く者達を平然と流すミッシェル。

「そのままの意味よ。そもそも、本当に貴方達を粛清するつもりだったならば、私が出ずに 督戦隊(とくせんたい) を動かしています。今回は寧ろ逆で、貴方達が殺されないように私自ら出向いたの」

ホットケーキよりも重要度が低いとばかりに、事もなげにそう答えたのだった。

これにはレジスタンスの者達も驚いた。

「馬鹿な!? 貴女は帝国のトップだぞ……」

「それじゃあ俺達は一体、誰と戦っていたんだ?」

「信じられん。俺達を騙そうとしているのか?」

等々。

誰もがミッシェルの言葉を信じられず、どう受け取っていいのかわからないのである。

そんな大人達を代表するように、シャルマが前に進み出た。

「私はこの支部を任されている、シャルマと申します。ミッシェル様、質問があるのですが、宜しいでしょうか?」

「構わない。なんでも聞いて欲しい」

気安く応じるミッシェル。

この期に及んで何も隠し立てするつもりなどないのだ。

だがそれは、信用してもらえるかどうかとは別の話なのだが……。

「では、一つ。貴女が今まで物資を流してくれていたというのは、本当なのでしょうか?」

「それは本当です。私としては、本来であれば同じ人類として、手を取り合いたいと考えていました。ですが、それが難しいのが現状の通りです。都市の一つが暴徒に潰された今、都市に住む人間の警戒心を解くのは、非常に困難なのです」

「お待ち下さい。ならば何故、貴女は我等に物資を流すのですか? 都市の守護者たる貴女は、言ってみれば我々の敵ではないですか!?」

「そう思われるのは仕方ないでしょうね。けれど、数の減った人類同士で敵だ味方だと言い合うのは、私には酷く歪に思えるのです。かと言って、難民を全て受け入れる事は出来ない。出来るとすれば、暫くの時を過ごせるだけの隠れ家と、少しばかりの物資を横流しすることだけでした」

「つまり……、都市に受け入れられないが、私共を見捨てるつもりもなかった、と? ならばせめて、そう言って下されば良かったのでは……? そうすれば――」

こんな争いなど起きはしなかったのでは――そう続けようとしたシャルマだったが、その言葉は遮られた。

「そんなのは偽善でしょう!!」

シャルマとミッシェルの会話に割り込むように、リンドウが叫んだのである。

リンドウは怒りに燃える目で、ミッシェルを睨み付ける。

そして、叩きつけるようにミッシェルに言い募った。

「私達にだけ苦労を強いて、自分達は安穏とした生活を送る。それを恥じるでもなく、平然と――ッ!!」

だが、ミッシェルは表情一つ変えず、リンドウを一瞥したのみ。

ミッシェルが相手にしているのはこの場の代表たるシャルマであり、リンドウではないからだ。

「リンドウ、控えなさい」

「しかし――ッ!?」

「命令です。ミッシェル殿と話しているのは、この場の代表である私なのですよ!」

シャルマが威圧を以ってリンドウを黙らせた。

今のリンドウの態度を見てシャルマにも、ミッシェルが口にしていない問題の本質が見えた気がしたのだ。

「……なるほど。つまり、都市側の人間が我々を信用していないように――」

「そう。貴方達も、私達を信用出来なかったでしょう? 罠だと疑い、決して手を取り合う事など出来なかったと思います。何しろ――」

大戦で生き残った者全てが、都市に入るのは不可能だった。

となると、そこには選別が必要になる。

公平さは失われ、大義名分すらなく。

既に都市に住む者と難民、人の命に違いはない。ないからこそ、個々人が持つ才能こそが、選別の理由となる。

では、それを誰が決めるのか?

