軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139話 議会の顛末

昨日のケーキは美味かった。

なので、会議で疲れた心を癒すべく、再び訪れたと言うわけだ。

流石は、自由組合本部のあったイングラシア王国の王都である。

ユウキは実に良い仕事をしていた。

"異世界人"を探し出し、保護する。能力の高い者だけではなく、その知識と技術。主にその食への拘りは、俺に通じるものがあったのだろう。

ぶっちゃけ、辺境の農村レベルの食事では満足いくものではない。現代日本が贅沢過ぎるのだ。

毎日イモを煮たものだけ、味のしないスープに苦い草が入ったもの。そういう食事が一般的だったのだから。

塩が高級品なので、味のする料理そのものが貴重なのだ。

パンにしても、固くてそのまま食べるのに苦労するような酷い出来のものしかなかったのだろう。食事の改善を試みるのは、至極当然の話だが、出来るかどうかは別問題。

俺のように、元の世界の知識を能力でイメージ毎相手に伝える事も出来ないだろうし、共通認識を持つ"異世界人"同士で試行錯誤を試みたのは間違いないだろう。

こういう点は非常に評価出来る。

彼等の努力のお陰で、この世界でもケーキを食べる事が出来たのだから。

イングラシア王国の王都に来たのは、評議会の会議への参加が目的だったけど、こっちの方が重要かも知れないと思ったほどである。

今日の目的は、レシピを教えて貰えないか交渉する事。

シュナ曰く、大体同じものが出来るだろうけど、同等のレベルまで作りこむには数ヶ月の研究が必要との事だったからだ。

店の店主であるギルシュさんに挨拶し、シュナに作り方を教えて欲しいと聞いてみた。

レシピは秘密にしているかも知れないが、駄目もとで一応頼んでみた次第である。

「ああん? 俺様のケーキの作り方を教えて欲しい、だ?

そんな簡単に秘蔵のレシピを教えてやれる訳がねーだろうが!

ケーキを気に入ってくれたのは嬉しいが、コイツには様々な奴の努力の成果が詰まっているんだ。

簡単には教えてやれねーな」

まあ、当然の反応だ。

この街のあちこちに、似たような店はある。しかし、俺が食べ歩き確認した中でも、この店だけは本物だった。

他店はこの店の真似をしているだけなのは間違いない。この店主も"異世界人"なのだろう。

「そこを何とかお願い致します」

シュナが丁寧に頭を下げてお願いする。

両手を重ねて、綺麗に腰を折り、見ていて惚れ惚れするような上品な動作で。

「……ぐっ。お、俺様に色仕掛けは通じねーぞ!

だけど、何でもいいから、俺様を満足させる事の出来る料理を作れるなら、考えてやらんでもない」

おっと。

シュナが妥協点を引き出せたようだ。最悪研究して貰おうと思っていたが、シュナの料理は一級品。

いけるかも知れない。

「シュナさん。思う存分、やっておしまいなさい!

その生意気な店主を唸らせる、最高の一品を!」

「はい。了解いたしました!」

シュナはやる気だ。

ケーキがシュナの心に火を点けたのだ。

厨房を借りて、シュナが至高の一品を用意する。

それは卵焼き。

卵焼きを見れば、その料理人の腕が判るとまで言われる、究極の一品。

ギルシュさんは、出された皿を見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。何も言わず、一口、フォークで卵焼きを口に運んだ。

「美味い!!」

一撃だった。

シュナの圧倒的なまでの料理力で、ギルシュさんはシュナを認めたのである。

「ありがとうございます」

シュナが艶然と微笑みを浮かべた。

それが止めとなる。心まで打ち抜かれ、ギルシュさんは完全に落ちたようだ。

「ッチ。仕方ねーな! 特別だぜ?」

筋骨逞しいオッサンが、照れたような笑顔でシュナに応じた。

正直、デレデレになっているようにしか見えない。まあ、シュナは薄桃色の髪が良く似合う、可愛らしい少女だから仕方ない。

シュナに厨房でケーキの作り方を説明し始めるギルシュさん。

俺とベニマルはコーヒーのような飲み物を店員に注文し、シュナを待ちつつ先ほどの会議について思い出していた。

………

……

会議開催を行う会場に着いた時、数名の議員が挨拶にやって来た。

何でも、武闘会を見学に来た者から話を聞き、俺と誼を結びたいと考えたそうだ。

今後のアピールを考えて、愛想良く対応する。

「わはははは。リムル殿、魔王と呼ばれておるそうだが、気さくな方ではないか!」

「いやはや、まったくですな。今後ともよしなに頼みますぞ。

ところで、何やら色々と面白い品を作っておられるとか?

