軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第045話 逃亡 ★

店を出た俺達はイレナのおすすめの店で昼食を食べた。

メニューはグラタンであり、非常に美味しかったし、エルシィもウェンディも嬉しそうに食べていた。

そして、昼食を終えると、イレナが見送ってくれるということで一緒に駅に向かって歩く。

「美味しかったですね」

「はい。隠れ家的なお店でしたし、雰囲気があって楽しかったです」

エルシィとウェンディは大満足だったようだ。

「よくあんな店を知ってたな?」

人通りが少ない路地裏にある店だった。

「観光客じゃなくて地元民が行く店よ。私も友達に聞いたの」

「へー……」

「ミックだけじゃなくて、王都もそこそこ詳しいからまた来る時があったら案内してあげるわ。旅行雑誌に載っているだけがすべてじゃないのよ」

確かにな。

今も大通りではなく、近道という人が少ない裏通りを歩いているが、イレナがいなかったら迷子になりそうだ。

「頼むわ」

「さっさとお金を貯めてアトリエを建てなさいよ。奥さんもいるわけだし、今後は子供のこともあるからいつまでもフラフラしてたらダメよ」

俺ってダメ男に見られているんだろうか?

「お前は?」

「そうね……両親に同じようなことを言われているわ――痛っ! どこ見て歩いているのよ!」

前方から黒いコートの男が歩いてきたのだが、手前でふらついてイレナとぶつかった。

「すみません……」

男はそう言うと、頭を下げ、逃げるように走っていく。

「ったく……酔っ払いかしら? こんな昼間から……あれ? 寒気が……え?」

イレナの様子がおかしいので走っている男から目線を切り、イレナを見る。

すると、イレナの腹部が赤く染まっていた。

「イレナさん!?」

エルシィが叫ぶと、イレナが膝をついた。

「あれ? 何これ? 痛くないんだけど……」

イレナは腹部に触れ、自分の手を見る。

すると、手も真っ赤に染まった。

「キャー!!」

「女性が刺されているぞ!」

「誰か! 医者を呼べっ!」

様子のおかしいイレナに気付いた周りの人間が騒ぎ出した。

「イレナ!」

腰を下ろし、イレナを支える。

「ねえ? 何これ? なんで刺されているの?」

「イレナさん、動かないでください!」

俺とエルシィはイレナをそーっと横にする。

腹部にはナイフが突き刺さっており、服を真っ赤に染めていた。

間違いなく、さっきの男が刺したんだろう。

「……レスターさん、毒の反応があります。そして、イレナさんの生命力が急激に落ちています」

ウェンディが耳元で囁いてくる。

「……毒?」

「……ええ。間違いなく、毒です。イレナさんを狙ったところを見るにイラドからの刺客ではなく、クムーラ商会かと……」

あの商会長、イレナに逆恨みしたか……

「ハァ、ハァ……」

イレナの顔が真っ青になっている。

これはマズい。

いや、こんな時のためのエリクサーを……エリクサーを……使うか? ここで? いや!

