軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04_冷酷で人嫌いで無口と噂の、すごくよく喋る魔法使い

「いやいやいや……えっ、どういうこと?」

さっきまで飄々としていたノース様がなんだか混乱している。ちなみに私も混乱していた。

あまりにも一気にまくし立てられて、逆に何も耳に入ってこない。……ええっと、今私、なんて言われたのかしら?

先に混乱から脱した様子のノース様は、今度は体を震わせ始めた。

「ぷ、ぷくく……セ、セルヒってそんな喋ることあるんだ……さすがに予想外すぎるんだけど。てか勢いすごすぎて魔獣すら引いてるんだけど?」

あら?たしかに、ふと気づくと、私に近づく人をひたすら威嚇していたはずの狼まで固まっている。

う、うーん、すごい圧と勢いだったものね……。

というか、セルヒ……?今この人、セルヒって呼ばれた?

私は改めて目の前のその人を見てみる。

藍色の髪に、見ようによっては冷たく見えるとても澄んだ水色の瞳。さっきまで眉間に皺が寄っていて怖くて気が付かなかったけれど、よく見るとまつ毛も長くて、すごく綺麗なお顔をしている。

魔塔は謎に包まれている場所だけれど、魔塔に暮らす魔法使いは、王家から特別な存在として扱われる。『魔塔の魔法使い』と言うもの自体が、ひとつの身分になるのだ。

その分、魔法使いは王家の依頼を受けてお仕事をすることも多い。

だから魔塔の魔法使いの何人かは、貴族社会にもとても有名になっているんだけれど。

あまり熱心に教育を受けさせてもらえなくて、貴族社会に疎い私でさえ、この人の話は何度も聞いたことがある──。

『セルヒ』

魔塔の中でも、一際特別な魔法使いだと言われる人。

魔塔に入る時にほとんどの権限を放棄しているけれど、元々公爵家の出身。

他に類を見ないほどの魔力量を持ち、全ての属性の魔法を自由自在に操る、規格外の天才魔法使い様。

だけど、確かとっても気難しくて神経質、興味のない人の前ではほとんど喋らずにいて、たまに発する言葉も態度も冷たくてキツい、冷酷な人嫌いとして知られているんじゃなかったかしら。

(……でも、さっきめちゃくちゃ喋っていたような)

喋っていたと言うか、捲し立てていた?

うーん、やっぱり、これは夢なのかもしれない?

「ああっ!」

考え込んでいた私は、突然上がったその声に、思わずびくりとしてしまう。

「すまない、自己紹介がまだだったね!俺の名前はセルヒ。この魔塔に住む魔法使いの一人で、こうして君に会える日を心待ちにしていた男だ」

「あ、え、ええっと」

戸惑う私を見つめるセルヒ様の水色の目はキラキラと輝いている。よく見ると頰も耳も少し赤い。

私が噂で知る天才魔法使いセルヒ様は、その眼差しだけで人を凍り付かせられるんじゃないかというほど鋭く冷たい目をしているって……ん、んんん??

「ぶはっ、いや、だからもはや誰……」

その傍でノース様がまたもや笑いを堪えきれない様子で呟いた。

「うるさいノース、黙れ」

そんなノース様を冷たく睨みつけたかと思うと、セルヒ様はなぜか流れるように地面に膝をつき、頭を下げ始めた。

えっ!?なに……?

頭を下げている先は、なんと私を抱え込んでいる狼──魔獣だった。

「初めまして、俺の名前はセルヒ。お前が大事に守ろうとしているこの人は俺も守りたい人であり、決して傷つけることはしない。この場所は安全で、彼女を危険に晒すものは何もないと約束するから、安心して彼女を離してもらえないだろうか?」

そこまで言うと、少しだけ頭を上げ、その水色の瞳で魔獣と目を合わせるセルヒ様。

じっとその目を見つめ返していた魔獣はやがて「フン!」と鼻をひとつ鳴らすと、前足をどけて私を解放し、鼻先を私に優しく擦り付けた。

うっ。さっき散々ノース様がこの子を『ママ』だなんて言うから、まるで「もう大丈夫よ」、なんて、優しく宥められている気分だわ……!さすがにそんなわけないのに。

セルヒ様は解放された私に近づくと、手を差し出してくれた。その手を取るとゆっくりと立たせてくれる。

「ノース、彼女の手が冷えている。すぐに誰か女性魔法使いを呼んできてくれ。それと魔獣マニアのアルヴァンをここへ」

「分かったけど、女性魔法使いって。この場合呼ぶのはグレイス一択だろ?普通に名前で言えよ……」

ノース様の返事を聞いて、カッ!と目を見開くセルヒ様。

「おい!?ルーツィア嬢の前で俺に他の女の名前を呼ばせるつもりか!?それに今の言い方だとおかしな誤解を招くかもしれないだろうやめてくれ!」

やりとりについていけなくて、思わずパチパチと瞬きを繰り返す。

そんな私に「何も不安に思うことはないからね」と優しく声をかけてくれるセルヒ様。

ノース様がポツリとこぼす。

「ええ……なにこれちょー面白いんですけど……同じくらいめんどくさいけど……」

いまだに現実感はないし、なにがなんだか分からないし、不安もすごくある。

だけど、私は心の中で思っていた。

(魔塔の魔法使い様には『変人』が多いって、本当なのかも…………)