我が国でも、その商品を取り扱って差し上げても構いませぬぞ?」

「おう、その事よ。我等も同様じゃ。協力してやっても宜しい。

無論、それ相応の見返りは――これ以上はやぼですな」

あ、うん。

何というか、開いた口が塞がらない感じ、か?

無礼ってレベルじゃねーぞ!

相手は貴族だろうと思い、此方が下手に出たのが失敗だったかもしれない。俺の対応を見て、かなり勘違いさせてしまったようだ。

まあいいや、面倒くさい。別にこいつらに商品を流さなくても、ギルド――調停委員会の下部組織として、ギルドは残っているのだ――経由で売る事は出来るし。

「ああ、そうですね。その時はお願いしますね」

誤魔化しつつ話そのものを無かった事にする作戦でいこう。

これぞ大人の対応。欲しければ買いに来いって話だ。

軽く挨拶を済ませると、失礼な議員に笑顔で断りを入れてその場を去った。

長々と話し込むと、他の議員もやってきそうだったからである。

朝から気分を害したが、その内何か頼みごとが出来るかもしれないと我慢して、会場内に入ったのだった。

そして会議が始まったのだが……、そこからが本当の地獄だった。

前回の議題の際、俺達に協力要請を行うというのが、ヒナタの提示した案であった。それはヒナタに聞いて知っている。

俺達の国に防衛を任せ、一定の金額を支払うというもの。相手が此方を利用しようとしているのは間違いないので、此方も相手を利用する。

まあ、その辺りはお互い様だろう。此方はどうせ帝国の侵攻ルート上に位置するのだ。どうせ戦う事になるのならば、背後を纏め上げておいた方が良いのは当然だ。

また、防衛費を支払ってくれるというのならば、貰っておく。断る理由も無いのだから。

そして本題として。

俺達に、余剰戦力を全て譲って貰うというのが、今回の会議に参加を受諾した目的なのである。

つまりは、魔物の力を誇示し、強大な軍事力を所有する。

各国は俺達に防衛費を支払い、俺達は良い様に利用される事になる。だが、その実、纏まった軍事力を持つ事で、各国は 魔物の国(テンペスト) を無視出来なくなるという寸法だ。

魔物の国(テンペスト) も既に国家としては認められている。人間社会との共存共栄を目指している訳で、国家連合の守備軍の役職を担うのは吝かではないのだ。

その上、その軍事力を背景として、各国に睨みを利かす事も可能になるという、一石二鳥の作戦であった。

ヒナタの狙いもここにあり、ジュラの大森林方面の防備は俺達に任せるつもりだと言っていた。

委員会の直属兵士は、聖騎士を含めても数が少ない。だからこそ、拠点を築き、俺達にも緊急時の対応を任せるつもりだったのだろう。

俺もその案に賛同し、利用されつつも実利を取る選択をするつもりだったのだ。

どうしてこうなった?

蹴り上げた机が宙に浮き、落ちて来た所を更に踵で粉々にする。

椅子に踏ん反り返って足を組み、驚愕の表情を青褪めさせて俺を見る議員連中を睥睨し、俺は内心で溜息を吐いた。

いや、最初は我慢していたのだ。

大人としても定評のある俺の心が海よりも広いのは、ここ最近の俺の活躍からも有名な話だと自負している。

忍耐心の塊とも呼ばれ、我侭いっぱいのミリムの相手もお手の物。広い心で、ミリムの我侭も笑って許せたものだ。

だが……。

欲に塗れて可愛げもない、議員のオッサンどもの我侭だったならどうだろう?

その答えが、目の前で粉砕された大机であった。

「おう、お前ら。舐めてるのか?

好き勝手言いやがって、俺はお前らの召使か?

