作品タイトル不明
64_めまぐるしい討伐の中で
その後も、私は自分にできることを自分なりに必死に頑張った。
ノース様が回復薬を持たせてくれていたから、王都の街中に魔物が出た時にしたように、魔法で回復薬を増幅させて、怪我をした神官騎士様たちの傷を癒したり。
対峙する魔物に力で押し負けそうになっている神官騎士様がいれば、魔物との間に光魔法で反発する防御の盾を薄くのばしたものを飛ばして、魔物を牽制したり……微々たることだけれど、休む暇もなく魔法を使い続けて──。
ちょっと、気持ちが高揚していた。
だって、無能なダメ令嬢と言われていた私が、こうして魔法を使って、誰かの役に立てて──いるとは言えるかどうかわからないけれど、少なくともお荷物にはならずにすんでいると思う。
それに、時々神官騎士様が「ありがとう」と言ってくれたりもしていて。
これは私にとってすごいことで、誇らしい気持ちがじわじわと湧いてきていた。
セルヒ様たちが瘴気だまりの対処をしているおかげか、そうしているうちにあれほど倒しても倒しても増え続けていたCランクやDランクの魔物の数もどんどん減っていき、それにともない神官騎士様たちとともに私も瘴気だまりのあるはずの方へじりじりと距離を詰めていた。
そうして近づいていくと、少しずつ魔物の強さも増していくことがよく分かる。
多数の魔物を相手取っていた神官騎士様たちは疲労がたまり動きも鈍くなる中で、ギズリ様が一人で何体もの魔物を相手に圧倒的な強さを見せている姿が目に飛び込んできた。
(すごい!他の神官騎士様たちもとても強かったけれど、ギズリ様は別格だわ!)
ギズリ様の向こうの方には、セルヒ様達や……リゼットの姿もある。
いつのまにか、瘴気だまりの目の前まで距離を詰めていたらしい。
そりゃあ、そうだよね。あれほど強いギズリ様は、リゼットを側で守っているに決まっている。
そのことに納得しつつ、もう私にできることはないかもしれないと、無意識に詰めていた息をゆっくり吐きだそうとした時だった。
──!
ハッと肌が粟立つ感覚。
何故だか分からないけれど、私の中の何かが瞬時に警鐘を鳴らす。
咄嗟に視線を向けた先で、ギズリ様の側に瘴気がモヤリと小さく渦を巻いたのが見えた。
(魔物が……くる!)
なぜそれが分かったのか、自分でもよく分からない。
私以外の誰も、それに気づいている様子はなかった。
考えるよりも先に、一気に魔力を放出させて、ギズリ様の方にぶつける!
私には攻撃魔法は使えないけれど、弾くことくらいならできるため、なんとかギズリ様を守れたらと思っての行動だった。
その瞬間の光景が、なぜか普通の何倍もゆっくりに感じてよく見えた。
私の魔法に驚き、すぐに怒りの形相に変わり私を睨みつけるギズリ様。
その背後から、空間を裂くようにして姿を現した一際大きくてまがまがしい瘴気を纏った魔物。
少し離れたところで、セルヒ様がこちらに振り向いた姿。
私が無我夢中で放った魔法はギズリ様の顔の横を掠め、大きく口をあけた魔物が放つ魔法にぶつかり、弾き飛ばすようにしてそれがギズリ様に襲い掛かるのを防いだ。
「……は?」
「ルーツィア!」
ギズリ様が振り向き呆然とした瞬間、セルヒ様がすかさず攻撃魔法を放ち、魔物は断末魔を上げて倒れると、すぐに息絶えた。
その姿から瘴気が放たれる前にオーランド様がすぐに業火の魔法でその体を焼き尽くす。
(そっか、そうやってすぐに魔物の体が少しも残らないように燃やしてしまえば、死んだ魔物の体から瘴気が溢れるのを防ぐことができるんだ)
なんだか妙に昂っている体と心臓とは裏腹に、私は頭の中で冷静にそんなことを考えていた。
「ルーツィア、大丈夫か!?ああ、怪我はないようだな、よかった……!」
「セルヒ様……」
「よく気づいたな!君の魔法は俺が魔物の出現に気が付くよりも速かった。もしも君があと少し遅れていれば、あの神官騎士は死に、ルーツィアも巻き込まれてしまって無傷ではいられなかっただろう。君は本当にすごいことをやってのけた!あれほどの魔物の全力の魔法を弾き飛ばすなど、魔法の威力と精度がとんでもなく優れていなければ無理だ!」
「え、えへへ、そうですか?」
セルヒ様は私の頭から足元まで素早く確認すると、安堵のため息をつき、すぐに私を褒めそやしてくれた。
自分でも、なかなかいい行動だったのじゃないかしらと思っていたので、すごいすごいと褒めてもらえるのが嬉しくて、照れてしまう。
だけどそのすぐあと、今更、ギズリ様も私も、多分私の後ろにいる他の神官騎士様たちも危なかったことを理解して、ほんの少しぶるぶると身体が震えてしまった。
恐怖というより、「本当によかった……!」という強い安堵からの震えだった。
私は本当にドキドキしていて。だから、ギズリ様が難しい顔で私を見ていることにも全くきづいていなかった。
突然現れたあの魔物はBランクの個体だったらしい。
さすがのギズリ様もあの強さの魔物に不意打ちを食らえば、命を落としていただろうということだった。
どうして私が魔物の出現を直前に察知できたのか不思議だったけれど、命を脅かされる事態に本能が研ぎ澄まされて、まぐれが起こったのかもしれない。
セルヒ様たちにかかればBランクの魔物も魔法をひとつ放つだけで倒せる相手だけれど、私にとってはとっても強くて脅威的な存在なんだもんね。
あれが現れた時点で、瘴気だまりは完全に消すことができていて、最初に確認されていたBランクの魔物も討伐済みだったみたいで、気付いたらすっかりこの場の空気も落ち着いたものになっていた。
そうして、ふと顔を上げると、タイミングよく近くにきていたリゼットと目が合って。
──だから、今がチャンスじゃないかと思ってしまった私は、リゼットに駆け寄り、懐にくるまっていた魔獣ちゃんのお顔をほんの少しだけローブから覗かせて、リゼットにお願いしてしまったのだ。
「リゼット、どうかこの魔獣ちゃんの体を蝕む瘴気を祓って、癒してあげて欲しいの!」
「なによ、その弱そうな生き物?それに私の魔法を使ってほしい?冗談でしょ?」
そして、冷たい目で睨みつけられてしまうことになったのだった。