軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

184話 対峙する二人

ヴェルグリンドを吸収し、再構築する。

そして何やら忙しそうにやっている 智慧之王(ラファエル) さんを放置し、俺は一隻のみ浮かんでいる旗艦へと転移した。

既に最高速度へと到達しているようで、音速を超えた速度になっていたのだ。追いつけるけど、"ネズミ"の件もある。

さっさと問題を片付けるのが良いだろう。

その船上では激しい戦いが行われたのか、飛んでいるのが不思議な程に酷い有様である。

俺が転移した先では悪魔達が跪き、出迎えてくれた。

一目見ただけでは戦闘の名残は見当たらない。綺麗に怪我も治癒しており、普段と変わらない美しい姿だからだ。

けれど、性能の上がった鑑定眼によると、その存在値に大きな変動があったようである。

進化を強制的に終わらせた後遺症なのか、若干乱れていた魔力が完全に調和していたのだ。

どうやら、今回の戦闘にて何かを掴んだのだろう。良い事である。

何より全員無事で良かったと、一安心であった。

「ご苦労! 皆、無事で何より」

『はは! 勿体無いお言葉。

我等、リムル様の御命令通り、生き残り強さを獲得致しました!』

一斉に頭を下げ、そのような事を言い出す悪魔達。

は? 死ぬなとは言ったが、無茶して生き残れとか言ってないんですけど?

生き残って強くなれとか、どこの戦闘民族だ!?

俺が、そんな無茶振りをするような主だと思われているのが驚きであった。

「ああ、うん。なにはともあれ、無事で何より……」

俺の労いに嬉しそうな悪魔達。

まあいいや。

今後は少し気をつけた方が良いかも知れないが、今は緊急時。それについては、後で考える事にしよう。

俺は思考を切り替え、状況を確認する。

「現在の"ネズミ"の様子はどうだ?」

「クフフフフ。たった今、"ネズミ"が転移装置に到着した模様です」

ふむ。

阻止するならば、今。

ここで"ネズミ"を殺し、その記憶を奪うというのも考えた。

しかし、Aランクを超えた者だと抵抗力が高まるし、魂が保護されていたら記憶を奪うのは難しい。

究極能力(アルティメットスキル) 所有者の魂に至っては、間違いなく奪えないのである。

コソコソ動いている"ネズミ"だが、ディアブロによるとそこそこに強い力を有しているようだ。

軍服の能力の一部も奪った事からも、それは明らかであった。

本当の意味で 能力(スキル) を奪うなら、対象の魂を獲得する必要があるハズ。それをせず、肉体を喰って奪うだけなのならば、劣化した一部しか解析は出来ないだろうけど……

それでも 上位悪魔(グレーターデーモン) 600体によるの空間干渉結界を一部とはいえ破って見せたのだ、厄介な能力者であるのは間違い無かった。

最初の予定通り、皇帝をエサにして背後の者を誘き出す作戦でいく事にする。

禍根は断ち切る。

皇帝ルドラの開放の約束も、必ず果たさねばならないのだ。

「逃げられる心配は無いのだな?」

「クフフフフ。問題、御座いません!」

良し。

俺は方針を定め、命令を下す。

さっさと問題を片付けるとしよう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

"ネズミ"と呼ばれるグラディムに化けた男、ヴェガは、皇帝ルドラを守るふりをしつつ転移装置を起動させる。

後を守るザムド少将と少数の上位魔導師達に頷き、

「先に行く。卿等も速やかに脱出せよ!」

そう心無き言葉を残し、転移にて逃げ出すヴェガ。

当然だが、皇帝ルドラは連れている。

帝都にある宮殿の最奥、転移施設のある部屋へと辿り着くなり、ヴェガが転移装置を破壊した。

薄く輝く神秘的な魔法陣が、ヴェガの力の波動にて吹き飛ばされる。

これで、飛空船の転移装置と帝都は繋がりを絶たれた。悪魔達がヴェガを追いかける事は出来なくなったのだ。

残った者達は皆殺しになるだろうが、そんな事はヴェガの知った事では無いのだ。

ヴェガは一息つくと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

ヴェガは自分の力に絶大な自信を持っていた。

しかし、と、先程の悪魔達を見て考える。獣王グラディムを瞬殺したヤツや、近藤やダムラダと戦っていたような奴等は、正真正銘の化け物だ、と。

獣王グラディムは、魔王をも凌ぐ強者であった。

しかし、自分ならば勝てると考えていたし、実際に戦えばかなりの確率でヴェガが勝利しただろう。

だが、人の身で、仙人級であるヴェガ達の限界を超えて、あの者達は強さの高みに存在していたのだ。

(クソが! 面白くねーな。だが、俺様はまだまだ強くなる。今に見ていやがれ!)