ああん? 黙ってても判らねーぞ!」

静まり返った会議場で、俺の声が静かに響く。

大声を出している訳ではないが、その声は議員連中の心に恐れを伴い響いているようである。

別に『魔王覇気』を使ったとか、そういう話ではない。

人間相手に使うと、恐慌状態になれば良い方で、下手すると発狂したり狂死したりするのだから。

洗脳系も使えるけど、それをしたら人間との友好とか全て吹っ飛んでしまう。残りの人生を面白くもないYESしか返事出来ない人形と過ごす趣味は無いのだ。

つまり、今回はただ怒りに任せて机を壊し、普通に恫喝しただけなのである。

だが、それでも効果は絶大であった。

「い、いやリムル殿。我等はそのようなつもりで申し上げた訳ではなく……」

そもそも、だ。

一国の王に対し、呼び付けた上に"殿"呼ばわり。

国の格として、属国の王であるならまだしも、同格の国主に対する対応では無い。

間違いなく、こいつらはたかが魔物と舐めているのだ。

そして先刻からの話の内容。

やれ、魔導列車の構造を教えろだとか、迷宮の運営権を共同にしろだとか、衛星都市に住む住人は 魔物の国(テンペスト) に所属した訳では無いので税を寄越せだのと……

好き放題抜かしやがった訳である。

仮にも俺は魔王。なので、それ相応の対応を期待していたのだが、予想以上に酷かった訳だ。

これが国を代表する貴族とか。俺の寛大な心も我慢の限界というものであった。

いや、こういう狸どもを手玉に取っていたのなら、ユウキはなかなかの狐だと言う事。俺には無理過ぎた。

《告。ですから、私が代理すると申し上げたのです 》

何か、ラファエルさんが言っているようだけど、気のせいだろう。

単なるスキルであるラファエルさんが、そこまで自由に口出し出来るハズが無い。

怒り過ぎて幻聴が聞こえたようだ。だが、少し冷静になれたので良しとしよう。

「あ? じゃあ、どういうつもりだと言うのかな?

俺が、お前達の奴隷として、馬車馬のように働けと言っているのじゃないのか?」

「い、いいえ! とんでも御座いません! 我々はそのようなつもりで言っている訳ではなく……」

そんな事を必死で言い募る議員に目を向けて、ふと、違和感を感じた。

こいつの目、会議室奥の扉に向いている。

耳を澄ますと、複数の足音。どうやら、衛兵を呼んだようだ。

そう気付いた時、扉が開け放たれて数名の兵士と一人の大男が入って来た。

「おうおう、威勢が良いな。お前さんが魔王を名乗る馬鹿か。

だが、供も三人しか連れて来ていないのにそんなに威張っていても良いのか?

馬鹿め!

お前を痛めつけて言いなりにすれば、お前達魔物は言いなりになるだろうが!」

入って来るなり、大声で吼える大男。

え? 何て?

俺を、痛めつけて、言いなりにする?

何を言っているんだ、コイツ? 俺が馬鹿になったのか、コイツの言いたい事が良くわからない。

《解。この 大男(バカ) は、 御主人様(マスター) に勝利し、言いなりにすると申しております 》

わかってるわ、そんな事!

イチイチ真顔で説明されたら、本当に俺がバカみたいじゃないか。

「おい……。これは、評議会の総意なのか?」

俺の疲れたような質問に、

「馬鹿か、当たり前の事を! それとも、ビビッてしまったのか?

今なら、這い蹲って靴を舐めたら、痛い思いをせずに許してやるぜ?」

と下卑た笑いで返事する大男。

だが、恐怖と困惑で固まっていた議員達の中で、

「聞いておらんぞ。どういう事だ?」

「誰の差し金だ?」

「あの兵士は、イングラシア王家の紋章付きの鎧を着ておりますな。

という事は、これはイングラシアの差し金ですかな?」

と、戸惑う者や冷静な判断を下す者、そういう明らかに関係なさそうな反応も伺えた。

という事は、この件は評議会での決定ではなく、一部の勢力の暴走という事か。まあ、ヒナタも知らなかったようだし、総意では無いのは間違いなさそうだ。

そう判断を下す。

「おい、許可無く立ち入るな。

ここは評議会の会場で、現在は会議の最中だ。

貴様達、兵士の出る幕では無い」

ヒナタが冷静に大男達に退出を促したのだが、

「ははは、ヒナタ殿。良いのです。

彼等はワシが呼んだのです。そこの無法者を懲らしめる為に、ね」

「ギャバン殿、血迷ったのですか?