――神ならざる人の身で、人の価値を選定するなど――

だからこそ、選定基準は単純明快。

既に都市に住む者と、その他。

そう説明しても、納得など得られない。

得られるはずがない。

だからこそ機械化帝国アルムスバイン皇帝は、何も説明せずに強権を発動したのだ。

そう説明してみたものの、意味はない。

納得してもらえるなど、ミッシェルは最初から思っていなかった。

自分でも納得出来ないだろうから、当然である。

「――それが、当時の決定でした。誰も逆らえなかった。納得は出来ないだろうし、貴方達の不満や怒りも理解出来ます。ですが、これが私達にとっての真実なのです」

「理解出来るだと!? 簡単に――」

そこまで言うなり、リンドウは泣き崩れた。

他の者達も、ミッシェルの言葉を聞いて呆然となっている。

それも仕方ないだろう。

自分達が生きてきた苦難の道のり、仲間の死、ありとあらゆる艱難辛苦――その全てを背負わされた事に、明確な理由などなかったと言われたようなものなのだから……。

「それでは何故、貴女は私達を助けようとしたのです? 苦しみが長引く事がお望みだったのですか!?」

「いいや、違う。そこの男が言った言葉に近いが、それは違う。偽善だと思ってくれて構わない。ですが、私はそれを真なる善行に高めたいと思っているのです」

「そ、それは……」

「いずれ、都市もその機能を失うでしょう。その時になって、都市にて安穏と過ごしていた人々では、その先の未来を生き延びる事は難しい。ならば危機管理の観点からも、あらゆる可能性の芽を残しておく事が大切だと思いませんか?」

「つまり、都市が滅んでも私達レジスタンスが生き残ればいい、と?」

「その通りです」

「それは――それは余りにも傲慢な考え方です!!」

シャルマの絶叫にも、ミッシェルは動じない。

自分の行いが正しいと信じる事、それは彼女が軍人となった時から覚悟を決めた事。

それこそが、彼女の正義なのだ。

「では、逆に問おう。当時、どうするのが正解だったというのですか?」

「そ、それは……」

シャルマは言葉に詰まった。

まだ生まれていなかったシャルマだが、それを考えない日はなかった。

この世界を憎み、こんな世界にした原因を帝国に求め、その罪を以って自分達の正義を信じて。

だが、本当に帝国を悪と断じていいのかどうか――それは、シャルマがずっと抱いてきた疑問だったのだ。

「答えられない? 私は断言出来ますよ。当時の対応を間違っていたら、人類は既に滅んでいる、と」

迷いなく、ミッシェルはそう断言した。

「人類が生存する可能性を残したかったから、貴女は私達に助力していたですって? それを信じろというのですか? 帝国の頂点の一人である貴女の言葉を……?」

苦し紛れにシャルマは言葉を濁した。

もはやミッシェルが嘘を言っているとは思えないのだが、それでもこのまま受け入れるには、ミッシェルの言葉が重すぎたのだ。

「うーん、信用してもらえないと、交渉に移れないのだけど……」

困ったようにミッシェルがそう言った時――

「もういいでしょう、ミッシェル様? シャルマさん、リンドウ、俺は帝国側に通じている。黙っていてすまない。だが、これは必要な事だったんだ……」

黙って成り行きを見守っていたザザが、そう口を開いたのだった。

◆◆◆

場が騒然となったが、それはシャルマが一喝して黙らせた。

だが流石に場所を移す事になり、現在は倉庫の一角を手入れした簡易小会議室にて皆が集まっている。

「何故、我も呼ばれたのだ?」

「そりゃあ師匠、師匠が凄いってみんな気付いちゃったんじゃない?」

「ほう? 詳しく!」

「いや、だからね……」

「ラミリス様の言う通りかと。先程の素晴らしい戦いぶり、ヴェルドラ様が本気を出さずともあの凄さです。ワレも感服した程ですし、この場に呼ばれても当然、いや、必然でしょう!」

