軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖と魔の邂逅

ああっ、夜遅くに声が大きすぎた!

フローラちゃん隣の部屋なんだから、そりゃ窓開けて話していたら聞こえるわ。ど、どうしよう。

あせるエカテリーナだが、ヴラドフォーレンは悠然と構えている。

「落ち着け。他の人間には、俺の姿は鳥に見えると言っただろう」

他人の目には、少女が鳥と語らっている図にしか見えないと。

いやそれ、私がめちゃくちゃ夢見がちな子じゃないでしょうか。

「あれは、お前が近頃いつも一緒にいる娘か」

「はい、わたくしの大切なお友達、フローラ様ですわ。聖の魔力をお持ちでいらっしゃいますの」

「ほう」

ヴラドフォーレンの声に、興味ありげな響きが混じる。それを聞き取って、エカテリーナははっとした。

そういえば、魔竜王様は聖の魔力を持つ聖女と、因縁が深いんだった。

ていうか、うっかりしてた!

夏休み中は乙女ゲームのシナリオと関わりがないから、ここしばらくゲームのことが頭からすっかり飛んでたけど。

魔竜王様は、乙女ゲームの攻略対象なんだよ。つまり、フローラちゃんの恋のお相手になるかもしれない候補者!

この状況は、たぶんゲームでの出会いとは全然違うのだろうけど。でも、顔を合わせたら、ルートに入る可能性が……⁉︎

いや、ユールノヴァに来た時点で、魔竜王ルートに入っていたのかも⁉︎

フローラちゃんはどうやら、皇子ルートには入っていないようだった。いやわかんないけど、自覚ないだけ、とかだったらわかんないけど。

一度、顔を合わせてもらった方がいいのでは⁉︎

今うやむやにすると、後々モヤモヤ考えることになるような気がするし。こういう時はスパッとやってしまった方が、精神的に楽!

あ、いやでも夜中だし。

はっ!フローラちゃん、当然もう 夜着(ネグリジェ) だよね。

いかん。清純派ヒロイン・フローラちゃんをいきなりそんな姿で会わせるなんて、お姉さんは許しません!

などと脳内でのあれこれにかまけていたため、フローラへの返答が遅れ――。

時間切れ。

部屋の扉が、ためらいがちに開かれた。

「あ……起きていらしたんですね。遅い時間にすみません」

ドアの陰から顔を覗かせたフローラが、恐縮した様子で頭を下げる。

「フローラ様。このような時刻に、いかがなさいまして?」

しゅっと令嬢の皮を被って、エカテリーナは穏やかに微笑んだ。

「話し声が聞こえた気がしたんです。それで、万一エカテリーナ様の身に何かあったらと心配になって……」

「まあ、フローラ様」

エカテリーナはほろりとする。心配してくれるなんて、ええ子や。

「ありがとう存じますわ。ご心配いただくようなことは、何もございませんのよ……」

ヒロインを攻略対象と会わせるべきか、まだ迷いがあるため、エカテリーナの語調はあいまいになる。

それを不思議に思ったのだろう、フローラがあらためて部屋の中を見回し――窓の外のヴラドフォーレンに気付いた。

「エカテリーナ様、こんな時間にあんな大きな鳥が?」

「え、ええ。珍しゅうございますわね」

よかった、本当に鳥に見えているんだ。

安堵しているエカテリーナに気付かない様子で、フローラはじっと『鳥』を見つめている。

そして、はっと息を呑むと、部屋へ駆け込んできた。

「エカテリーナ様、あれは、鳥ではありません!」

エカテリーナを背に庇ってヴラドフォーレンに向き合った、フローラの中に――魔力が、満ちる。

「フローラ様……!」

エカテリーナの制止は間に合わず、フローラの身体から、白い光が放たれた。

白い光が、ヴラドフォーレンを包む。

これは、かつて学園に魔獣が出現した時、その魔獣を撃退した聖の魔力だ。エカテリーナ、アレクセイ、ミハイルが共闘してもなお、倒しきれなかった強力で凶暴な魔獣が、この白い光に包まれると鎮められ和らいで消えていった。

あの時にはまだ自分の魔力が何かも知らなかったフローラだったが、その後は研鑽を重ねて魔力を磨き、聖の魔力は当時より威力を増している。

が――その光はあっさりと弾け飛んで、消えた。

エカテリーナの目には、ヴラドフォーレンは変わらず悠然と宙にたたずんでいるように見える。しかし、フローラは目を見張っていた。

「人間……?」

ああ、フローラちゃんにも魔竜王様は人間の姿で見えるようになったんだ。というか、鳥に見える仕掛けが無効化されたのだろう。

そのヴラドフォーレンは、じっとフローラを見据えている。そして、すうっと宙を滑って窓から部屋へ入ってきた。

わずかに身を引いたものの、フローラはエカテリーナを庇う位置から動かない。

床に降り立ち、ヴラドフォーレンは呟いた。

「確かに、聖女だ。それも、稀代の――まだ原石のようだが、すでに輝きが見えている」

「さようでございましょう?」

こんな状況にもかかわらず、思わずドヤるエカテリーナである。

そして、やはり 夜着(ネグリジェ) だったフローラに自分のショールを一緒に使わせようとして、後ろから抱き付く形になった。

「あ、あの、エカテリーナ様」

赤くなってうろたえたフローラの肩をぽんぽんして、エカテリーナはヴラドフォーレンに厳しい目を向ける。

「悪気はおありでないことは承知しておりますけれど、身支度の調わない女性をそのようにまじまじとご覧になるなど、あまりにぶしつけななされようですわ。わたくしの大切な友人が、たいそう困惑しております。どうか今宵は、もうお引き取りくださいませ」

「ふむ」

ヴラドフォーレンは、絶世の美貌に苦笑を浮かべた。

「興味を引かれて、礼を失した。すまなかったな、聖女にも謝罪しよう」

「えっ」

礼儀正しく言われて、フローラはかえってうろたえたようだ。

「しかし、この際だ。挨拶とやらをした方がいいか?」

そう言ったヴラドフォーレンの視線は、エカテリーナの後ろ、部屋の扉へ向けられている。

どういう意味でしょう――と言いかけた時。

寝静まっていたはずの小領主の屋敷に、ざわめく気配があることに気付いた。

あ……さっきの、フローラちゃんの魔力!

魔力を持っている人間って、近くで誰かの魔力が発揮されれば、感じ取ることが出来るのよ。

魔竜王様が稀代の聖女と評したほどのあの魔力なら、この屋敷内にいる魔力持ちは、飛び起きる勢いで気付いたんじゃ……。

青ざめるエカテリーナをよそに、駆け付ける足音が――近付いてくる。