軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イベントクリアと位置関係問題

「良かったね」

ひええ⁉︎

突然かけられた声に、口から心臓がぴょんと出そうになる。いつの間にか、ミハイルが隣に立っていた。

ああっ、皇子すまん!存在をすっかり忘れてた!

なんて事実に絶対気付かれちゃならねえ!

と、思った次の瞬間、ミハイルの目がきらっと光る。

怒ったふうではなく可笑しそうな感じだったが……なぜだろう、忘れてたとバレてる気が……。

「ユールノヴァが正式にチェルニー嬢の後ろ盾についたことが皆に伝われば、彼女の学園生活は安泰だろう。いつも一緒にいて目を光らせなくても、もう安全だよ」

皇子……フローラちゃんが意地悪されてること知ってたのか。ロイヤルプリンスなのに本当に目端が利く子だなあ。そういえば前に話しかけてきた時も、目ざといなあと思ったんだった。

と思ったところで、ふと気付く。皇子の制服が、土埃で汚れている。

あ……さっきの土壁だ!お兄様と皇子を魔獣から守ろうと思って、でも制御できなくなって崩れてしまって……。

「殿下、申し訳ございません」

あわてて、エカテリーナはミハイルの制服をぱたぱたとはたく。

てゆーか落ち着いて考えると、あの土壁、全然必要なかったよね……。

お兄様も皇子も、自分でもっとうまく対応できたよ。

それどころか、あれが魔獣のジャンプ台になるわ、制御を失って二人の上に崩したせいで二人が魔力を放てなくしてしまうわ……。

自分で自分をピンチにしただけやん。全然ダメやん……。

「殿下、貴い御身でありながら駆け付けていただき、本当に恐れ入りますわ。それなのに、わたくし、このような不調法を……」

しょんぼりと呟く。と、ミハイルは微笑んだ。

「この前、美味しいものをもらったから。令嬢の手料理なんて貴重だ」

……餌付けの威力、すげえ。

いやゲームの法則ゆえだろうけど。ゲームで皇子がヒロインを助けに来ると決まっているから来てくれたんだけど。

「それから、僕もアレクセイも、魔力戦闘の訓練を受けている。魔獣の掃討も経験がある。君がそういう訓練を受けたことがないなら、あそこで力が尽きても仕方ないというか、当然だよ」

うう……。フォローなのか責めてるのかよくわからない……。

ってちょっと待て。魔獣の掃討経験て、まだ十五歳で皇位継承順位一位のお方に何やらしとんじゃ!

「まあ、アレクセイはともかく僕の魔獣退治はただの儀式で、お膳立てが全部出来上がってたんだけどね。偉そうに言ってごめん。ユールノヴァ領は強力な魔獣の出現が多いから、アレクセイは何度も本気の掃討を指揮したことがあるはずだけど」

笑ってミハイルは種明かしをする。

なるほどー、ってアナタ、儀式ってことはあらかじめ目星をつけていた魔獣を兵士が取り囲んだ中で倒したとかですか?それだってあんなのと向き合ったら怖いわ。さらにそんな経験しかないのに、あんな巨体の魔獣を落ち着き払って水槍でしばき倒してたのか?逆にすごいわ。

そして公爵の業務範囲が広すぎる!総合商社の社長兼県知事兼魔獣掃討の指揮官て!お兄様、すげえ!

「でも、君、覚悟した方がいい。アレクセイのことだから、後で落ち着いたらお説教だと思うよ。アレクセイはきっちり理詰めでくるから、説教されるとすごくつらい。僕らは小さい頃からの遊び友達だけど、大人に怒られるよりアレクセイに説教される方がこたえるから、僕が悪いことをすると母上がアレクセイを呼ぶくらいだった。頑張ってね」

うっ……。い、いやそれ周りの大人がどうなんだ!とはいえさすがお兄様……。

お、お兄様シスコンだから説教なんかしないもん!

なんか楽しそうだぞ皇子……。けっこう性格悪い?こっちが悪役令嬢だから?

「だからその前に僕から言うけど」

ミハイルはにっこり笑う。

わーんなんだよー!

高校一年生に何か言われてもアラサーはどうってことないからなー!

「君はとても勇敢だった」

……はい?

「あんなに泣くほど怖かったのに、よく頑張ったね。

教職員も含めて、ここにいる四人がこの魔法学園で最も強い魔力を持っていると思う。君が踏み止まったから、この四人が集まって力を合わせることができて、誰も犠牲者を出さずに済んだんだ。

一人で立ち向かうなんて無謀だけど、でも僕は、君のしたことはとても立派だったと思う」

…………………………。

えーと、ですね。

そんな、褒められたもんじゃないんですよ。

ゲームの知識があって、あれを倒さないと大変なことになるってわかってたから頑張っただけで。

でも、ちょっと、うん……嬉しい。

さっき前世の仕事のこと思い出したせいかな。三時間以内にシステム障害を復旧させないと損害賠償って言われた時。

ほぼ一人で十五分で原因特定して、そこから三十分で復旧させましたよ。

そんで復旧報告した時に言われたのは「クライアントの業務開始までに原因と再発防止策まとめて報告書出して」だったもんです。

原因?無理ってあれほど言ったのに無理矢理ぶっこんできた仕様変更のせいだよバカヤロー!