「ほほう! なるほど!!」

小会議室の一角でそんな会話がなされていたが、それには誰も突っ込まなかった。

ミッシェルだけがヴェルドラ達に興味深そうな視線を向けて、少し不思議そうな顔をしたのみ。

ラミリスとベレッタは顔を見合わせて安堵の溜息を吐き、ヴェルドラは調子に乗って一人御満悦。

非常に平和、なので誰も困らない。

そんな中、話し合いという名の交渉が再開した。

「まず最初に、俺に説明させて欲しい」

そう言って話し始めたのはザザだった。

ザザは大戦前、今は滅びた七番目の都市に配属される予定の兵士だった。

階級は中尉で、二個小隊からなる中隊を任されていたのだが……、着任前に大戦が勃発する。

ザザの家族――愛する妻と娘は、都市ではなく地方の農村部に住んでいた。

ザザは迷った。

既に核の炎に包まれた七番目の都市に向かっても、そこで出来る事など何もない。

ならば――と、ザザは部隊を引き連れ難民の救助に奔走した。

自分の家族も心配だったが、地方よりは都心部を優先的に行動するザザ。

職業軍人としての責務が、家族よりも任務を優先させたのだ。

だがその判断は、ザザにとっての不幸となる。

都心部だけに広がっていた戦火は地方にも飛び火し、世界は核の炎に包まれた。

もはや安全な場所など、都市以外には存在しない。

地方でさえ安全ではなくなり、ザザの家族の生死も絶望的となる。

ザザは後悔の中で、せめて生き残った者達を守ろうと思った。

第六の都市で受け入れをしていると聞き、難民を護送するザザ一行。

だがその時、最悪の悲劇が生まれた。

第六の都市、陥落。

大混乱が生じ、ザザの部隊も騒乱に巻き込まれ戦う事になった。

誰が敵で、誰が味方なのか。

護送していたはずの者達からの攻撃で、ザザは負傷する。

反撃に転じる都市部隊からの砲弾は、ザザの四肢を吹き飛ばし、ザザの部隊は崩壊した。

混沌とした混乱。

死にかけていたザザを助けたのは、都市奪還と治安維持に動いたミッシェルの部隊だ。

そこでザザは九死に一生を得るも、意識を取り戻した時には全てが終わっていた。

そう、全て。

死のう――そう考えたザザに、ミッシェルが面会を求めた。

そして言った。

――捨てるならばその命、私がもらい受ける。帝国の為ではなく、生き残った人々を守る為に、手伝って欲しい――

と。

かなり美化された記憶だが、ザザにとっては大切な宝物となった言葉である。

そしてザザは 機械化兵(サイボーグ) となり、今までミッシェルの内偵として生きて来たのだった。

「とまあ、そんな感じでな。俺はミッシェル様が用意した隠れ家を、さも発掘したかのように見せて皆に知らせていたのさ」

「では、生き残っていた発電装置や生命維持装置なんかも……?」

「ああ、ミッシェル様の子飼いの部隊が、他の誰にも気付かれぬように用意していたのさ。じゃなきゃ、大して故障もなく機械類が生き残っているわけがないだろ?」

「そう言われれば……」

ザザの説明に、思い当たるふしがあるリンドウも頷いた。

そもそも皆の中でも最年長のザザである。

ザザがいなければ、レジスタンスは今ほどの勢力を保てなかったのは間違いない。

大戦当時から生き残っている生粋の軍人、そういう認識であったが、彼がリーダーになっていない事こそが不思議だったのだ。

各支部の状況を見て回り、駄目になりそうな隠れ家が出る前に新しい拠点を見つけてきていたザザ。

幸運だったのさ、とザザは嘯いていたが、こういうカラクリなら納得いくというものだった。

ザザの説明を受ければ、彼の功績がミッシェルからの支援あってのものだと理解する他ない。

つまりそれは、ミッシェルの言葉が真実であるという、何よりの証明となる。

「道理で、な。何故レジスタンスに、俺と全く同じ形式の 機械化兵(サイボーグ) がいるのか不思議だったんだよ」

「チッ、気付いてたのかい?」

「いや、偶然さ。レジスタンスの技術にしては高性能過ぎると思っていたがな、アンタがホットケーキを食べられないと言った時に疑いを持ったのさ」

そしてその後のミッシェルへの対応などを見て確信したのだ、とカルマンは言った。

ザザの外見は人間同様の精緻さであり、とても戦闘型には見えない。

資源に乏しいレジスタンスが、寿命延命の為だけの改造を施す余裕などないのだ。

まして、食事を必要とする強化臓器を使用した新型の改造技術ではなく、旧型の――それもカルマンと全く同系統の改造を施されているとなると……。