この様な話は伺っておりませんけれど……

それとも、貴方方は、評議会の議決よりも御自分を優先するのですか?」

ヒナタの声が、冷たく低くなっている。

ああ、結構本気で怒っているようだ。これで、あの馬鹿共の独断だと考えて間違いないな。

「ゴチャゴチャ煩いぞ、女。ああ?

元聖騎士団長か何か知らんが、イングラシア護衛騎士団団長のこの俺、ライナー様の敵じゃないわ。

そこの貧弱な魔王に負けて、小便ちびって逃げたんだろ? ええ、聖騎士団長様よ。

どうせその役職も、色ボケ枢機卿にでも色仕掛けして手に入れたお飾りだろうがな。

雑魚同士、チンケな戦いだったんだろうが、殺す覚悟も無いような魔王など、片腹痛いわ!

だがまあ、見てくれは悪くない。俺の女になるって言うなら、愛妾として可愛がってやってもいいぜ」

ああ、コイツ、死んだな。

ヒナタの表情は変わらない。相変わらず、冷たく美しい顔をしている。

けど、その見かけの冷たさと反比例するように、彼女の内面は荒れ狂うマグマのようになっていそうだ。

「おいおい、ライナー卿。少し下品ではないかね?

だが、ワシも魔王には興味がある。一人占めは良くないぞ。

そうそう。

言い忘れておったが、このライナー卿はAランクの冒険者をも倒した勇者。

君達以上の強者は、幾らでもいるという事だ。

多少強いからと、自惚れないで欲しいね」

ゾワっとするような、言い難い悪寒が背筋を走った。

気色悪い。このオッサン、大概の事で動じなくなった俺を動じさせるとは、恐ろしい男だ。

「――おい、貴様ら……。それは、イングラシア王国としての判断か?」

ヒナタが怒りを感じさせぬ冷静な声で問うた。

「ふふ、その通りである。評議会として、既に決は出ておる。

まあ、投票は今から行うのだが、な」

そう言って、金髪の若い男が立ち上がった。

議場がザワリと沸き立った気がする。

「エルリック王子――。これは、貴方の差し金ですか?」

「その通りだ、ヒナタ。座るがいい」

王子……?

この馬鹿、いや王子がこの件の黒幕?

どうやら、イングラシア王国の王子らしいが、こいつが数名の議員を扇動していたようだ。

「では、決を採ろう。

魔王をこの場で倒し、我等の言いなりにする。

賛成する者は、起立せよ!」

王子の声が高らかに響き、過半数の議員が厭らしい笑みを浮かべて起立した。

どうやら、キッチリと内通し話を通していたようである。

各国の財務状況や、王族達の反応。そして、各国での議会での議事録なんぞはソウエイが調べ上げていた。

しかし、議員個人が買収されているとは思わなかった。その可能性を考えなかったのは俺のミスだろう。

《告。いいえ、問題ありません。想定内です 》

え? 想定内?

