軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神託

(は?)

わしの嫁。

……。

……。

……いかん、頭がついていかない。

わし、はこの方の一人称でいいとして、天使みたいな美幼女の一人称と思うと違和感は壮絶だけどいいことにして、嫁?

外見年齢女子小学生が『わしの嫁』とはこれいかに!

ていうか!

誰のこと⁉︎

なんか怖い予感がしなくもないんですが、昨日一緒にいたと言えば――。

ちら、とアーロンに視線を送ると……没後三日くらいの魚のような目をしていた。

花冠の姫神は、高らかに言う。

「嫁の名前は、アイザックというのじゃ」

やっぱり……!

JSな姫神様に嫁認定されている天才学者アイザック・ユールノヴァ、 御歳(おんとし) 六十歳男性。

いやおかしいだろ。

よくわからない神様の冗談って、これですか。

なんか四十五度くらい傾いてしまいそうな自分を、エカテリーナは必死で立て直す。

頑張れ自分、今はお兄様の代参でここにいるんだから。お兄様の恥になるような真似、しちゃならん!ブラコンの名にかけて!

ぐっと力を込めて背筋を伸ばし、エカテリーナは微笑んだ。

「はい、アイザックはわたくしの大叔父にあたりますの。昨日は、一緒に御山に入らせていただきました」

「うむ。嫁の魔力を感じたゆえ、たどって 訪(おとな) おうと思ったが、すぐ去ってしまってな」

……旧鉱山から戻る時、アーロンさんが妙に焦ってたのは、それを察していた、というか予想していたからなのか?

アーロンさん、姫神様を知っていたのか。大叔父様を巡ってライバル関係的な?

……神様と闘うほどのラブ……アーロンさんのラブが深すぎて、もはや沼。

私もブラコン頑張ろう。頑張っていいのかよくわからないけど。

「わしの嫁は、きれいであろう。あれほどきれいな魂は、そうはおらん」

あ、ちょっと解る。大叔父様の魂は、さぞ澄んできれいに違いない。

「あれの縁者だけあって、確かにそなたも変わった魂をしておるの。なかなか美しい」

ああっお鉢が回ってきた。

「お……お美しい姫神様よりそのようなお言葉を賜り、光栄に存じますわ」

「わしは美しいか?」

姫神が得意そうに幼い胸を張ると、髪を飾る花冠に色鮮やかなユリがぽんと咲いた。

花冠の花々は、摘んで編んだわけではなくナマモノらしい。

「お前もわしの嫁にするとは言わぬゆえ、安心するが良いぞ。人間は一人の相手と添うのであろう。わしは人間の慣習にも配慮しておる」

どうしようツッコミが追いつかない。

「しかしアイザックが嫁に出ていることを知らなんだのは、いかがなものか。わしはそなたらの先代に伝えて、もらい受けておるぞ」

お祖父様ー!

当時何があったんですかー!

あ……今気がついた。大叔父様は独身だけど、あのセレブな仲人趣味のお祖父様なら、かわいい弟には腕によりをかけていいお嫁さんを見つけたはず。そうしなかったのは、お祖父様は姫神様へ大叔父様を嫁に出すことに同意していたから……?

大叔父様本人は冗談だと思ってましたけど。

いやとにかく『嫁』じゃないですから!せめて『婿』で!

訂正したいけど、して大丈夫なのか?

そしてそこを訂正したからって、なんぼのもんなのか。本人がよくわかってないみたいなのに、神様の伴侶認定って、どうなんだ。

おそるおそるエカテリーナが口を開こうとしたところで、旧鉱山の神がほっほと笑った。

「知らなんだものは仕方あるまい。教えたのだから、もうよかろ」

「古神様がそう言われるなら、わしはもう言わぬが」

幸か不幸か、訂正の機会はどんぶらこと流れていった。さようなら。

気を取り直して、エカテリーナは参拝の式次第へ戻る。もう、終わりが近い。

そこへ、重低音の声がかかった。

「俺からひとつ、伝えておこう」

炎狼神はぶっきらぼうに言う。

「俺の山は、近々、噴火するだろう。備えるがいい」

……。

(ひええええ〜〜〜〜!)

こ、この、終了直前に重大発言をぶっ込んでくる感じ。

前世の社畜時代にイヤっちゅーほど経験した、今日の仕事はここまでにしようと思って片付けてるところへ緊急のトラブル連絡が来る、あのパターンみたいですごく嫌!

という内心の叫びをぐっと呑み込んで、エカテリーナは狼神に丁重に一礼した。

「そのように重大な問題をお伝えくださり、ありがとう存じます。おかげさまで、多くの領民が救われることでございましょう」

「別に人間など、どうなっても知りはせんがな」

ふん、と炎狼神はそっぽを向く。

神様のツンデレが王道すぎる件。

前世であれば社畜の残業延長が確定しているところだが、神様に残業はないようだ。その後は何事もなく、参拝の儀は終わりを迎えた。

三柱の神々が再び光となって神像へ戻ってゆくのを最敬礼で送ったのち、人間たちはすぐさま額を付き合わせて対策会議だ。

神様がお帰りになったとたん、ダッシュで奥殿から駆け出していった若い神官が、地図と過去の神託記録を抱えて戻ってきた。超グッジョブ。

山岳神から噴火予告の神託がもたらされることは過去にもあったそうで、神官たちは色めき立っている。キター!って感じだ。こういう神託を受けて対処するのが、山岳神殿の役目のひとつであるらしい。

「近々、との仰せでございましたが、過去の例で申し上げれば、今日明日ということはございません。神託があってより百年近く後に噴火した事例もございますので、まずはご安心ください」