この形式は、百年以上前の技術。それも、今でも稼動しているとなると、生身の部分は脳だけとなる最高難度の改造手術だった。

カルマン達がミッシェルの下で手術を受けたのが丁度その頃であり、同じ型であるが故に、カルマンはザザの正体に気付けたのだった。

「そもそもさ、敵の大将を"様"付けで呼ぶあたり、スパイとしては失格よね!」

「それな!」

軽い調子でラミリスが突っ込み、ヴェルドラが笑う。

ザザが頭をかきつつ「面目ない」と言った。

ミッシェルの思惑が読めず、ヴェルドラが無事で安心して、油断してしまったのだ、と。

「馬鹿め。我が負けるはずがあるまい。小者はこれだから……」

「いやいやアンタ! ミッシェル様がその気だったら、本当に俺達は全滅だったんだぞ!」

「だから馬鹿めと言っておるのだ。お前の言い分を聞く限り、その女がここにいる者共を殺す理由がないではないか。であれば、何か目的があるのだろうと考えるのが筋。ザザよ、お前がそれに気付くべきであろう!」

「いや、それはそうなんだが……。まあ、結果的にはいい演出になっただろ?」

そう言って、ザザは誤魔化し笑いするのであった。

◆◆◆

そして話は本題に入る。

ザザがスパイだったという衝撃の事実に驚いていた一同だったが、ミッシェルが一つ咳払いした事で気を引き締めなおした。

「貴方達も都市、そして私に対して言いたい事はあるだろうが、それは一先ず置いておいて欲しい。今回私が直接動いた理由は、都市の内部に不穏な気配を感じているからだ。上層部すら信用出来ず、敵か味方かの判別すらも難しいのが現状なのです。そこで、都市外部に協力者を求めたい。貴方達の方が信用が置けるというのは、とても悲しい皮肉ですけど……」

「ちょっと待って欲しい。都市の内部の不穏な気配? 一体なんの話です?」

「そうですわね。貴女の言い分では、都市の中にも敵がいるように聞こえます。私達レジスタンスの仲間では都市に潜入など出来ませんし、それに成功したという話も聞いておりません。貴女の警戒する敵とは一体……?」

ミッシェルの不可解な言葉に、リンドウとシャルマが食いついた。

ミッシェルはそれに対し、少し思案した後、口を開く。

「そうですね、協力を願い出るのですし、お話しましょう。ただし、この話はまだ内密に――」

そう言って、ミッシェルは語る。

それはザザすらも知らなかった、ミッシェルが向き合っていた"闇"であった。

そもそも、大戦の発端はなんだったのか?

最大の原因は大飢饉の予測であり、爆発するように加速する人口増加にあった。

だがその予測が出なかったとしても、破綻は間違いのない状況であったと言える。

「だっておかしいと思わないですか? 都市に入った者が働かないで済むのなら、都市が完成する度に働く者は減少していく事になる。都市に入れる者は抽選だと公示されていましたが、実際には違った。優秀な者、優れた遺伝子を持つ者から優先的に、五つの都市の住民は決定されたのです――」

ミッシェルの説明に頷く一同。

都市の完成と労働力が反比例する関係にある以上、ある一定以上の都市が完成した時点で、残りの都市を建造する労働力の確保が難しくなる。

決定打となった原因がなんであれ、それはキッカケでしかなかった。

いや寧ろ……。

「――ある程度の優秀な人材の確保が終了した時点で、残りの者を切り捨てたのではないか、私はふと、そんな疑問を抱いたのです」

ミッシェルはそこで一旦言葉を区切った。

そして周囲の反応を窺う。

シャルマは目を閉じて熟慮する。

リンドウは驚きに絶句して。

ザザは薄々疑惑を感じていたのか、黙したままだ。

カルマンは葉巻を咥え、自分なりに情報を吟味していた。

「それは、証拠は……」

シャルマが問うた。

ミッシェルは頷き、答える。

「証拠はありません。全て私の推測です。ただし――」

――ただし。

第七の都市では、防衛部隊の配置は不十分だった。

その上、都市防衛機構は不完全で発動せず、大戦の最初の犠牲となったのである。

第六の都市の難民受け入れ、そしてその結果の陥落。

これにより残り五つの都市は連携し、難民の排除を正当化する風潮が生まれた。

その結果、機械化帝国アルムスバインが誕生する。

増え続けていた人口は一気に激減し、世界中の技術は帝国に集中している。

世界を汚染している放射能を除去出来さえすれば――いや、それすらも……。

――これら全てが仕組まれていたとしたならば?

