軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢ですがヒロインを攻略しています

午後イチの授業が始まる直前に教室に滑り込んだエカテリーナは、あわただしく準備をしながら、隣の席に微笑みかけた。

「先程はかたじけのうございましたわ。おかげさまで、兄に喜んでもらえましたの」

「よかった。お役に立てたなら嬉しいです」

フローラはにっこり笑ってくれたが、そこへこんな声が聞こえてきた。

「卑しい人間てずうずうしくて嫌よね」

「そうよ、そうよ」

(テメーら自己紹介してんじゃねえ!)

イラっときたエカテリーナは、もう睨んでやろうかと思ったが、その前に気付いた。

フローラがうつむいている。いつもソイヤトリオの嫌味なぞ、華麗にスルーしていたのに。

おかしいな、と思った時、フローラの制服が少し汚れているのが見えた。土がついたようだ。

くわっ、と頭が沸騰した。

あいつら物理的に手ェ出したな⁉︎

……このタイミングで先生が現れたのは、かえって良かったのかもしれない。あやうくソイヤトリオに正面から喧嘩を売って、キャットファイトになるところだったから。

くそう、どうしてくれよう。

「フローラ様、少しよろしくて?」

さっぱり身の入らない授業が終わった後、エカテリーナはフローラの方へ身を乗り出した。

「は……はい」

フローラは目を丸くしている。あれ?と思って、彼女を名前で呼んでしまったことにエカテリーナは気付いた。

ここは押してくぜ。

「お名前でお呼びしてはいけませんかしら」

「いえ!どうぞ、そう呼んでください」

「よかった、嬉しゅうございますわ。わたくしのことも、エカテリーナとお呼びくださいましね」

「でも、それは……」

「お嫌かしら……お母様のことをうかがって、とても親しい気持ちになってしまいましたの。仲良くしていただければ、と思ったのですけど」

「嫌だなんて、まさか!」

ふんわりした桜色の髪が揺れるほど、フローラは首を横に振る。

「ただ、あまりに身分が違いますから、もったいなくて」

「無理は申しませんわ。ただ、呼んでいただければ嬉しいと思っていることは、お分かりくださいな」

「は、はい。あの……そんな風に言ってもらえて、わたしも嬉しいです」

白い頬にぽっと赤味をさして、フローラは微笑んでいる。いやー名前の通り、お花の精そのものだよ。

ところでふと気付いたけど、ファーストネームだけ基本的にロシア風なこの世界で、フローラという名前は異国風な響きがあるのね。前世じゃ気付かなかったけど。日本人がマリアという名前、みたいな感じ?キラキラネームってほどじゃないけど、ちょっと珍しい。

「フローラ様、よろしければノートを見せていただけませんこと?いつもしっかりノートを取っていらっしゃいますもの」

「もちろん、どうぞ」

「ご親切に。わたくしはこんな風にしていますの」

「まあ!工夫されているんですね」

いやー、これ、新入社員の頃に研修で習った『ビジネスパーソンのノート術』そのまんまなんだけどね。

といってもこの世界にはマーカーとか色ペンとかないから、イマイチだけど。そもそも筆記用具が羽ペンだからね。見た目はステキだけど、軸が細くて持ちにくいわ、インクは少ししか吸い上げないからノート一行も書けずにインク壺に浸けなきゃならないわ、ペン先がすぐ潰れて駄目になるからナイフで削って尖らせなきゃならないわ……早く誰かもっと良いもの発明してくれんかねー。

フローラのノートはきれいな読みやすい字で、先生が口頭で説明したこともうまくまとめて書き込んである。

「とてもきれいにまとめていらっしゃいますのね、参考になりますわ。ここ、わたくし書ききれておりませんでしたの。写してもよろしいかしら」

「もちろんです」

そこに声が聞こえてくる。

「お世辞を真に受けてるわ、みっともない」

「そうよ、そうよ」

……。

エカテリーナは片耳を押さえて小首を傾げ、ふっと笑った。

「近頃暖かくなったせいか、羽虫が煩うございますわね。たまに羽音が聞き苦しく思いますわ」

フローラは目を見張り、くすっと笑う。

「あまり煩いようなら、駆除をお願いしようかしら。……あら、ごめんなさいましね、独り言など言ってしまって」

フローラはただ首を横に振った。

尻馬に乗って、駆除しちゃってください!とか言い出さないあたり、品性の差が歴然としてるよな。

まあこれでソイヤトリオも、ユールノヴァ公爵令嬢がフローラに肩入れしていると解っただろう。あんたたちとつるむ気はないし、今度この子に手を出したらタダじゃおかへんで。

「フローラ様、明日もお料理を教えていただけまして?」

「私なんかでよろしければ、もちろん」

フローラがいじめられないように、当分べったりくっついているつもりだ。皇子とのイベントが始まって、あちらに守ってもらえるようになるまではだけど。

そのために、一緒に料理したり、勉強したりして、親密度を上げていこう。

……って、なんか攻略対象への好感度上げみたいやな。

悪役令嬢がヒロインを攻略って、なんのギャグだよ。そんな百合なルートはゲームにはない。

いや、ゲームの全ルートやり込んだ訳ではないけども……。

ないよね、フツー。