ラファエルが黒い笑みを浮かべているような、幻想が見えたような気がする。

「リムル様、これを」

ソウエイが俺に複数の帳簿を渡して来た。

ああ……裏帳簿だ。マジで想定内かよ。

いつの間にか、内通している議員連中の賄賂等を記載した帳簿を確保していたようである。

抜かりの無い手際。

帳簿の数は、エルリック王子の号令で起立した議員の数に一致する。動かぬ証拠を掴んでいるなら、これって既に茶番でしかない。

立たなかった議員は戸惑うように周囲を伺い、

「聞いておりませんぞ!」

「せっかくリムル陛下が自ら出向いて下さったのに、この仕打ちは問題でしょうぞ!」

「このような事は許されぬ。公平性が無ければ、何の為の評議会か!」

激怒したり、憤慨したり。

今、座っている議員達は、公正な性格で融通が利かないのだろう。

道理を弁えて、きちんと俺に対する礼儀も持ち合わせているようだし。

こういう議員の所属する国がまともかどうかは不明だけれど、礼儀のなっていない議員や不正を行う議員を送り出す国よりは信用出来るだろう。

何しろ、議員はその国の代表であり、その国を表す人物であるべきなのだから。

「決は出た。過半数を超えたので、この議題は可決されたものとする!」

エルリック王子が勝ち誇り、高らかに宣言した。

追従し、拍手を送る議員達。

座ったままの議員は項垂れ、ヒナタは冷めた目つきで茶番を見つめる。

武器の携行は許されていないので丸腰だが、剣を所持していれば柄に手を掛けていそうな迫力であった。

「さて、お許しも出たし、靴を舐めるか痛い思いをするか、選べ」

ライナーとか言う馬鹿が、俺の前まで来てそう言った。

ヒナタが俺を見てくる。俺の対応次第でどう動くか計算しているのだろう。

さて。

「一つ、確認したい。いいんだな、それで?」

「ああん? 何がだ?」

「いや、お前らの選択は、そのまま国家の選択だと受け取るが、いいんだな?」

「っは! 馬鹿か。今更そんな事、どうだって――」

シュナが立ち上がり、扇子を取り出し一閃した。

それだけで、喋っている途中だったライナーが吹き飛ばされて、椅子と机を倒しながら壁に激突し蹲る。

「先程から我慢して聞いておれば……

き、貴様ら、我等が敬愛するリムル様に対し、ぶ、無礼にも……」

そして、静かにライナーに歩み寄るシュナ。

ああ、激怒していたのは、俺だけでは無かったようだ。

というか、他人が爆発したら、急に冷静になるものだよね。

見回すと、ヒナタも冷静になったのか、俺と目があった。お互いに目と目で通じ合えた気がする。

「ゴミめ。貴様は楽には殺さぬぞ。確か、Aランクがどうとか言っておったな。

本気を出す事を許そう。

さあ、立ち上がって掛かって来るが良い」

扇子をライナーに突きつけ、シュナは射殺すような眼差しでライナーを睨んだ。

「ラ、ライナー! 何を遊んでいる!?さっさとその生意気な女を黙らせろ。

貴様は魔王も倒さねばならんのだ。遊んでいる暇などないぞ!」

状況の理解出来ていないエルリック王子が、ライナーに向けて命令する。

しかし、ライナーは動かない。

「来ぬのか? では此方から――」

シュナが一歩、足を前に出そうとした瞬間、

「ひ、ひぃーー!!」

蹲り、両手で頭を抱えるライナー。

その股間からは、湯気を出す液体が洩れ出ている。

おいおい、小便ちびってるのは自分じゃねーか。呆れるのを通り越して、掛ける言葉も見つからない。

「シュナ、下がれ」

俺の命令に頷き、俺の背後に戻るシュナ。

ライナーは子供のように泣き始め、涙と涎を垂らして蹲ったままだ。

あれはもう駄目だな。相手するのも馬鹿らしい。

「さて、エルリックだったか?

お前は俺に喧嘩を売ったわけだが、今後どうするんだ?