一つ一つの要素を見れば関連していないように思えるが、全てを俯瞰して見ると、違った状況が浮かび上がって見えるものだ。

余りにも帝国に都合よく、物事が動いていた――

「では!! 貴女は、帝国皇帝が描いた計画だったと、そう仰るのですかっ!?」

驚愕してシャルマが叫んだ。

しかし、ミッシェルは冷静だ。

「証拠はありません。状況証拠としても弱い。ただ、そう考えると全てが繋がって見えるのも事実。ですから私は、内密に調査を進めていたのです」

淡々とそう答えたのである。

そして続けて、

「ですから、信用出来る協力者が欲しい。是非とも、私に力を貸して欲しい」

そう言ったのだった。

………

……

一同は無言のまま座っていた。

どう反応すればいいか、戸惑っているのだ。

協力するとも、しないとも言えずに。

そんな重い空気の中、突然響き渡るのはヴェルドラの笑い声だった。

「クァーーーッハッハッハ! 協力か、良かろう! その帝国とやらをぶっ飛ばそうと相談しておった所だし、丁度いい。当然、貴様も手伝うのであろうな?」

ザザの肩に手を回し、強引に決め付けるヴェルドラ。

「いや、ちょ!? アンタも大概だな……」

困惑しつつ、ザザも覚悟を決めた。

「まあ、俺は元々ミッシェル様に命を捧げた身だからな。それが今生き残っている人類の為になる、そう信じてついて行くさ!」

そう言って、高笑いするヴェルドラにニヤッと笑って見せた。

そんなザザに同調するのはカルマンとその部下達だ。

「ヘッ。そういう事なら、俺達も協力しますぜ。もしも最初から大戦が仕組まれていたのだとしたら、俺が今までやってきた事全てが道化だったってこった。そんなのは我慢ならねえ。そうだろ、お前達?」

「「「勿論でさあ!!」」」

決意は固い、そう思わせる団結力を見せて、カルマン達も協力に同意する。

「どちらにせよ、私達の未来は帝国との協力がなければ成り立ちません。他の支部がどのような答えを出すのかまではお約束出来ませんが、この支部、少なくとも私は貴女を、ミッシェルさんを信じます」

「……そう、ですね。ミッシェル、殿、と繋がっていたからと言って、ザザさんが私共を裏切っていたとは思えない。話を聞いた上での私の判断も、シャルマ様と同じです。貴女を信じますよ、ミッシェル殿」

様々な疑問や不安、その他諸々を一旦棚に預けて、ミッシェルを信じると決めたシャルマ。

そしてリンドウもまた、覚悟を決めたのだった。

「決まったようね! ま、アタシは師匠について行くだけさ!」

だって、怒られるのは師匠一人で十分だしね! と、姑息な事を考えつつ同意するラミリス。

ベレッタの返事は聞くまでもなく、ラミリスの意思に準ずるのだ。

こうして、全員がミッシェルへの協力を約束したのである。

その結果、カルマン達はザザの下につき行動を共にする事になった。

ザザは元陸戦隊所属の中尉だったので、指揮に関して言えばカルマンよりも上位の命令コマンドを有していたからである。

そして、シャルマ達はこの場を離れ、ミッシェルの用意しておいた新しい隠れ家へ向かう事になった。

今はミッシェルの力で上層階を遮断しているものの、最終的には全ての階層を焼き尽くし、レジスタンスは全員処分したと報告するつもりだからだ。

そうしてミッシェルの意思の下、今後の方針を定めていった。

残すは、ヴェルドラ達の役割である。

「遂に我らの出番だな。それでミッシェルとやら、我らにどのような協力を願うつもりだ? 我はこのまま攻め込めばいいのか?」

「ちょ! 本当にアンタって人は出鱈目だな!? このまま攻め込んでも、勝てるはずがないでしょうが!!」

「そうだぜ、ザザさんの言う通りだ。ミッシェル様が味方だとしても、帝国にはまだ三人も 四甲機将(マシーナリーフォー) が残っているんだ。他にも機導将校が多数いるだろうし、勝てる訳がねえ!!」