頭が沸騰しそうになりそうな程の激しい怒りが込み上げて来るが、その感情をどうにか抑え込み、最初の命令通り皇帝を目的地へと連行しようとした。

「遅かったね、ヴェガ。皇帝ルドラは無事かい?」

玉座の間にて。

皇帝のみが座る事が許されし椅子に、少年が寛いだ様子で座っていた。

やって来たヴェガを見るなり、気軽に声を掛けて来る。

黒髪黒目で、純日本人風の……

それは、近藤に殺され消滅させられたハズの人物、 神楽坂優樹(ユウキ カグラザカ) その人であった。

その後ろに立つのは、儚げな美少女。

だが、見た目とは異なる最強の勇者、クロエ・オベールである。

クロエは不本意だったのだろう、面白くなさそうに無反応だった。

淡々と契約を遂行した、という感じである。

「ああ、無事だ。頭はイカレル寸前って所だがな。

しかし、魔王リムルは化け物だな。アイツを潰すのは俺様でも厳しいぞ。

ところで、そっちは無事だったのか?

クーデターだの粛清がどうたらだの、グラディム達が話していたが?

アンタは無事だったのかい?」

「無事な訳ないだろ?

こっちは本当、大変だったんだぜ?

クロエにお願いして、万が一、僕が死んだら蘇生してくれって頼んでたのさ。

お陰で何とか命拾いしたけど、本当なら死んでる所だよ。

ま、そのせいでクロエへの 命令(ねがい) は、残り一回になっちまったし……

全部、ダムラダと近藤のせいだよね。

ダムラダにしろ近藤にしろ、実力を隠してたみたいで本当に厄介だよ」

大げさな身振りで、ユウキはヴェガに説明する。

続けて話だそうとして、ふと、ヴェガに目を向け凝視すると、

「あ〜あ、ヴェガ。君、追跡されてるじゃないか」

溜息を吐きつつ、そう嘆く。

そして、ヴェガの背後に手を翳し、

「 消滅念波(イレーザーショット) !」

一撃で、ヴェガを偵察していたモスの分身体を消滅させる。

拳大の小さな、強制的に半実体化させられた悪魔は、抵抗出来ずに消え去った。

「危なかった。もう少しで此処まで追いかけて来られる所だった。

というか、リムルさんの部下達って、何気に物凄く優秀みたいだよね。

油断も隙もあったものじゃないよ。ヴェガ、気を付けろよ」

「あ、ああ。油断した、悪いな……」

肩を竦めるユウキ。

ヴェガも面目なさそうに顔を顰める。とはいえ、本心から反省している様子は無い。

何しろ、何時の間に取り憑かれたのか気付かなかった事が、彼のプライドを踏み躙っていたので、腹の中では怒り狂っていたのだ。反省する余裕などなかった。

忌々しい事に、魔王リムルの部下には油断出来ない者が揃っているようである。

ユウキは場所を移す事にする。

ヴェガとクロエを引き連れ、転移魔法にて場所を移した。

帝都郊外の、死体が安置されている場所である。

ヴェルグリンドが、"紅蓮の粛清"により混成軍団の将兵を拘束し苦痛を与えている場所に、ユウキ直下の精鋭の遺体も安置されていた。

その粛清の炎は何をしても消す事が出来なかったのだが、今になってようやく勢いが衰えてきて、先ほど消えた所であった。

もっとも、兵士達は死ぬ間際の状態であり、役には立ちそうもないのだが……。

帝都に残ったNo.11以下の 近衛騎士(ロイヤルナイト) 達により、 天使之軍勢(ハルマゲドン) の素体として準備されていたのだ。

召喚しただけでは、天使はそこまで脅威とならない。平均すると、"B+"ランクの戦闘力といった所なのだった。

とはいえ、普通に召喚される 上位悪魔(グレーターデーモン) が"A-"ランクなので、人間国家にとっては十分に脅威なのだが……。

上位の魔王には及ばぬものの、"B+"ランクが100万体もいれば、戦力としては過剰な程なのであった。

だが、それはあくまでも対人間国家として考えた場合である。