そこのお前等、お前等の国もこの件を承認しているんだよな。

同罪って事で、いいな?」

笑顔で問い掛けた俺に、青褪めた顔で俯く一同。

勝負は決した。こんな雑魚で魔王に勝てると判断した、頭の弱さがこいつ等の敗因か。

いや、イングラシア王国はジュラの大森林に接していない。だからこそ、魔物の脅威を知らないのだ。

そして、今回賛同に回った議員達の所属国も、小国でイングラシアの派閥国なのだ。国の意向と議員の意思は別物だったけど、魔物を舐めているのは一緒なのだろう。

所詮、自分達の利益しか考えていない貴族だったという事だ。まあ、中には国家ぐるみで動いた者もいるようだけど。そういう国とは付き合うのを考えた方が良さそうだ。

適当に流して資料を見ただけだったので、後で見直した方が良いかも知れない。

結局その後、議員達を脅すように重要な議題を受理させ可決していった。

1.テンペストへの軍事協力。

1.テンペスト軍の国内通過許可。

1.テンペストの国家連合評議会への正式参加。

1.国家連合評議会本部のテンペストへの移設。

1.自由調停委員会本部のテンペストへの移設。

有無を言わせずサインさせ、問題なく全て可決した。

満場一致で。

化かし合いをして、策を弄するのは俺には向いてない。

結果的には、最も簡単な腕力による制圧で、全ての問題が片付いたのである。殴ったのは俺では無いし、俺の心の広さも証明出来たようで満足だ。

こうして、無事に議会を終了し、俺達は会場を後にしたのだった。

………

……

とまあ、これが顛末である。

エルリック王子や、イングラシアの大臣でもあるギャバンとか言うオッサン。そして、議員達。

彼等は呆然とし、事の重大さに怯えているようだったが、自業自得である。

当然ながら、会議終了と同時にソウエイに命じ、各国へ帳簿はお届けさせていた。これで、あの無礼なアホ共は粛清されるだろう。

許されたとしても、議員は首だろうし、最早終わっていると言えた。

そして、イングラシア王国。

この国は、交通の便が良いと言う事で、各国の中心に治まった国である。

目だった技術があるわけでも、生産性が高い訳でも無い。

文化レベルが高いのは、ユウキによる"異世界人"が自分達が快適に暮らす為に再現したものを広めたからに過ぎないのだ。

評議会や委員会と言った、重要な施設が移転する以上、既に各国の中心としての役割を終えている。

このまま何もしないのならば、後は衰退の一途だろう。

それも自業自得であり、俺の心が痛む事は無かった。

「まあ、中心がテンペストになるのは、私としても賛成だったのだがな」

とは、ヒナタの言葉である。

それを言い出せばイングラシア王国がどうなるのか自明の理だっただけに、ヒナタから言い出せなかったのだろう。

今回の件で、ヒナタとしても踏ん切りがついたようだ。さっさと戻って、引越しの準備に取り掛かっていた。まあ、俺以上に、ヒナタも怒ったという事だろう。

俺はコーヒーモドキを飲みながら、そんな事を思ったのだった。

「というか、今回は良い経験が出来た」

「ん?」

「いや、俺も激怒し過ぎると、腹が立ち過ぎて何をしていいか判らなくなってしまったよ。

シュナが動くのがもう少し遅かったら、あの部屋の人間を全て燃やし尽くす所だった」

ぶっ! とコーヒーを噴出しそうになる。

大人しいと思っていたベニマルだが、大人になったなと感心していたのに、実際は怒りで我を忘れていただけだったとは。

感心して損した気分である。というか、危なかった。あそこで大量虐殺されていたら、人類の敵になる所だった。

「おいおい、おま、それは絶対に止めろよ!?」

「ははは、冗談だよ。本気にするなって!」

爽やかな笑顔で誤魔化そうとするベニマルだが、俺は騙されない。

コイツは本気だった。

今度の会議には、人選を考える必要がありそうだ。

その時、

「リムル様、やりましたよ!

ギルシュ店長が、テンペストに来てくれるそうです!」

シュナが満面の笑顔で戻って来て、俺に報告した。

「何でも、店を畳んで隠居しようかと考えていたそうなのですが――、

お誘いしたら、来て下さるそうです!」

「マジで?」

「マジで、です!」

素晴らしい。

これで砂糖さえ用意すれば、毎日ケーキも夢じゃない。

いや、欲しい素材があるなら、どんなものでも集めようじゃないか!

「素晴らしい、流石はシュナだ!」

俺が褒めると、シュナも笑顔で頷いた。

今回のシュナは大活躍だった。

どこかの残念秘書とは大違いである。あの残念秘書なら、手加減してもライナーを殺してしまっていたかもしれない。

そしてスキルで誤魔化して、大変な事になっていただろう。まあ、それはシオンだけでは無く、俺にも言える事だけど。

今回、シュナのお陰で交渉が簡単に纏まったようなものである。

だが、一番の成果は、ここの頑固親父を説得出来た事だ。

以前、俺も頼み込んだのだが、首を縦には振ってくれなかったのだ。

いい仕事をしたものである。

こうして、無事に会議も終わり、テンペストへ向けて帰国した。

色々あったけど、一番大きな成果は、毎日デザートにケーキが付くようになった事なのは、言うまでも無い事である。