「そうですよ、ヴェルドラさん。私は戦いは素人ですが、今戦うのは愚策だとわかりますよ。ミッシェル殿が調査した上で、敵を特定するのが先ですとも!」

意気揚々と申し出たヴェルドラを、ザザ、カルマン、リンドウが諌めた。

ミッシェルなど、どうしてこの人はこんなに好戦的なのだろう? というような、疑問を浮かべた表情をしている。

「師匠、流石にさ、このタイミングでそこまで堂々と暴れるのは……」

ラミリスも、慌ててヴェルドラの制止に回る。

間違いなく危険だと思ったからだ。

そしてベレッタ。

流石だった。

「真打とは、最後に登場するものではありませんか? そんなに自分を安売りするのは下策、とワレは愚考致しますが……」

「ムッ!?」

慣れたもので、ヴェルドラの心をくすぐるようなセリフでもって、上手くその心を掌握する。

能力(スキル) に頼らなくとも、その言葉一つでヴェルドラの手綱を握ってみせた。

「最後の最後に敵を見極め、あのミッシェルという女が苦戦したタイミングで助け出す。ヴェルドラ様なら容易い事では――?」

「なるほど、な。ベレッタの意見は聞くべき点がある! 最後に登場して美味しい場面で活躍する訳だな? 基本であったわ!」

いつもそんな事を考えて失敗しているのに、ヴェルドラはそんな事など忘却の彼方であった。

ベレッタの意見を採用し、ヴェルドラはミッシェルに従う事にした。

「それではヴェルドラ殿にも、ここに住む者達の引越しの護送をお願いしたい。地上には危険が多いし、少しでも戦力が欲しい。それに貴方なら、どのような場合でも対処出来るでしょうから」

ミッシェルだけはヴェルドラの実力に気付いている。

それもかなり正確に、自分よりも上の実力なのではないか、とまで考えていた。

だからこそ、敬意をもって一番重要な任務を依頼したのだ。

戦うのは証拠を固めた後、つまりは、非戦闘員の安全を確保してからでも十分に間に合うのだから。

そうしてヴェルドラはミッシェルの望みを聞き入れ、シャルマ一行の引越しの護衛任務に当たる事を承諾したのだった。

方針が決まった後、シャルマがミッシェルに問うた。

「それで、ミッシェルさんの言葉を信じるならば、黒幕は帝国皇帝である可能性が高いようですけど……?」

「それに関しては、現在も内偵を進めています。ですが、先程も言った通り、証拠を掴んではおりません。疑いを持っている事すら悟られたくないので慎重に行動しなければならず、早急に答えはでないでしょうね……」

「なるほど……。ですがミッシェル様、相手は貴女の実のお父上ではないですか。もし本当に皇帝が黒幕だったのだとしたら、貴女は……?」

「父が黒幕だったとして、何か問題でも? 悪を討つ、それを躊躇うなど考えられません」

シャルマの不安、ザザの疑問、それらを断ち切るような強い意思で、ミッシェルは断言した。

何十年も前に疑いを抱いた時点で、黒幕の存在を確認し次第、それが誰であっても倒すと決意しているのだから。

ただし、本当に父たる皇帝が黒幕なのかどうか、それはミッシェルにも答えが出せずにいる。

断罪するにも、それは真実を知ってから。

あくまでも、信用に足る証拠を掴んでから判断する話だった。

そしてその時に備え、レジスタンスの各支部を纏め意思の統一を行う。

――最後に、志願者による戦闘要員を集めるように依頼して、ミッシェルの話は終わったのだった。