軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢はヒロインと皇子を応援します

フローラが、ほうっ……と震える息を吐いた。

「ああ……びっくりしました。まさかわたしなんかが、皇子様とお話しできるなんて」

胸を押さえて、頬を上気させている姿はとても可愛らしい。

いらない邪魔者(自分)がくっついていたとはいえ、ちゃんと皇子に好感を抱かせることができたはず。たぶん。

そしてこの後、イベントでヒロインに危険が迫ると、皇子が駆け付けてくれたりする。はず。

「気さくなお方でございましたわね」

ああいうところも、お兄様よりモテるというか女子にウケるんだろうな。フローラちゃんも感激してるし、正直自分だって、前世の記憶がなかったらコロッといっちゃったかも、と思うくらいだ。そしてこじらせて悪役令嬢に……ぶるぶる。

まあ、好みにどストライクなのはやっぱりお兄様なんだけどね!

元祖型ツンデレ最高!

それにしても、教室の窓から「憧れの王子様」がひょっこり顔を出して手作りの食べ物をねだるって、すんごいベタな学園ラブコメ少女漫画シチュエーションだよなー。ま、そこがあの乙女ゲームの醍醐味っちゃ醍醐味だったけど。

エカテリーナの生い立ちがえらくハードモードだったから、乙女ゲームの世界と言いつつ、ゲームに出てこない人生とか歴史とかにちょっと圧倒されていた。ここもれっきとしたひとつの世界で、みんな生命を持っていて、はるか昔から続く歴史があって、たぶん地球は丸くて、太陽の周りを回ってて……なんて考えると軽く眩暈がしたりしてた。

なのに、やっぱりゲームの法則みたいなものは強力に存在してるんだなあ。

だから、破滅フラグも皇国滅亡フラグも、すぐそこにあるんだよ!

この世界で悪役令嬢の運命を背負って生きるからには、あらためて全力でフラグを折らねば!

思わず心でこぶしを握るエカテリーナであった。

だってお兄様に迷惑かけるわけにいかないからね。お兄様の部下の皆さんだって、お兄様が突然平民に降格なんかされたらどんなに困るだろう。

ゲームの断罪の後って、ユールノヴァ公爵領はどんなことになっちゃったのか、想像すると恐ろしいわ。できる上司が突然いなくなる辛さ、社畜はわかりみ激しすぎて泣きそうです。

「ユールノヴァ様はさすがですね、堂々とお話しされていて」

「あら、わたくしも驚きましてよ」

なんせうっかり後ずさりしそうになったくらいだからね……。

皇子は全然悪くないんだけど、自分を破滅させる(かもしれない)人と対面て心臓に悪いわ。早くこの子とラブモードになってくれたら、安心できると思うけど。……安心していいんだよね?

な、なんにせよ、フローラちゃんとミハイル皇子、お似合いだよ。フラグのことがなくたって、幸せになってくれたらこっちも嬉しいよ。

ベタな学園ラブコメ少女漫画とか言っちゃったけど、こーんな美少女と美少年なら目の保養。今のポジションて、映画みたいな初々しいラブロマンスを特等席で眺められる、ていうか手助けできる、むしろおいしい立場でお得感すらあるわ。二人ともいい子だもん、お姉さん張り切って応援しちゃうよ。

……あれ、でも、つい昨日、ヒロインと仲良くなる代わりに皇子には近づかない話しかけない、とか心に決めたような。

応援するならそうもいかないぞ……。

なんか破滅フラグ対策が、グダグダになりつつあるような……。

だ、だってしょうがないし!

皇子の方から来ちゃったんだから、シカトしてたら不敬罪とかで逆にヤバいやん!

対策再変更。悪役令嬢はヒロインと皇子を応援します!

「フローラ様は、きっとこれからも殿下とお話しする機会がありますわ。だって、学園で一番愛らしいご令嬢でいらっしゃるのですもの。殿下もさぞ関心を持たれたに違いありませんわよ」

「え、いえ、そんなことは。皇子様はきっと」

フローラは目を丸くして言いかける。が、エカテリーナにさえぎられた。

「ごめんなさいまし、ひとつだけ申し上げますわ。皇子様、とおっしゃると敬称が正しくないなどと言われてしまいますから、殿下と申し上げた方がよろしゅうございましてよ。細かいことを言って、お気を悪くなさらないでくださいましね」

「そうなんですね、気をつけます。ありがとうございます」

唇を押さえてフローラは赤くなり、エカテリーナは彼女を励ますように微笑む。

それでフローラはもう何も言えなかったのだが、ひそかに思わずにはいられなかった。

(でも殿下が関心をお持ちなのは、誰がどう考えても、ユールノヴァ様の方です。

おきれいで、お優しくて、殿下と釣り合うほど高貴な身分の方で、以前からお兄様に話を聞いていて……こんなに理由があるのに、本気でわかっていらっしゃらないみたいなのが不思議で仕方ありません)

この世界は乙女ゲームの舞台で、自分は悪役令嬢キャラで、前世はアラサー社畜だったと、エカテリーナだけが知っている。

逆に言えば、他の誰一人として、そんなことは夢にも思うはずがない。

本人以外のすべての人間にとって、エカテリーナ・ユールノヴァは目を奪われるほどの美貌を持つ、皇国の貴族という貴族の中で最も高貴にして富裕な三大公爵家のご令嬢であり、病弱で世間知らずな十五歳の少女である。

フラグ折りと、不慣れな学園生活と、お兄様の健康管理、その他もろもろでいっぱいいっぱいのエカテリーナが、そのギャップに気付く日は来るのだろうか。

その日は当分、来そうにない。