旧魔王クラスならば問題無かったが、今回の 八星魔王(オクタグラム) は今までとは質も規模も異なる。

故に今回初めて、皇帝ルドラは天使に受肉させる事を試す事にしたのだ。

それは禁忌として今まで実行していなかったのだが、余裕を失い半ば理性が失われかけていたからこそ、 正義之王(ミカエル) の提案を実行する事にしてしまったのだろう。

生きている者と死んだ者、違いを見極める為にも、両方用意していたのである。

この場所はユウキの目的にも合致する。

追跡を断ち切る意味でも、位置を特定しようにも分身は消去したし、これで一安心であろう。

ヴェガはユウキの行動に納得し、そんな事を考えていると、

「ここは、どこだ? 戦況はどうなったのだ……?」

今まで放心状態だった皇帝ルドラが、口を開いたのだ。

まだ意識朦朧としているようだが、じきに覚醒しそうである。

少し予定より早いが、ユウキは計画の次の段階に移る事にした。

ユウキはヴェガに目配せを行い、クロエを伴って素早く姿を隠す。

ヴェガはそれを見て、ユウキの意図を悟った。

幾つか取り決めていたパターンの一つなのだ、と。

納得すると素早く跪き、皇帝へと向き直った。

アクシデントが重なったが、まだ想定内である。

このまま皇帝に 究極能力(アルティメットスキル) 『 正義之王(ミカエル) 』の特殊スキル、 天使之軍勢(ハルマゲドン) を使用させる。

それが、取り決めてあったヴェガの役目であったのだ。

ユウキはヴェガが理解していた事に安堵した。

(アイツ、馬鹿だから忘れてるかと焦ったよ……)

自分が評価していたよりも、ヴェガにも知能と呼べるものが備わっていたようだ。

力自慢だったが、ヴェガを上回る者を目撃し、少しは考えるという事を覚えたのだろう。

ともかく、作戦は上手く行きそうだと胸を撫で下ろしたのだった。

ヴェガは、ユウキの思惑は詳しく聞いてはいない。

しかし、皇帝に能力を使わせる事で、本作戦は終了する。

今回のクーデターからの一連の作戦におけるヴェガの役割は、皇帝ルドラに 天使之軍勢(ハルマゲドン) を使用させる事こそが最終目的だったのだ。

まあ、その役割は実際にはユウキが行う筈だったのだが、クーデター計画が狂った場合はヴェガが引き継ぐ事になっていた。

ユウキが死んだ事になっているのなら、ヴェガが実行するしかないのだ。

本来の予定では、ルミナス討伐を終え、ギィとの最終決戦前になるという予想だったのだが、幾つもの不測の事態が重なり計画の前倒しが可能となったのだった。

「陛下、ご無事でしたか! このグラディム、心配致しましたぞ!」

ヴェガはグラディムを演じつつ、皇帝へ状況を説明した。

軍は壊滅し、近藤、ダムラダといった 近衛騎士(ロイヤルナイト) 達を除き全滅した事。

ヴェルグリンドが時間稼ぎをしている中、何とか皇帝を連れて逃げて来たのだ、という考えておいたシナリオを。

「何だと!? ダムラダやヴェルグリンドはまだ戦っていると申したな?」

「はい、陛下! 近藤殿やダムラダ殿も、まだ死闘を演じておるかと……」

「――であるか。では、手遅れになる前に、救援に向わねばなるまい。

天使を召喚する。準備せよ!!」

「ですが、陛下……!!」

止める素振りを見せつつ、 兜面(ヘルム) の下の顔に嗤いを浮かべるヴェガ。

どうやって皇帝に天使召喚を行わせるか思案していたが、どうやら上手くいきそうである。

もう少しで計画は完了すると思うと、自然と笑みが毀れてきた。

だが、それは余りにも甘い考えだったのだ。

「あら? それは困りますわね。――それに、救援は既に不要ですわ。

だって、あの方達、既にお亡くなりになっていますもの」

ヴェガの耳に、美しい声が響いた。

まさか! ヴェガは、今浮かんだ自分の考えを否定しようとする。

だが、その行動を嘲笑うかのように、

「おい、お前。よくも邪魔してくれたね?

