軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

問題発言(ICBM)

マリーナはにこっと笑う。

「先日の魔獣襲来では、わたくしたち皆ユールノヴァ様とチェルニー様にお助けいただきました。それなのに、お礼も申し上げずにおりましたこと、お詫び申し上げます。どうかお許しくださいませ」

エカテリーナとフローラは、思わず顔を見合わせた。

「実は、以前からお二方とお話ししてみたかったのですわ。でも、柄にもなく気後れしておりましたの。……だって」

ぽっ、とマリーナが赤くなる。

「ユールノヴァ様が初めてクラスにお出でになった時……。兄君にお手を取られてご一緒されたお姿が、あまりにお美しくて!お二方とも同じ学生とは思えないほど大人びていらして、別の世界の方のようで。わたくしなどが話しかけてはいけないのではないかと思いましたの!」

ああ……。

すまん。悪役兄妹、無駄に迫力あったみたいですまん。

あ、お兄様もセットだと背景は何になるんだろう……ディズニー映画の氷の城とか?はっ、ダークサイドに堕ちたお兄様が氷の城の孤高の城主とかって設定、超萌える!

って今そんな場合じゃないだろアホか自分!

しかしマリーナ嬢やけにうっとりしてるけど、もしやこの子はお兄様のファンかしら。

「でも、実はユールノヴァ様は、気さくな方ではないかと思うようになったのですわ。チェルニー様とお話しされるご様子や、それから、先程の」

笑いを堪えるように、マリーナはあわてて言葉を切る。

先程のって……『排泄』?

『排泄』と発言したら伯爵令嬢が釣れた件。

いやおかしいだろ。言った私が言うのもなんだけど、あれで親しみを感じるって、君は小学生男子かね。

「チェルニー様も、今までごめんなさい。庶民のお生まれと聞いたのに、わたくしよりもずっと品があってお綺麗なんですもの。本当は違うのではないかとか、何か裏があるのではないかとか、勘繰ってしまったの」

さばさばした口調で言われ、フローラは目を見張ってくすりと笑った。

もう一度フローラと顔を見合わせて、エカテリーナは微笑む。

「クルイモフ様、ご用の向きは解りましたわ。謝罪などしていただくには及びませんけれど、お気になさるなら謝罪を受け入れましょう。

率直なお言葉、嬉しゅうございました。よろしければこれからは、親しくお話ししとうございますわ」

「嬉しい!ぜひお願いします、わたくしのことはマリーナとお呼びくださいな」

「ではわたくしのこともエカテリーナと」

「チェルニー様も、フローラ様とお呼びしても?」

「もちろんです」

三人の少女が笑みを交わし、ほのぼのとした空気になった、その時。

「あの……」

おずおずとした声がかかった。

「あの、わ、わたしも、お詫びしたいです。あの時……ごめんなさい」

マリーナの少し後ろに必死な様子で立っているのは、つややかな栗色の髪をリボンで束ねた、若草色の瞳の小柄な少女だ。クラスでもあまり目立たない方の、たぶん男爵令嬢。

しかし、ごめんなさいってなんぞ?

と首を傾げかけて、エカテリーナははたと思い出した。

「もしや、実習場で」

魔獣から逃げる途中、転んだ子?

「は、はい、そうです。オリガ・フルールスと申します。

わたし、あの時、こ、転んでしまって。もう駄目と思ったら土壁が。助けていただきました。

ユールノヴァ様があそこに留まったのは、そのせいでは……わたしのせいで逃げられなかったのではないかと、ずっと気になって……」

いやいや、そんなことないから。気に病むことないから!

しかし、『魔獣が現れることは知ってて戦る気マンマンだったから大丈夫!』なんて言えない。

だからとりあえずこう言っとこう。

「お怪我はありませんでしたこと?」

栗色の髪の少女は目を見張り、こくこくとうなずいた。

「そう。あなたがご無事で、ようございましたわ」

うん。本当に。

みんな無事で良かったよね。

「わたくしは、ただ無謀だったのですわ。それだけ。逃げることはできましたし、逃げるべきでしたわ。それなのにわたくしは、自分でそうしないことを選びましたの。後で兄に叱られましたのよ」

にっこり笑うと、オリガは目にうっすら涙を浮かべて、ちいさな笑みを返した。

「あの、わたくしたちも!」

オリガの後ろからさらに一団の生徒たちが声を上げ、エカテリーナはぎょっとする。

このクラスの最大勢力であるマリーナの取り巻き(というかファン的女子?)を中心に、男子生徒まで含んだ生徒たちが、やけに熱意のこもった顔つきでじりじりと迫ってきている。

「わたくしもお詫びしたくて」

「お話ししたいと思っておりました」

「逃げてごめん、あれに立ち向かうなんてすごいよ」

えーと、これは……なんぞ。

そこへ教師がやってきて、全員あわてて席へ戻ったのだが。

エカテリーナは考え込まずにいられなかった。

お兄様の誓言やフローラちゃんの聖属性のことを公言すれば、あからさまな意地悪はなくなるだろうと思っていたけど。さっきのは予想を超えていた。

なんだろう、ユールノヴァ公爵家の威光も一因?

ゲームでは、イベントの後もまだしばらくはヒロインへの意地悪は続いていたはず。ここもゲームから乖離しつつあるのだろうか。

このまま、フローラちゃんへの意地悪はなくなるのか。それとも、すぐゲームの法則が働いて、元に戻ってしまうのか……。

もちろん意地悪がなくなってくれれば嬉しいけど、ゲームと乖離することで何かひずみが出て想定外の問題が起きるとか、そんな可能性もないとはいえない。

とにかく油断はしないでいよう。

が、その日の昼休みになると、エカテリーナはそんな心構えをまるっと忘れ果てることになる。

いつも通り食事を持って行った執務室には、新顔がいた。

エフレム・ローゼン。ユールノヴァ騎士団を束ねる騎士団長である。

年齢は四十代半ばくらい、鉄灰色の髪と同色の口髭を蓄えた、寡黙な印象の渋い美丈夫だ。

着ている装束が前世で見たファンタジーや、実在したテンプル騎士団とかの騎士そのもので、そんな人物と食卓を囲んでエカテリーナはテンションだだ上がりだったのだが、そこへアレクセイがこう言った。

「そろそろ薔薇の季節が近いだろう。それで今年、皇室御一家が公爵邸へ行幸される日が決まったと連絡があった。お前は両陛下への初めての拝謁になるから、何か準備が必要なら言いなさい」

「……は?」

皇室御一家が公爵邸へ行幸……?

行幸。

日本語ならぎょうこう。みゆきとも読む。

今ひとたびのみゆきまたなん。百人一首。上の句なんだっけ……。峰の紅葉葉心あらば。駄目だ最初が思い出せないなー。

ってあああ現実逃避が止まらないい!

皇室が一家揃ってうちに来るとおっしゃいますかー!

さすがお兄様。問題発言の質が私とは大違いです。

言葉はわかるのに意味が理解できないレベルです。

ICBM(大陸間弾道ミサイル)叩き込まれたくらいの衝撃です‼︎