「エルシィ、合図を送ったらナイフを抜け」

エルシィに指示をすると、魔法のカバンから虹色の液体が入ったフラスコを取り出した。

「わ、わかりました」

エルシィが頷いてナイフを握ったので栓を抜き、イレナの頭を起こす。

「抜け!」

「はい!」

エルシィがナイフを抜いたのでイレナの口にフラスコを突っ込み、無理やり飲ます。

すると、ナイフを抜いた腹部から血が噴き出した。

「――ちょっ! やめっ! ゴホッ、ゴホッ! 何すんのよ! 殺す気か!」

イレナが勢いよく起き上がった。

「殺す気なのは俺じゃねーよ」

クムーラ商会だ。

「あれ? あれれ?」

イレナが自分の腹部を触る。

そして、服をめくったのだが、お腹は血で赤くなっているものの、まったく傷がなかったし、イレナの顔色も普通だった。

「大丈夫か?」

「あ、うん……あれ? 私、刺されて死ななかったっけ?」

死んではねーよ。

「……レスターさん」

ウェンディが小声で名前を呼んでくる。

もちろん、その意図はわかっている。

「イレナ、俺達はもう行かないといけない。だから今から言うことをよく聞け」

「え……うん」

「お前は刺されたが、幸い、ハイポーションがあったから無事だった。いいな?」

「ハイポーションで治るような感じでは……あ、いや、うん」

イレナが混乱しているようだが、頷いた。

「それと襲ったのは間違いなく、クムーラ商会だ。ラック商会に言って、貴族に動いてもらえ。密輸の件もあるし、それであそこは終わりだ」

「まあ、そうするけど……」

「よし。じゃあな。あと、俺達のことは誰にも言うな」

「わ、わかった」

イレナが頷いたのでエルシィとウェンディを見ると、2人も頷いた。

「行くぞ」

「はい。それではイレナさん、また」

「また奢ってくださいねー」

「え? ちょっ――」

俺達は一方的に別れを告げると、野次馬が集まりかけているこの場を足早にあとにした。

そして、そのまま歩いていくと、駅に到着したので受付で寝台車両の個室の切符を買い、列車に乗りこんだ。

個室は2段ベッドがあり、窓際にはテーブル付きの2人掛けのシートもあった。

「おー、良さそうです!」

ウェンディが嬉しそうに飛んでいき、2段ベッドの上に行く。

「先輩、大丈夫ですかね?」

エルシィが聞いてくる。

もちろん、さっきのエリクサーを使った件だ。

「裏道で人自体は少なかったし、多分な」

イレナは黙ってくれると思う。

そう思っていると、列車が揺れ、動き出した。

「出発ですね」

「ああ。面倒なことになる前に離れられたからセーフだ」

「そうですね」

俺達は窓際の2人掛けのシートに並んで座る。

「助けて良かったよな?」

「当たり前ですよ」

だよな……

一瞬、エリクサーを使うのか悩んでしまった。

「イレナは助かったし、良しとするか」

「はい。最後にあんなことがありましたが、ポード旅行は楽しかったですし、お金儲けもできました。万々歳です」

そうだな。

ミックも良い町だったし、イレナがおすすめするようにあそこでアトリエを開くのも悪くないだろう。

「次はターリーな」

「海ですね!」

「やったー!」

ベッドの上でウェンディが両手を上げた。

「ちょっと到着までは時間がかかるが、ゆっくりと車内で過ごすか」

「はい」

エルシィが頭を傾け、寄りかかってきた。

俺はそんなエルシィの頭を撫で、外を見る。

車窓から見える風景はどこまでも続く地平線が広がる平原だった。

◆◇◆

なんやかんやあった翌日。

私は店番をしながら服をめくり、腹部を見る。

「刺されたよね?」

あれから大変だった。

騒ぎを聞きつけてやってきた兵士に説明したり、ラック商会に行き、商会長さんに助けを求めたりと色々とあった。

昨日は商会長さんが懇意にしている宿屋に泊めてもらい、今日、朝の便で帰ってきたのだ。

また数日後に事情説明のために王都に行くことになっているが、とりあえずはミックに帰ってきたのだ。

「うーん……」

おぼろげながらに刺されたことを覚えている。

痛みはまったくなかったが、異常なまでの寒気が身体を襲い、どんどんと意識が遠くなっていった。

死ぬんだなって思いながら見たあの虹色の液体は……

そして、あっという間に身体の異常がなくなり、数十秒前の状態に戻ったあれは……

「エリクサー?」

あれから何度考えても伝説のそれが頭に浮かぶ。

でも、伝説は伝説だと思い、考え直すが、やはり浮かぶのはそれだ。

「どういうこと……あ、いらっしゃいませー」

40代くらいの男性が店に入ってきたので慌てて服を下ろし、笑顔で応対する。

すると、お客さんがこちらにやってきた。

「失礼。イレナさんですか?」

ん?

「そうだけど? どこかで会ったかしら?」

え? また暗殺者じゃないわよね?

「いえ……すみませんが、レスターという男性とエルシィという女性をご存じではないですか?」

もちろん、知っている。

最後まで名乗らなかったあの夫婦だ。

もっとも、人形ちゃんが名前を呼んでいたから知っているけど。

「ええ。一緒に仕事をしてたけど?」

嘘をついた方が良い気がするが、この男は確信を持って聞いてきている。

誤魔化すところではない。

「そうですか。実は私はレスターの叔父でしてね。レスターを探しているんですよ」

嘘つけ。

商人、舐めんな。

「そうなの? 何かあった?」

「ええ。家のことでちょっと……それであの2人がどこにいるのか知りたくて、訪ねさせてもらったんです」

そこで濁すか?

ダメだ、こいつ。

絶対に後ろめたいことがある人間だわ。

「そう。でも、2人はすでに旅立ったわよ」

「遅かったか……あの、どこに行ったか知りませんか?」

ゲイツ方面。

ゲイツかターリーか……

「飛空艇でランスに行くって言ってたわね。高い塔を見るんだってさ」

「なるほど……ありがとうございます」

男は礼を言うと、何も買わずに店を出ていった。

「ハァ……」

あの2人、やっぱりただの旅行者じゃなかったか。

あれだけの腕を持っている錬金術師が旅なんかしているし、逃げるように国を出たからおかしいと思った。

多分、何かをやらかして逃げてきた口でしょうね。

というか、エリクサーか……

「まあ、何でもいいわ」

私には関係ない。

儲けさせてもらったビジネスパートナーであり、命の恩人だ。

「しかし、あの人形は何だったのかしら?」

しゃべるし、飛ぶし、飲み食いをしていた。

実はエリクサーなんかよりもそっちの方がインパクトが強かったりした。