軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第002話 天使ちゃん

「幻覚でも幻聴でもない……」

触った感じはもふもふの人形だし、手を叩いてきた人形の手も柔らかい綿の感触だった。

「夢でもないですよ。私は天使のウェンディです」

名前あるんだ……

「えーっと、その天使ちゃんがどうしてここに? というか、なんで人形?」

「降臨した理由は話があるからです。人形に憑依しているのは天上の住人である私達はそのままの姿で地上には降りることができません。ですので、なんか私に似た人形があったのでそれに取り憑いたわけですね」

ウェンディがふよふよと浮かびながら答えてくれる。

「似てるのか? これ、ウチの後輩が作った人形だぞ」

「サイズは似てませんが、まあ、こんな感じです」

へー……

金髪で羽が生えているのかな?

「それで話って何だ?」

「そうですね。レスター・ハートフィールドさん……驚くかもしれませんが、あなたは別世界からの転生者なのです」

あ、はい。

「知ってるぞ」

「驚くでしょう? でも、事実なんです。まあ、覚えてないでしょうし、何を言っているんだって思うでしょうが……はい?」

ウェンディが説明している途中で首を傾げた。

「いや、転生者なのは知っている。前世の記憶があるからな。高橋直樹、享年45歳」

「あれぇ? 享年46歳ですが、高橋直樹さんで間違いないぞー……」

記憶が曖昧なのか1年ずれたか?

あ、いや、なんとか誕生日は越したんだ。

「そいつが俺だからな。つまらない人生だった」

「記憶が残っている? これも異世界転生の弊害? うーん……」

ウェンディは宙に浮いたまま腕を組み、悩んでいる。

「なあ、何か問題があるのか? いまいちわからないんだが……」

「あ、すみません。説明しますね。人は死ぬとまた違う誰かに生まれ変わるのです。もちろん、記憶や能力は引き継がれません」

それはそうだろう。

だとしたら世界は前世の記憶を持っている人間であふれているはずだ。

「それはわかる。自分でも自分が特別なことは重々承知している」

だからこのことは誰にも言ってない。

それこそ一番仲が良い後輩のエルシィにもだ。

「自分が特別……厨二くさいことを言いますね」

リアクションなんかを見ていてさっきから思っていたが、随分と俗っぽい天使だな。

「特別なのは事実なんだから仕方がないだろ。それよりも俺が前世の記憶を持っているのはなんでだ?」

「えーっとですね、人は転生するのですが、それは同一世界です。あなたであれば、地球のどこかの誰かに転生しないといけません。しかし、何らかの事故か誰かのミスで異なる世界……つまりこの世界に転生してしまったのです。私の推測ではそのせいで記憶を持っているのではないかと思っています。つまり記憶を消し忘れてたんですね」

何らかの事故か誰かのミスって言ったが、確実にミスの方だろ。

「ふむ……まあ、なんとなくわかった。これはマズいことか?」

「ちょっと……だから私が神に命じられて来たわけです」

「なるほどな……となると、俺の前世の記憶を消すのがお前の目的か?」

「いえ、そうではないです。そもそもレスターさんが前世の記憶を持っていることを今知りました」

そういやそんな反応だったな。

「それを知ってどうなる? やはり消すのか?」

何らかのルールに抵触してそうだが……

まあ、天使や神なんかの人外のルールなんか想像でもできないけど。

「いえ、それはできません。何故ならレスターさんの人格を形成するうえで前世の直樹さんの記憶が大きく関わっているからです。もし、直樹さんの記憶を消したらもうそれはレスターさんではありません。むしろ、記憶の喪失や人格破綻が起き、最悪は脳が処理できずに廃人化も十分にありえます」

怖っ!

「うーむ……まあ、確かに俺は前世の反省を踏まえて今を生きているからな」

俺の根底にある平穏に生きたいという思いは前世の失敗から来ている。

「そういうことです。なので私も神もあなたの記憶を消すということはできません」

「わかった。ならいい。それでお前は何しに来たんだ?」

「まずはあなたを異なる世界に連れてきてしまった謝罪です。そして、あなたが望むなら元の世界に連れて帰ることも可能です。どうですか?」

んー?

「元の世界って何だ? 俺はレスター・ハートフィールドだぞ」

高橋直樹ではない。

レスターが地球に帰ってどうするんだよ。

「あ、もちろん、死後の話です。先程説明しましたが、転生は同一世界でしかできません。ですが、あなたの同一世界がこの世界なのか地球なのか微妙な状態になっています。そこであなたに選んでもらおうと思ったわけですね」

俺の魂の所属が2つになったからか。

「いや、どっちでもいいんだが……死んだ後って今度は記憶がないわけだろ?」

それはもう俺じゃない。

魂は同じかもしれないが、他人だし、どうとでもなってくれって感じだ。

「そう思うかもしれませんが、選んでください。私達もどっちでもいいんです」

こいつらも決め手がないから俺に投げたわけだ。

「じゃあ、ここでいい。地球は未来がなさそうだし」

こっちの世界は魔法や錬金術があるし、楽しいだろう。

日本の便利な生活も捨てがたいが、地球の人口で考えた時に豊かな生活を送れる国に生まれる可能性はかなり低い。

ならばこっちだ。

「わかりました。それではそのように処理しましょう」

「頼む。話は終わりか?」

もう寝たいんだが……

「まだ謝罪の件が残っています。今回の神のミスの補填ですね」

おい……

神のミスって認めたぞ、こいつ……

この天使ちゃん、大丈夫か?

「補填って何だ?」

ウェンディの失言はスルーすることにする。

「神がギフトとしてレスターさんに1つだけ技能を授けることにしました」

補填っていうから金かと思った。

「技能? ピアノが弾ける能力とかはいらんぞ」

「そんなしょぼい技能じゃないです。レスターさんは錬金術師として働いていらっしゃるのでそれに関連した技能ですね。ズバリ! エリクサーを作れる能力です!」

「は?」

えりくさー?