まずそう言われて、エカテリーナはちょっと脱力した。

「山岳神の 御方(おんかた) 々には、百年など刹那にすぎないのでございましょう。とはいえ数ヶ月後に噴火、という例もございますので、急ぐにこしたことはございませんが」

うーむ。神様のお告げなんだから、もっと正確に教えてくれよ!と思ったりもするけれど、何月何日何時なんてところまでは、神様にもわからないものなのだろう。

たぶん人間で言えば、なんかくしゃみ出そうだけど出ない、でもそのうち出そう、みたいな状態かも?卑近な例えですみません。

前世の火山予知って、文献とかから噴火の周期を予測して、噴火の可能性の高い山に地震計を設置して火山性微動を拾ったり、地磁気の計測とかしていたんだったような。それに比べたら、人間側の労力なしでピンポイント予報をもらえるんだから、めっちゃコスパいいよね。うん、やっぱりありがたいです。

「森林農業長を拝命する者として、ともかくも一度、あの神の御山を遠目にでも実際に見ねばならぬと存じまする。噴火した場合の森と農地の被害を予測すると共に、近隣の村を把握し避難先の算段をせねばなりませぬ」

なるほど、フォルリさんの言う通り。山の形、地形から被害予測をするにも、地図だけでは難しい。危険ではあるけれど、現地を確認する必要がある。さすが、ワイルドライフな現場主義。

「仰せの通りですわ。それに現地へ行けば、火口からの噴煙や、周囲の地震などから、噴火の時期がある程度は予測できるのではありませんかしら」

火山性微動や噴煙が激しければ、噴火が近いと考えられる。近隣の村人にヒアリングすれば、最近変化があったかわかるだろう。

「神官の皆様は、噴火の予兆についての知識がおありかしら。フォルリ卿とご一緒に御山へおもむいて、噴火が近いかどうかを確かめていただくことはできまして?」

「はい、火山についての知識を蓄えることは、我々の役目でございますので。詳しいものを選んで遣わします」

「お願いいたしますわ。もうひとつ、文献から、その御山で過去に起きた噴火の被害を調べることはできますかしら」

「すぐにも調べを始めさせていただきます」

古株らしい神官が胸を叩く。

とはいえ、前世と違って検索一発で見たい記録にたどりつけるわけではないだろう。人海戦術で記録をあさる必要があるはず。ああっデータベース化したい。

「避難先ですが、この旧鉱山には、かつて鉱夫の宿舎だった建物が残っております。鉄鉱石が取れなくなって、今は一部しか使用しておりません。だいぶ荒れているでしょうが、状態を確認しておきましょう」

「まあアーロン卿、よいご提案ですわ。もし噴火が数ヶ月後であれば、避難先の準備はすぐにも始める必要がありますもの」

勝手に動き出すのもなんだけど、非常事態だし、お兄様も問題視はしないに違いない。

「お兄様にご報告しなければ。わたくしが戻ってお話しするのが一番早うございましょうか。それとも、騎士のどなたかに早駆けしていただいた方がよろしくて?」

「考えまするに、多少早く一報のみを届けまするとも、閣下もご采配は難しいかと。お嬢様から詳細をお話しいただくことが望ましいと思われまする」

「フォルリ卿がそのようにご判断されるなら、そういたしましょう」

と、山岳神殿の神官長がエカテリーナに頭を下げた。

「お若いご令嬢がこのような突発事態に、これほど冷静にご対応なされるとは……それに噴煙や地震など、噴火の予兆などよくご存知でいらっしゃる。お嬢様のご聡明さには、感服いたしました」

あ、いや、前世社蓄時代のトラブル対応モードが起動してしまいまして。

でもそうか、前世では常識だった火山性微動とか、この世界では特殊な知識だもんね。当然のように言ってしまったのはまずかったかも。でも、緊急事態なんで気にしてる場合じゃない。

「わたくしは、皆様のご対応ぶりに感服しておりましてよ。山岳神殿は神々を敬うお務めだけでなく、現世の人々を救うことにも向き合っておられますのね」

「恐れ入ります。かの賢公ヴァシーリー公が、神託を受けるだけであってはならぬ、と山岳神殿のありようを定められましたので」

さすが効率主義者のヴァシーリー公、宗教施設だろうとがっつり働かせるスタイルですね。人間社会に反映させるところまでが神託、みたいな。

前世だと政教分離に神経尖らせていたけど、ユールノヴァは政治が宗教を統治に組み込んでいるんだなあ。前世と違って山岳神殿は神様が本当に現れるから、宗教関係者が宗教にかこつけて自分の欲望実現する恐れがないのが大きいんだろうな。

皇都の太陽神殿あたりは、そうそう神様が降臨しないせいか、大神官とかが好き勝手してそうだったけど。

「お嬢様が仰せになった通り、御神託のおかげでいくつもの村が救われることでしょう。このような御神託は、参拝者が神々の御心にかなうお方でなければ下されません。このたび三柱もの神が降臨なされたことといい、お嬢様は、神々の覚えめでたきお方。ぜひまたご参拝くださいませ」

「わたくしなど……お兄様の領政が、神々の御心にかなうものであればこそですわ」

でもまた、今度はゆっくり、山岳神殿に参拝したいな。神々の石像をじっくり見せてもらって、どんな山のどんな神様がいらっしゃるのか、教えてもらおう。

さあ、また御者さんと馬たちに頑張ってもらって、急いで帰らないと。

お兄様!夢で約束した通り、早く帰ります!

ちょっと緊急の報告事項ありですけど!