軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対策変更

翌日、昼休みになると、エカテリーナはさっそく動いた。

行った先は食堂。ただし、厨房だ。

お昼時だけに忙しそうで申し訳なかったが、スタッフを捕まえて厨房の隅を貸してほしいとお願いする。

そう、自分で料理してみようと思っている。

前世では、大学時代から一人暮らしでそこそこ料理はしていた。泊まりに来た友達に手料理を出すと好評だったし、下手ではなかったと思う。

ま、就職してからはコンビニ飯を流し込む生活だったけど。

けどね。問題は、前世とは調理器具が全然違うに違いないこと。

たぶん昔、魔女の宅急便で見た台所みたいな感じだろう。電子レンジはもちろん、ガスレンジだってないはず。火力の調節とか、どうやってやればいいのか。

令嬢エカテリーナは、当然ながら料理の経験はないから、この世界の調理方法とかはわからない。

なので、実際に見てみることにした。

スタッフはあっさり「どうぞ」と言った。

「使っていない調理台がありますから、そこならご自由に。もう一人と仲良く使ってください」

もう一人、という言葉にエカテリーナは驚かなかった。むしろ安心したくらいだ。

正しいルートを選んでるね!

食堂に行くと意地悪されるから、お昼は厨房を借りて自分でお弁当を作るんだよね。

これが、後で餌付けに繋がるんだよ。

「チェルニー様」

名を呼ぶと、桜色の頭が振り返って目を丸くした。

「ユールノヴァ様……どうして厨房に」

「ええ、実はーーー」

説明しかけたところで、エカテリーナの視線がふとフローラの前のバスケットに止まった。

藤の蓋つきバスケットには出来たてのお弁当が詰められている。

それがーーーとても美味しそうなんである。

見たところ、ラップサンドか惣菜クレープのような感じだ。薄いシート状の生地でサラダやオムレツなどを包んだものが、きれいに並んでいる。

具材がいろいろで栄養バランスも良さそう、彩りの良さといい食べやすそうな大きさといい、お店で売っていてもおかしくないくらいだ。

そうそう、こういうの!こういうのが作りたかった、これならお兄様もきっとおいしく食べてくれるはず!

思わず、エカテリーナはがっしとフローラの手を取った。

「なんて素敵なお弁当でしょう!チェルニー様は、たいそうお料理上手でいらっしゃるのね!」

「え……い、いえ、それほどでは」

「お願い、これの作り方を教えてくださいまし。お兄様に食べさせてさしあげたいんですの」

「ええっ」

驚くフローラに、アレクセイが昼休みに仕事をしていること、あまり食事に興味がなさそうで、ちゃんと栄養がとれているか心配なことを説明する。

「わたくし、お料理をしたことがございませんの。でも精一杯やってみますから、一度お手本を見せていただくだけでも、お願いできませんこと?」

両手を合わせて、お願い!とやると、フローラは微笑んだ。

「ユールノヴァ様は、とてもお兄様思いなんですね」

「お力をお貸しくださいます?」

「これは庶民の食べ物ですし、うちの味ですから、公爵様のお口に合うか……」

言いかけて、フローラはバスケットからひとつクレープを取って、エカテリーナに差し出した。

「あの、よろしければ味見してください」

「まあ、ありがとう」

わーい、食べてみたかったのよ。

遠慮なく一口。中身は、じゃがいもとベーコン?ジャーマンポテトみたいな感じだ。いい塩加減だわー、スパイスも効いてる。

「とても美味しゅうございますわ。本当にお上手」

「あ……ありがとうございます」

フローラはほんのり顔を赤らめて、嬉しそうに笑った。

ふおおおお……。

可憐だ。

背景にお花が舞ってるよ。なんなら小鳥もさえずってる感じ。

さすがヒロイン。

古城と雷鳴が背景にお似合いの悪役令嬢とはわけが違うよ。これなら皇子もイチコロだよ。

これが美少女だよなー。

「私でよろしければお手伝いします」

「よかった!ご無理を申し上げて申し訳ございませんわ」

そんな訳で、ヒロインと悪役令嬢が仲良くお料理タイム。

これが素で楽しかった。

生地の配合やかまどの使い方を教えてもらって、クレープ(?)の中身をポテトサラダにしてみたり、ザワークラウトとソーセージにしてみたり。ちょっと手巻き寿司感覚。

「生地を焼くのがお上手ですね」

ありがとう。前世でしばらく大阪に住んでたから、お好み焼きをひっくり返すのは自信があるよ。クレープ屋でバイトしたこともあるし。

「チェルニー様のおかげですわ。とても手際がおよろしいですわね」

「長くやっているだけです。母が働いていましたから、私が家事をしていました」

「まあ、そうでしたの。お小さい頃から役目を担うなんて、ご立派ですわ」

どこの世界でもシングルマザーは大変だよね。しっかりした娘が家のことやってくれて、お母さんはさぞ助かっただろう。

「……わたくしも、七カ月ほど前まで母と二人で暮しておりましたわ。何も母の役に立つことのなかった娘でしたけど」

つい呟いてしまうと、フローラははっとしたようにエカテリーナを見た。

「七カ月前、ですか。お母様は……」

「ええ、亡くなりましたの」

「私の母もです。同じ、七カ月前……」

「まあ……」

二人の少女は顔を見合わせ、微笑みあった。

ゲームの知識でお母さんが亡くなったことは知ってたけど、本人の口から聞くと重みがまるで違うね。同じ頃とは知らなかったし。

エカテリーナの事情も壮絶だったけど、フローラも母娘二人きりなのにお母さんを亡くして、さぞ辛かったろうな。

うん。

破滅フラグ対策、変更確定!

とにかくヒロインに近づかない、と決めてたけど、仲良くなろう。

クラスのぼっち同士だもん、むしろ必然よね。こっちはそれでソイヤトリオを遠ざけられる。代わりに公爵令嬢の威光で、フローラを全力でいじめから守る。

つか、対策とかじゃなく、仲良くなれそうだし。

そもそもいじめなんてダメ絶対だろ。ソイヤトリオの嫌味とかイラッときてたんだから。

皇子にさえ近づかなければ、破滅フラグは問題ないはず。あっちはとにかく近寄らない話ししない!

大量に作ってしまった昼食を執務室まで運ぶのを、フローラは手伝ってくれた。

「教えていただいた上にこんなことまで、申し訳ございませんわ」

「私も楽しかったです。むしろお礼を言いたいくらい」

微笑みからお花が舞う。可憐やー。

一緒に執務室で食事しようと誘ってみたが、それは固辞されてしまった。まあ、公爵たるお兄様と知らないおじさんが一山いるわけだから、居心地悪いに違いない。でもフローラが一人で食事しているとまた嫌がらせをされるかもしれないので、いずれ一緒しようと思う。