作品タイトル不明
47_本当に伝えたいこと、それはごめんなさいじゃなくて
「あの、今日は私のこと、何度か『ルーツィア』って呼んでくれていたのに、もうそう呼んではくれないんですか……?」
私がそう言うと、セルヒ様はその場に膝から崩れ落ちていった。
ええっ!?どうしたのかしら?というか、今日はセルヒ様が崩れ落ちていく姿を何度も見たような……。
「うっ、ぐっ、か、可愛い……!!潤んだ上目遣いの破壊力!そして今、今のはまさか俺の願望が生み出した幻聴じゃないよな!?俺は前世でどれほどの徳を積んできたんだ!?……あの、ルーツィア嬢、もう一度言ってくれるか?」
随分早口でまくし立てていたから、最初の方はなんて言っているか全く聞こえなかった。だけど不思議と今日は、「なにかまずいことを言ってしまったかしら?」と不安になることも全くなくて。
私はご機嫌な気分で繰り返す。
「もう、私のことを『ルーツィア』って呼んではくれないんですか?……いえ、よかったら、これからもルーツィアって呼んでほしいです!」
だって、いつまでもルーツィア嬢って呼ばれるのは、なんだか距離があるようで寂しいから……。
崩れ落ちていたセルヒ様は一瞬のうちに立ち上がると、いつのまにか私の両手を握っていた。んっ?なんだかちょっとだけ泣いているような?いえ、きっと気のせいよね?
「わっ!?」
「もちろんだよ、ルーツィア!ルーツィアからそんな風に言ってもらえてすごくすごく嬉しい!ルーツィア、これからもよろしくね!」
わあ!とっても呼んでくれる!
私は嬉しくて、何度も何度も頷いた。
「はい!」
そんな私たちの様子に、ノース様とグレイス様も側にきてくれる。
「私は親しみを込めてこれからもルーツィアちゃんって呼ぶわ~!だって、ちゃんづけって可愛くない?」
「グレイス様!はい、そう呼ばれるのもとっても嬉しいです!」
まるで、お姉ちゃんみたいなグレイス様。家族になったはずのリゼットとは、最後までいい関係を築くことは出来なかったけど……こうして、家族よりも家族みたいに優しくしてくれる。
「じゃあ、俺もルーツィアちゃんって呼んじゃおっかな~!……呼び捨てはセルヒに怒られそうだし」
「??ノース様にも親しみを込めて呼んでもらえるなら嬉しいです!」
ノース様は時々よく分からないことを言っているけど、不思議と気にならないんだよね。リーステラ家にいたころは、聞こえない言葉は全て私を非難しているように聞こえて、とても不安に駆られていたのに。それもきっと、ノース様がすごく温かい人だからなんだと思う。
「ぐっ……!ルーツィアが嬉しそうで俺も嬉しいが、若干のジェラシーを感じなくもない気がしなくもない……」
「ぷふふ!セルヒ、本当に感情豊かになったよね~。前はクールすぎて心がないのかな?なんて言われてたこともあったのにさ」
そんな風にみんなでワイワイ話していると、ふわりと風が吹き、部屋の扉が開いた。
この風は──
『ルーツィア!我を仲間外れにするでない!』
「フワフワ!」
『アルヴァンに捕まってひどい目に遭っていたのだ!あの変態め!』
「ああ、アルヴァン様に……」
私は思わず苦笑してしまう。
最近のアルヴァン様は、隙あらばフワフワにつき纏っては愛を告げているのだ。
私としては微笑ましいな、とも思うのだけど……フワフワとしてはなかなか鬱陶しく思っているらしい。
キュウンキュウンと甘えた声をだして私に頭を擦りつけてくるフワフワを撫でていると、まさにそのアルヴァン様の声が響いた。
「あ、わ……!誇り高き、プライドも高き魔獣が、まるで甘えん坊の子犬のような声を出しているー!?ルーツィア嬢の側にいると、この世の奇跡の連続だ!」
今日のアルヴァン様は気絶することなく感激の声をあげている。さすがに少しは耐性がついたらしい。そりゃそうだよね、いつもいつも気絶していたら、大変なことになってしまうもの。
アルヴァン様はなぜか「これからは片時も離れずルーツィア嬢の側にいてもいいだろうか!?」と私の手を握りだしたけれど、私があまりのことに驚きに目を白黒させている間にセルヒ様にその手を叩き落されていた。
う、うーん、片時も離れず側にいられるのは、ちょっと……。
すると、私は突然、重大なことを思い出した。
(ああ!そうだ、私ってば!)
慌ててアルヴァン様を睨みつけているセルヒ様に向き直る。
「セルヒ様!一番伝えたいことを忘れていました!今回のこと、本当に本当に──」
この時、私は謝ろうと思っていた。『本当に、たくさん迷惑をかけてしまってごめんなさい』って。
私が魔塔に来たことで、セルヒ様にはいっぱいお世話になっているから。魔塔での暮らしそのものだけじゃあなくて、今日のミハイル様とのことだって……。
だけど、なぜか、今ここで謝罪を口にするのは違うような気がして。
代わりに、もっともっと伝えたい別の言葉が湧きあがってくる。
うん、そうだよね。絶対に、本当に伝えたいのはきっとこっちだもん。
私はそう思い、心からの笑顔を浮かべて、感情のままに口にする。
「セルヒ様、本当に、ありがとうございます!!」