軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56_正体不明の魔獣ちゃん

魔獣ちゃんがセルヒ様をあんなにも威嚇した理由が、フワフワの指摘した匂いが原因ではないかという推測はどうやら当たっていたらしい。

一度湯浴みをしてさっぱりした後、もう一度一緒に魔獣ちゃんのいる部屋に戻ってみたところ、警戒はしている様子は見られるものの、威嚇はされなかったのだ。

一応入室してすぐのところで距離を取ってしゃがみこみ、様子をうかがってみたところ、魔獣ちゃんはゆっくり起き上がり、とてとてと歩いて私のところまで近づいてきてくれた。

魔獣ちゃんがこちらに辿り着く前に、念のため控えめに手の甲を差し出してみると、私の手の匂いをくんくんと嗅いで確かめた後、自ら私の手のひらに頭を擦りつけて甘えるような仕草を見せてくれた。

「か、可愛い……!」

そのまま撫でていると、頭を押し付けてくる勢いのままどんどん私に近づいて、ついには膝の上によじ登って丸くなった。白くてふさふさの尻尾がゆったり揺れている。

撫でる手を止めると顔を上げて見つめてくる姿がなんともあざとくて愛おしい……!この子ったらとっても甘え上手だわ……!

どうやら魔獣ちゃんは私に心を開いてくれたらしい。

フワフワも自分よりうんと小さな魔獣ちゃんを気にして温かい目で見守ってくれている。

やっぱり、この子が危険な存在だとは到底思えない。小さくて、可愛くて、弱っている姿を最初に見てしまったこともあって、私が守ってあげないとという気持ちになる。

「よしよ~し~」

「キュキュウッ」

「ま、まあ!今あなたが鳴いたのよね?声までとっても愛らしいわ!」

潤んだ瞳で私を見つめ、まるで子猫のような高くて可愛い声で鳴き声をあげる魔獣ちゃん。なにからなにまで可愛いだなんて!

そして、撫でていて改めて気付いたけれど、とっても毛並みがツヤツヤだわ!

実を言うと、怪我の治癒をして血や汚れを洗い流してあげた直後は毛並みも乱れてパサついてしまっていたのだけれど、ゆっくり休んだらあっという間に治ってしまったみたいだった。

やっぱり普通の動物じゃなくて魔獣だから、治癒能力が高いのかもしれないわね。

私が魔獣ちゃんを可愛がっているのを、側でセルヒ様とオーランド様が見守っている。

2人が近づくと耳をぴくりとそばだてて魔獣ちゃんが警戒する様子を見せるので、少しだけ距離を取っている状態だ。

「くっ……!ルーツィアの膝の上で……!」

「おやおや、私の弟子は魔獣にまで嫉妬しているのかい?小さい男だな~!あはは!」

「うるさいオーランド。ただ、モフモフを堪能して幸せそうなルーツィアはとんでもなく可愛い……!嫉妬の苦しみと可愛さによる身悶えで心が焼ききれそうだ……!!」

「弟子の情緒が心配だよ……」

……実を言うと、私にだけすぐに懐いてくれたこの魔獣ちゃんが、可愛くて仕方ない。

特別扱いって、どういう相手からどういう状況で向けられるものでも、やっぱり嬉しく思ってしまう。

いつだって、リゼットが私に比べて特別扱いされる姿を、心のどこかでずっと羨ましく思っていたから余計にそう感じるのかもしれない。

特別扱いが嬉しい、なんて、ちょっと傲慢な気がしてあまり口に出しては言えないけれど。

そうして魔獣ちゃんの様子を見ながらお世話をして数日が経ち、分かったことがある。

魔獣ちゃんは威嚇こそしないものの、私以外の人へはあまり懐かないということ。

セルヒ様もオーランド様も、ノース様やグレイス様も毎日のように魔獣ちゃんに会っているけれど、魔獣ちゃんが自分から擦り寄ったり撫でるのを許されているのは私だけだった。

とっても気分が良くて、お腹がいっぱいの時なんかには時々他の人も触ることができるけれど、すぐに身を捩って離れてしまう。

そんな風に私にだけ特別に懐く姿がますます可愛くて仕方ない。

最初にこの子を抱き上げたのも、傷の手当てをしたりお世話をしたりしたのも私だったから、刷り込みのように私に対してだけは安心感を覚えるのかもしれないな。

そうこうしているうちに別の仕事で魔塔を数日あけていたアルヴァン様が戻って来た。

アルヴァン様はどうやら魔塔を離れている間にオーランド様から魔獣ちゃんの話を聞いていたらしく、戻ってすぐに魔獣ちゃんのいる部屋にやって来た。

よほど急いできたのか、いつも以上に髪の毛が乱れている。

「新しい魔獣を迎えたと聞きました!なんでもとても珍しい見た目で、オーランド様でも種族が分からないとか!?早く、早く僕にもその姿をこの目に──」

バン!と勢いよく開いた扉から、興奮気味に捲し立てながら慌てて飛び込んできたアルヴァン様は、魔獣ちゃんに視線を合わせた瞬間ピタリと言葉も動きも止めてしまった。その際に、アルヴァン様の喉の奥で、ヒュっと息をのむ音が響いたのが私の耳にも聞こえてきた。

そのまま微動だにせず数秒の沈黙が流れる。

えーえっと、アルヴァン様ってば、息、しているかしら?

「あの、アルヴァン様……?」

目をまん丸に見開いて、開いた口も閉じずに硬直していたアルヴァン様に恐る恐る声をかけると、今度はわなわなと震えはじめる。

本当に、大丈夫かしら!?

「あ、あ、あ、なんだこの魔獣はーーーー!!!???」

絶叫したアルヴァン様はふらりと意識を失い卒倒した。

アルヴァン様を支える人は側に居なくて、そのまま床に倒れ込んでしまった振動と音で魔獣ちゃんも驚いてしまったようでびくりと体を縮こませる。

「ぎゃー!アルヴァン様ーー!?」

やっぱり、大丈夫じゃなかったー!!

慌てて倒れた体に近寄ってゆさゆさと揺らしてみても、アルヴァン様は恍惚の表情を浮かべるばかりで意識を取り戻さない。

いや、何か言っている……?

口元がかすかに動いていることに気づいて耳を近づけると、

「この僕が、全く見たこともない魔獣……これは神がつかわせてくださった奇跡……」

などと繰り返していた。

つまり、「魔獣マニア」のアルヴァン様にも魔獣ちゃんの正体は全く分からないということ?

「あなた、そんなに珍しい魔獣ちゃんなの?」

驚いて、アルヴァン様から離れたところで様子をうかがっている魔獣ちゃんについ訊ねてみるけど。

「キュウウ?」

当然、答えなんて返ってくるわけもなく、魔獣ちゃんは不思議そうに首を傾げるばかりだった。