軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20_天才魔法使いがいつ愛の告白するのか気になる。面白いから。(ノース視点)

俺──ノースは、目の前にいる同僚魔法使いの態度に思わずため息をついた。

「セルヒ様、本当にありがとうございました!」

「ああ」

今回の仕事を依頼してきた貴族家のご令嬢が、頬を染めてセルヒにお礼を言っているのに、この態度だ。

おいおいおい、せめて目くらい合わせてやればー?

視界の隅に辛うじて令嬢の姿が映ってるんだろうな?とは思うものの、セルヒは興味なさげにそちらを見ることもしないで、気のないのが丸分かりの返事をするだけ。いや、返事をしているだけまだマシか?

麗しのご令嬢がどうにか自分を見てもらおうと必死になってる姿が哀れで、可哀想になってくるよ。

だけどそうだった、こいつはこういうやつだった。ちょっとルーツィア嬢の前での態度がインパクトでかすぎて、忘れかけてたけど。

セルヒの態度に戸惑いながらも、それでもまだ食い下がろうとするご令嬢。

あーあ、どうやら今日のご令嬢は俺にはあまり興味がないらしい。まあそれもそうか。今日は侯爵家での仕事で、侯爵令嬢様ともなれば身分を気にするもんだもんね。

魔塔に入る際、魔法使いは家から除籍される必要がある。そして純粋に魔法使いとしての身分を得ることになる。魔塔の魔法使いは特別だから。

だからセルヒも俺も、今はもうただのセルヒで、ただのノースだ。

だけど、セルヒは魔塔の魔法使いの中でも有名で、あいつの生家が公爵家であることも広く知られている。家名は捨てても、あいつの家族は家族のままでいてくれたから。そういうやつは全くいないわけではないけれど、魔塔の魔法使いとしては珍しい方だ。大半が家族に疎ましがられ、魔塔に入るとともに縁を切られるから。

それにセルヒの場合はそれがなくとも、本人が天才と名高い魔法使いで、国から保証される身分としてはそれこそ公爵家にも引けを取らないもんだから、ますます高位貴族のご令嬢にはモテるわけだ。

高位貴族のご令嬢は自分に自信があるから、冷酷な女嫌いと噂の魔法使いでも果敢に挑んでくるしねえ。

(俺なんて特に、高位貴族の女の子には見向きもされないもんね~。顔だけならセルヒと同じくらい良いはずだし、愛想もあわせれば絶対俺の方がいいのになー)

それにしても、今日のご令嬢はなかなか頑張っている。

「あ、あの、セルヒ様!どうかお礼をしたいので、このあとお時間をいただけませんこと?異国で人気のお茶がありまして、是非ご一緒できればと……」

その誘いもどうせ無駄なのに……と思って見ていたら、セルヒの眉がピクリと動いた。

んん??

「異国で人気のお茶か……茶葉を見せてくれ」

「!!はい、もちろんですわ!」

なになにどういうこと?今までそんな誘いいくらでもあったじゃん。

令嬢もすっかり喜んで目を輝かせている。

俺は意外に思ったけれど……しかし、セルヒはセルヒだった。

令嬢に申し付けられて茶葉を持ってきた侍女から受け取ると、セルヒは少し何かを考えるようなそぶりを見せて、平然と言い放った。

「お言葉に甘えてこの茶葉はありがたくいただこう」

「えっ……?」

「魔塔で待つ俺の最愛に良い土産ができた。礼を言う」

(ああ~~~そういう感じにしちゃうのお???)

無表情のまま、結局目も合わさないままでそう告げたセルヒに、ご令嬢も侍女もさすがに言葉を失くし、これ以上は誘いをかけられないみたいだった。

「そ、そうですか……セルヒ様の、最愛の方……」

なんて残酷な男だろうか!だけどまあ、ある意味親切なのかもな。ご令嬢がまかり間違っても『自分に気があるかもしれない』、なーんて勘違いをしないようにしているわけだから。

(ま、セルヒの場合は全く微塵もご令嬢の為じゃなくて、ルーツィア嬢との間にすれ違いを絶対に生まないためってやつなんだろうけど……)

本当、一体誰がこの無表情で無口なセルヒから、ルーツィア嬢の前でデレデレでめちゃくちゃ喋るセルヒを想像できるだろうか。

茶葉をしっかり受け取ったセルヒはどことなく機嫌がよさそうだ。

「よかったねえ、ルーツィア嬢にいいお土産ができて……」

「ああ。ルーツィア嬢が喜んでくれるといいんだが」

「あーあ、そうやってどんどん求愛するんだな。ついにあの冷酷な女嫌いセルヒの熱烈な愛の告白が聞けるのかー。うぷぷ!」

ルーツィア嬢の名前を出すと、途端に顔を綻ばせるセルヒが面白くて、ちょっと軽い気持ちで揶揄ってみる。

すると、セルヒは心底不思議そうな顔で首を傾げて俺を見た。

「何を言っているんだ?愛の告白なんてするわけがないだろう」

「へっ?え……なになにどういうこと、怖い」

あんだけ求愛行動を繰り返しておいてなんだそれ!?『愛の告白なんて』って、じゃあどういうつもりでルーツィア嬢にデレデレしてんの!?

そう思い、俺は心底ゾッとした。

──しかし、やっぱりセルヒはセルヒだった。

「お前はバカじゃないのか。俺が愛の告白なんてしてみろ、心優しいルーツィア嬢が頭を悩ますに決まっているだろう?ただでさえ新しい生活に不安を覚えているはずなのに、そんな心労がかけられるわけがない。俺はルーツィア嬢に好きになってもらいたいから、愛を伝える行動は惜しまないが、今はまだ答えを決めろと迫るつもりは一切ない。はっきりと言葉にしてしまえば、明確な答えを出さなくてはいけなくなるだろう。彼女には余計なことを考えず、まずは俺に愛されていることを心から知ってほしいと思っている」

俺は思わずポカンと口を開けてセルヒを見る。

あんな周りが見えていないような態度をとっているわりに、めちゃくちゃ冷静に考えてるんじゃん……。

「てっきり、絶対に逃げられないようにさっさと愛の告白して、勢いでイエスの返事を引き出して、そのまま強引に囲いこむのかと思ってたわ……」

すると、珍しくセルヒはニヤリと笑う。

「まあ、絶対に好きになってもらうつもりだから、最終的な結果は変らないだろうがな」

「ぷっ、ぷふふ、そうだね、命かけてるんだもんね」

俺がそう言うと、セルヒは何のためらいもなく頷いた。

「ああ。何かを間違えて嫌われでもしたら俺は死ぬ」

「うひゃひゃ!」

その顔がやたらと神妙で、ますます笑えて来る。

「それにしても、ルーツィア嬢のことになると、本人がいなくても饒舌になるんだな。おもしろー」

「他人に向けた言葉足らずな説明が、何がどうなったのか本人の耳に入って誤解を生むというのも恋愛小説によくあるすれ違いパターンなんだよ……!!!」

「あ、そう……」

それにしても、俺はしみじみ思っちゃうよ。

お前の優しさ、本当にルーツィア嬢にしか発揮されないんだね……。