とか言わずに淡々と報告書作りましたよ。完徹で。SEなんてそんなお仕事さ。

今回、頑張ったら褒められました。

たったそれだけのことなのに、うるっときちゃった自分ってどうよ。

前世、報われないことに慣れきってたけど、それでもやっぱり辛かったんだなあ。

ありがとう、皇子。

十五歳にしてアラサーを泣かすとは、末恐ろしい子や。将来きっと、沢山の部下から慕われたり畏れられたりする、立派なトップになるよ。

と思ったら、ミハイルが両手でエカテリーナの両手を取った。

「何か悲しくさせたのかな。ごめん」

「い、いえ、そういうわけではございませんわ」

「なら良かった。ねえ、できたらこれから、僕のことは殿下じゃなくてミハイルと呼んでくれないかな」

「はい……は⁉︎」

令嬢らしからぬ素っ頓狂な声を出してしまったのは、ミハイルの言葉に覚えがあったからだ。前世の乙女ゲームで。

一緒に魔獣を撃退したことで親密度が上がった皇子が、ヒロインに言う。僕のことはミハイルと呼んでくれと。

ヒロインに!言う台詞。ここ大事!

悪役令嬢に言うたらあかん。

「お、恐れ多うございますわ」

「アレクセイだって、爵位を継ぐまでは僕を殿下なんて呼んでなかった。公爵を継いだとたん、君臣の秩序とか言い出したけど。

君は親戚でもあるし、公爵じゃない。なんの問題もない」

いや問題ある!どういう問題かは言えないけど!

こ、これどうしたらいいんだ。破滅フラグ回避的にどうするのが正解なの?

「殿下」

すうっと涼しくなった。気温ではなく、背中が。

声をかけてきたのはもちろんアレクセイだ。

長身が、いつも以上に大きく見える。理由は不明だが、なぜかそびえ立って見える。

でもって、視線が氷点下だ。

「あ、ごめん」

あわててミハイルが、エカテリーナの手を離した。

え、これのせい?

さすがお兄様、君臣の秩序より妹を優先。シスコン揺るぎなし。

エカテリーナの傍らに歩み寄ったアレクセイは、妹の手を取るとミハイルを見下ろした。

「殿下。我が妹の評判を落としかねない振る舞いは、厳に慎んでいただきますよう」

「すまない。彼女の勇気に、強く感銘を受けたものだから。君の妹君はとても勇敢で素敵だね」

手を取られただけで評判落ちるのか。でも英国ヴィクトリア朝の貴族社会とか確かにそうだったような。気を付けよう。

しかし皇子……お兄様のシスコンにつけ込もうと私を褒め殺しにきてるんじゃないのか。

その年齢で賢い上に小賢しいとは、やるな。お姉さんは君の将来が本当に楽しみだ。

「チェルニー嬢も、ぜひ僕のことは名前で呼んでほしい。あの魔獣を倒した魔力は素晴らしかった。友達になってくれたら嬉しいよ」

おお!

皇子、えらいぞ。ちゃんとヒロインに接近してる。

よっしゃ、それならのった!

「光栄でございますわ。ね、フローラ様。わたくし達のことも、嬢などとお付けにならず、親しく名前をお呼びいただければ嬉しゅうございます。フローラ様、よろしいかしら」

「は、はい。エカテリーナ様がそうおっしゃるなら」

アレクセイと一緒に、彼とは反対側のエカテリーナの隣に歩み寄って来ていたフローラは、目を丸くした後ににっこり笑った。

そして、エカテリーナの腕を取って、腕を絡めてくる。

ああ、かわいい。至近距離のにっこりの威力よ……。

そして向こうから腕を組みにきてくれましたよ。

ユールノヴァじゃなくエカテリーナ呼びも定着して、一気に距離が縮まった感じ。

この状況、すごくない?片手にお兄様、片手にヒロイン。両手に華っていうか両手にゴージャス。

そして目の前には皇子という。

……若干、位置関係がおかしい気はするんだけども。

フローラちゃん、もうちょっと皇子にフレンドリーでも良くない?なんか皇子に向ける視線が厳しいような気がするんだけど。

皇子を攻略するには、こっちからグイグイ行くのはNGだから、まあいいのか。

こう見えて皇子、相手が引くと追ってくるハンターだし、邪魔者とか障害があるとかえって燃える、肉食っぽいタイプなんだよな。

お兄様ルートが生まれたのかも気になるけど、フローラちゃん、頑張って!