軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(35)

一人一人名前を呼ばれて卒業生たちが会場内に入っていった。

迎えるのは卒業生の保護者と侯爵以上の主だった貴族、そして王室のメンバーだ。

ほかに、王立騎士団の将校と音楽と詩の世界の第一人者たちの姿もあった。

「ワイス夫人だわ」

レイチェルが囁いた。

「舞踏会の最後に音楽と詩についての講評があるの。全体の講評のあと、王の前に出て、一人ずつワイス夫人から言葉をもらうんですって」

「僕らの時もあったよ。男子は剣と馬術の講評をもらってたな。僕は選ばれなかったけど、ケヴィンとエイドリアンが将軍からめちゃくちゃ褒められてた」

バーニーが言い、男子の卒業生に親しい者はいるかと聞いた。

フェリシアとレイチェルが首を横に振ると「じゃあ、注目は詩作の講評だな」と言って笑う。

「レイチェルもフェリシアも学校の推薦を受けてるんだろ?」

「そのことだけど……」

ケヴィンが難しい顔で口を挟む。

「今日は、ちょっと厳しい話があるかもしれない」

ケヴィンがなかなか待ち合わせ場所に来られなかったのは、王室内で「ちょっとした事件」があったからだという。

詩作に関することらしい。

「あんなに怒ったワイス夫人を見たのは、初めてだ」

よく見ると、夫人は今も厳しい表情で口元を引き結んでいる。

青い瞳の奥には怒りの炎が燃えているようにも見えた。

「何かしら」

レイチェルは不安そうに眉を顰めた。

ケヴィンは「レイチェルとフェリシアは、心配しなくていいと思う」と言った。「むしろ……」と言いかけ、とりあえず、あとでわかることだから、これ以上は控えておくと言って、話題を変える。

「自由に踊っていいみたいだ。せっかくだから踊ろう」

ケヴィンと向かい合って踊り始めると、学園の友人たちやよく知らない人たちまでもがフェリシアを振り返った。

「近々発表される第二王子の婚約者って、彼女だったのか」

「エアハート家のフェリシアだ。詩作の名人だよ。お似合いじゃないか」

正式な発表はまだ先でも、噂が先行するのはよくあることだ。

壁際に立って若い人たちが踊るのを見ている父と母が、まわりの人から祝福されているのが見えた。

別の壁際ではサイラスの父親であるヘイマー侯爵が青い顔をしている。

軽やかなステップを踏みながらくるくる回るフェリシアを、遠くでサイラスが呆然と見つめる。

「きみに恥をかかせたサイラスに、少しは仕返しができたかな」

ケヴィンが悪戯っぽく囁いた。

「バーニーから聞いたよ。婚約を破棄してすぐに、サイラスはきみの従姉妹と婚約したんだろ? そのことで、きみは周囲から同情されていたとか」

「ええと……、可哀そうにって言われたわ」

ケヴィンがぷっと噴き出す。

フェリシアもくすくす笑った。

「王子なんていう身分は邪魔な場合のほうが多いけど、権威に弱い連中の前では威力を発揮する。ふだん窮屈な思いをしているんだから、こういう時にはその利点を生かしてもいいだろう」

ケヴィンが王子でなくても、フェリシアは魅かれたと思う。

けれど、まわりの人が王子であるケヴィンとの婚約を祝福したり羨ましがったりするのも、わかる。

サイラスのようなタイプの人が、自分と比較して落ち込むことも容易に想像できた。

「仕返しだなんて、意外と性格が悪いのね」

「嫌いになる?」

「まさか」

フェリシアは、自分も天使などではないことを自覚している。

考え方が合わないというだけで、サイラスやメイジーを好きになれないのは、きっとフェリシアの心が狭いからだろう。

しかも、それを直そうという気持ちもない。

(私にもたくさん欠点があるもの。一緒に生きていく人に、完璧さを求めることはできないわ……)

心の中で呟いて、一人でくすりと笑った。

ダンスを続けるうちに、サイラスとメイジーのそばまで来てしまった。

サイラスから苛ついた気配が伝わってくる。

ダンスやおしゃれには高いセンスを見せるサイラスのリードは完璧なのに、メイジーがしょっちゅう人にぶつかっているかららしかった。

まわりから迷惑そうに睨まれても、メイジーは気にする様子もなくへらへら笑っている。

「何がそんなに楽しいんだよ」

苛立ちに満ちたサイラスの声が背中側から聞こえた。

「何がって……、こんな立派な舞踏会、初めてだし……、それに、あとで詩の講評があるのよ」

「あ、そうか……。きみも選ばれてるんだよな、メイジー」

講評を受けた生徒を王の前までエスコートするのはパートナーの役目だ。

華々しい出番を思い描いたのか、刺々しかったサイラスの気配が若干和らいだ。

ケヴィンがチラリと二人に視線を送った。

どうかしたのかと目で問うと、なんでもないと首を振る。

「ケヴィン。あとで、私のエスコートもよろしくね」

「もちろんだよ。詩作の優秀者をエスコートできるのは、とても光栄なことだからね」