軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第135話 ”私の人生はあなたのために”

俺達はエルシィのあとについていき、個室に入った。

部屋の中はここに来るまで乗った寝台列車とまったく同じ構造である。

「ふう……何とかなった」

「エルシィさんはさすがだと思います。ああいうことをやらせたら右に出る者はいません」

ウェンディが絶賛する。

「褒めてる、それ?」

「褒めてますよ。兵士さん達もですが、レスターさんもたじたじでした。あれでねだれば何でも買ってくれますよ」

「褒めてないなぁ……」

褒めてない気がする。

「まあ、なんでもいいだろ。とにかく、上手くいって良かった」

「ですねー」

「万々歳です」

ホントになー。

「レスターさん、カバンを開けてもいいですか?」

フリオが聞いてくる。

「悪いが、ちょっと待ってくれ。列車が発車するまでだ」

もう大丈夫だと思うが、まだ待ちたい。

「わかりました」

俺達は部屋の中でじっと待つ。

窓から外を覗くと、駆け込んでくる人が多く見える。

そして、その人達が見えなくなると、がたんと音がし、列車が動き出した。

「フリオ、いいぞ」

「はい」

フリオはゆっくりとカバンを開けると、中で寝ているオフェリアをお姫様抱っこで持ち、ベッドに寝かせる。

「ちゃんと寝てるな」

「はい。起きるのは1時間後でしたよね?」

「ああ。だからあと15分やそこらだと思う」

「わかりました」

俺とエルシィは並んでシートに座り、フリオはオフェリアのそばで起きるのを待つ。

しばらく待っていると、列車がトンネルの中に入ったようで窓からは何も見えなくなる。

それでもウェンディは窓に張り付き、外を眺めていた。

「エルシィ、お前っていつでも泣けるの?」

「泣けますよー。涙は乙女の武器です」

へー……

「すごいな」

「そんなことないですよー」

いや、ホントすごいわ。

「――オフェリア!」

「ん?」

フリオが声を出したのでベッドの方を見る。

すると、オフェリアがフリオに背中を支えられながら上半身を起こしていた。

「ここは? あれ? 何ですっけ?」

寝ぼけてるな。

「列車の中だよ。脱出は成功したんだ」

「脱出……あ、カバン」

オフェリアが自分が入っていたカバンを見る。

「ああ。もう大丈夫だ」

「そ、そうですか……無事に改札を突破できたんですね」

「エルシィさんの迫真の演技のおかげでね」

「演技? あ、いえ……レスターさん、エルシィさん、ありがとうございました」

オフェリアは立ち上がると、礼を言ってくる。

「気にするな。俺達も無事に国外に出られた」

「ええ。今、トンネルですのでここを抜けたらランスのレンジェの町ですよ」

多分、着くのは明日の午前中だな。

「トンネル……だから暗いんですね」

「そういうこと。ずっと緊張状態だったろ? 今日はゆっくり休めよ。俺達も自分達の部屋に行くから」

そう言って立ち上がると、エルシィも窓に張り付いているウェンディを抱えて立ち上がった。

「そうさせてもらいます。正直、ここ数日はロクに寝ていませんので」

だろうな。

「フリオもここまで来たら大丈夫だからゆっくり休めよ」

「はい」

「じゃあ、また後で」

俺達は部屋を出ると、隣の自分達の部屋に入る。

当然、同じ構造なため、シートに並んで座った。

「上手くいって良かったな」

「ええ。2人も上手くいきそうですし、私達も無事に脱出できました」

ウェンディが言うようにバンバンザイだな。

「俺達も休むか」

「ええ。本でも読みましょう」

俺達もゆっくり過ごすことにし、本を読んだり、話をしながら過ごしていく。

この日、フリオとオフェリアがこの部屋に来ることはなかった。

そして翌日、朝起きて準備をしていると、フリオとオフェリアが訪ねてきた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「ええ。前は列車の揺れが気になって眠れませんでしたが、昨夜はよく眠れました。やはり原因は精神的なもののようでしたね」