お前如きの命では贖えないが……

精々苦痛と恐怖の叫びでワタシの心を癒してくれたまえ」

まるで気配を感じさせずに、唐突に背後に何者かが出現していた。

そして、自分の頭に突きつけられた銃口の感触に気付く。

兜面(ヘルム) 越しだというのに、何故かハッキリと感じられた。

「ま、待て!」

「恐怖に囚われて後悔するがいい! " 怨嗟恐呪縛獄(リゼントメントフィア) "!!」

魂すらも喰い尽す、餓鬼の群れによる終わることのない責め苦。

対人精神攻撃魔法の最高峰の魔法を、 死滅之王(アバドン) に統合した 呪壊弾(ネクロシス) に詰め込み、撃つ。

女性の手には無骨な、大型拳銃が火を噴いた。

近藤が持っていた 銃(もの) よりも大型化しており、威力もそれに見合って高まっていると予想される。

その大型拳銃から放たれた弾丸は、封じ込めてある魔法の効果を全て、ヴェガの頭蓋内部に解き放った。

ヴェガはその一撃で、肉体は呪いに蝕まれ、魂をも絶え間なき苦痛に囚われる事になったのだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

うお……

何の言い訳も許さず、躊躇いなく撃ちおった……。

流石はカレラ。

ヤツもまた、怒らせてはならない人物ランキングに名を連ねそうだ。

というか、紳士的なディアブロはともかく、テスタロッサやカレラはかなり怖いよね。

その点、ウルティマは本当に素直で良い子である。

悪魔なのが信じられない程だ。

配下にも「お嬢様」とか呼ばれているし、執事と侍従だし、見るからに育ちも良さそうだし。

色々な勢力があるのだろう。

云わば、魔王の娘、的なものだったのかもね。

いかんいかん。

カレラが躊躇なく"ネズミ"を狩ってしまったので、思わず現実逃避しかけてしまった。

皇帝と"ネズミ"の始末をねだられたので、許可したのだが、結果がこれであった。

だがまあ、残るは皇帝とエサに釣られて出て来た者、か。

皇帝の始末はウルティマが、譲って欲しいと気合を入れて、俺にお願いして来た。

なので譲る事にしたのだ。

という訳で、俺の相手は黒幕である。

「おい、隠れてないで出て来いよ。いるんだろ? ユウキ!」

俺が暗闇に向けて問い掛けると、

「やれやれ、バレてましたか? 流石はリムルさん」

そう言いながらユウキが歩いて出て来た。

以前王都で会った時そのままに、気兼ねする様子もなく親しい友人に会うような気軽さで。

だがお前は野放しには出来ない。余りにも危険過ぎた。

「まあね。お前も元気そうで何より。

ところで、死ぬ前に言い残す事はあるか?」

「あはははは。ストレートですね、リムルさん。僕が簡単に死ぬ、とでも?」

「思っちゃいないが、お前は遣り過ぎた。

だが、もしこれ以上何もしないって言うなら、封印で済ませてやるけど……

どうする? 完全な自由はないが、死ぬよりはいいだろ?」

「甘いな、甘すぎますよ。相変わらず、御人好しですね……

でも、その自分が勝つ! という前提は、止めた方が良いでしょうね!」

やはり無理だったか。

元から無理だろうとは思っていた。

しかし、クロエの解放もあるし、変な 命令(ねがい) なんぞされて状況を悪くする可能性もある。

出来るならば無難に治めたい気持ちがあったのだが、やはり無理だったようだ。

俺達は対峙し、静かに身構えるのだった。