軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

目論見

ヴラドフォーレンはふうっと息を吐く。

「……平民だと。こんな知識を持ちこんな考え方をする人間が、お前の前世には数多くいたというのか」

「はい、さようにございますわ。今申し上げたのは、多少そうしたことに興味がある者であれば、知っていることに過ぎませんでしたの」

読み書きすらできない人が珍しくないこの世界では、誰でもこんな知識を持っているなんて驚異だよね。あらためて、義務教育とネット社会すげえ。

いや私が 全地球凍結(スノーボールアース) を知ったのは、国営放送のドキュメンタリー番組ででしたけど。TVの存在もすげえ。

あと、人類も光合成バクテリアと同レベルでそんな大したもんじゃない、というのは私の持論ですけど。

と。

エカテリーナと目を合わせ、ヴラドフォーレンはふっと微笑んだ。

ひええ!

エカテリーナはあわてて目をそらす。笑顔が危険物!災害レベル!

おろおろと視線をキョドらせるエカテリーナを見て、ヴラドフォーレンは笑う。

そして手を伸ばし、エカテリーナの頬に触れた。

「死の神と奥方が、お前のことを俺に話した時。お前の皇都での守りの他に、もうひとつ目論見があったようだ」

その言葉に驚いて、エカテリーナはうっかり自分からヴラドフォーレンと目を合わせてしまった。

この世界では、前世よりはるかに瞳の色のバリエーションが豊かだ。それでも、赤い瞳を持つ人は他に見たことがない。むしろ前世で、コスプレ好きの友達がカラコンで赤目になっていたけれど。

それとは、まるで違う。

ヴラドフォーレンの瞳、虹彩は、さまざまな色調の赤が混在して、炎のように揺らめいている。赤、紅、緋、朱、丹、真紅……その虹彩を縁取るやや暗い臙脂、蘇芳、黒緋。

紅炎、という言葉があった。太陽に噴き上がる炎、プロミネンス。

惹き込まれて、目が離せない。

自ら光を放つようなネオンブルーの瞳と、正反対のようで共通しているような……。

兄アレクセイが頭に浮かんで、エカテリーナははっと我に返る。

そしてとっさに自分の頬に触れるヴラドフォーレンの手を掴んで、ていっと引き剥がした。

「か、か、慣習にご配慮くださいまし!」

「ああ」

カミカミでエカテリーナが叫ぶと、ヴラドフォーレンは可笑しそうに笑う。

「お前はいい。別の世界の話は面白いが、それだけではない。お前のように、自分の属する種をむやみに誇るでも蔑むでもなく語る人間は、今までいなかった。

……お前の話を、もっと聞きたい」

「お、おそれいりますわ」

それはいいとして。

なんで隣に座るー⁉︎

近いから!近いから近いからー!

前世をどう説明しようか必死こいて考えてる時はいいけど、そうでない時はその顔が近いのはヤバい。いや顔だけじゃなく、尋常じゃないイケメンオーラとか、トータルで危険物。

危険物取扱者は国家資格なんですけど。私が前世で持ってた国家資格は情報処理技術者で、危険物は畑違いだー!

うわーんこっち見んなー!

「あ、あの!さきほど、死の神様とセレーネ様について、何か仰せでしたのでは」

「そうだな。奥方は、ことのほかお前を気に入っていた。自分を恐れず、何かを求めての捧げ物ではなくただ思いやりだけで贈り物をくれたと、喜んでいた。遠い昔にいた友人というものを、久しぶりに思い出したそうだ」

「まあ……」

そうか、神様への捧げ物って願い事とセットだもんね。元人間のセレーネ様にとっては、ちょっと悲しいことだろう。

その場の思いつきだったんだけど、そんなに喜んでもらえたなら、プレゼントしてよかったわ。

……幸せだって言ってたけど、好きな相手と一緒でも、友達の一人もいないのは寂しいだろうな。

「光栄に存じますわ。わたくしでよろしければ、またお話ししとうございます」

死の乙女って、着替えはできないもんなのかなあ。あの血染めの屍衣じゃなくて、かわいい服を着れば怖がられなくなるかも。他人の目はさておいても、おしゃれして楽しんでほしいし。次回、そういうプレゼントができないかしら。

「死の神もそれを望んでいる。奥方が喜ぶものは、なんなりと与えてやりたいと。

――しかし、人間の寿命は短い。一時の喜びとなっても、失われた時には大きな嘆きとなるだろう。それを恐れていた」

「それは……いかんともし難いところですわ」

千年とか二千年とか、存在の単位がミレニアムな方々だもんな。

ハムスターとかの小動物を飼うと、寿命の短さに心をえぐられるらしいけど、そんな感じか……ちょっと複雑。

「それゆえ、俺にお前のことを話したわけだ」

いや話がつながりませんが。

首を傾げるエカテリーナに、ヴラドフォーレンはにやりと笑った。

「俺と交われば、老いることはなく、多少の傷を負っても死ぬこともない身になるからな。別の種であろうと、竜の生命を分け与えることができる」

交わるって……。

えええ⁉︎

「俺はあまり人間は好かん。ひ弱なくせに、自分たちは特別だと思い上がっている奴が多いからな。だがごく稀に」

ヴラドフォーレンは言葉を切り、紅炎の瞳でエカテリーナを見つめる。

「……ごく稀に、お前のような人間がいる。その言葉に耳を傾けずにはいられない、その姿を目で追わずにはいられないような人間が。たとえお前が異世界から来た者でなく、俺の知らない世界を語るのではなかったとしても、俺はお前を気に入っただろう。お前は、賢く優しく……」

言葉を探すように首をかしげ、ヴラドフォーレンは微笑んだ。

「世界の広さと、自分の小ささを知っている。そして、その広い世界をも包む、広大な精神を持っている」

エカテリーナは困惑するばかりだ。

「わたくし……ただ、異世界の知識を持っているだけですわ。あちらでは、誰でも知っていることなのです」

「異世界のことは知らん。ただこの世界では、お前のように考える者は本当に稀なのだ。そして俺は、お前の考え方を好ましく思う。

エカテリーナ・ユールノヴァ」

ヴラドフォーレンはエカテリーナの手を取った。

「この魔竜王の伴侶になる気はないか」