人生がかかった逃亡だからな。

仕方がない。

「これからはゆっくり眠れる日々だ。もうすぐでレンジェの町に着くぞ」

「はい。御二人はどうされるんですか?」

「俺達はレンジェの町に降りない。そのまま列車に乗って北上する」

エルシィと話し合ってそう決めている。

だから切符も最初から俺達の分はそれ用を買っているのだ。

「そうですか……では、ここでお別れですね」

「そうなるな。例のカバンはそのままやるからそれで改札を抜けてくれ」

そう言って、オフェリアに睡眠薬を渡す。

「何から何までありがとうございます。あなた方には一生の恩ができました」

「気にするな。仕事だ」

「確かに仕事ですね。それでは精算をしましょう。まず、これが成功報酬の500万ゼルです。受け取ってください」

オフェリアがそう言うと、フリオが札束5つを渡してくる。

「ああ。確かに」

すごい金だ。

「それとこれが切符代です」

フリオが今度は立て替えてくれたエルシィに料金を支払う。

「はい。確かにー」

エルシィが財布に受け取った金を入れた。

「では、精算は以上ですね」

「そうなるな……オフェリア、俺もお前に渡すものがある」

「何でしょう?」

「正確には俺からじゃない。アデリナからだ」

カバンから手紙を取り出すと、オフェリアに渡す。

「これは……手紙?」

「屋敷を出る際にアデリナから渡してほしいと頼まれたやつだ。直接渡すのが恥ずかしいんだとさ」

「そ、そうですか……」

「読むなら後で読めよ」

多分、泣くだろうし。

「わかってます……レスターさん、エルシィさん、本当にありがとうございました。あなた方のおかげで私は新しい人生を歩めそうです」

オフェリアがそう言って、深々と頭を下げた。

「頑張ってくれ。フリオもな」

「頑張ってくださーい」

「ありがとうございます」

「本当に助かりました」

フリオもまた、頭を下げる。

「またいつかどこかで会ったらよろしくな」

「はい。この恩に報いることをお約束します」

「俺達もだよ。反乱のことを教えてもらったし、王都を案内してくれて助かった。特に馬が良かった」

「楽しそうでしたものね」

オフェリアが微笑んだ。

「さて、そろそろレンジェの町に着く。準備をした方が良いぞ」

オフェリアが薬を飲んでカバンに入らないといけない。

「はい。それではこれで……御二人の人生に幸があることを祈っております」

「ありがとうございました」

オフェリアとフリオが再び頭を下げた。

「私達も祈ってます」

「お気を付けて」

ウェンディも声をかける。

「じゃあな。フリオ、色々と頑張れよ」

「そうします。では、これで……」

2人はもう一度頭を下げると、部屋から出ていった。

そして、しばらくすると、列車が停まったので窓の外を見る。

「あ、フリオだ」

「本当ですね。ばいばーい」

俺達が手を振ると、大きなカバンを持ったフリオが笑顔で手を振り返し、そのまま階段を昇っていってしまった。

「行ったか……」

「幸せになってほしいですね。ロマンチック夫婦ですし」

ホントにな。

俺達がそのまま待っていると、列車が動き出し、レンジェの町の駅をあとにした。

そして、今度は平原を進みだす。

「おー、久しぶりの平原です」

これまではトンネルや山ばかりだったのだ。

「そうだな……エルシィ」

窓の外を眺めているエルシィに声をかけると、手を握った。

「んー? 何ですか?」

エルシィの左手を持ち上げる。

「ほら、色褪せないプラチナだ」

装飾屋のダナさんに言われた通り、エルシィの薬指に作った指輪をはめる。

サイズもぴったりだ。

「おー! 永遠の愛です!」

「ちゃんと言ってなかったな。結婚して、一緒にアトリエを開こう」

「もちろんですよー。じゃあ、先輩にもでーす」

エルシィも俺の手を取ると、薬指に同じプラチナ指輪をはめた。

「ん? お前も作ったのか?」

いつの間に……

「もちろんですよー。永遠の愛です。一生ついていきまーす」

エルシィが腕を組んできて、頭を預けてきた。

「そうだな……そうしてくれ」

「ウェンディちゃん、祝福、祝福」

エルシィがそう言うと、窓に張り付いていたウェンディが俺達の前にふよふよと浮く。

「大天使ウェンディの名において、汝らの人生に幸あることを約束する。汝らは永遠の絆で結ばれ、その愛は未来永劫である。エンジェルブレッシング!」

ウェンディが両手を広げると、なんかキラキラと光りだした。

「ウェンディ、ありがとうな」

「ありがとー」

「いえいえ。お幸せに」

ウェンディはそう言うと、再び、窓に張り付く。

「さて、ランスに着いたな」

「ええ。ランスでも楽しんでお金儲けをしましょー。目標のアトリエまでもうすぐです。えいえい、おー!」

おー。