軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉱山での1か月

マークウッド伯爵邸へとウォルテル公爵からの使者が訪れる、それより数日前のことだ。

モナが伯爵邸を辞める、ひと月と少し前でもある。

イズミ鉱山の事故は終息していた。

それは魔法による岩盤強化と、排水用の魔道具があり、なおかつ——どこで水脈に当たってしまったのかをすぐに突き止めた、鼻のよい月狼族がいたからこそだった。

「明日より、鉱山はこれまでどおりの操業に戻る。みんなよく働いてくれた。明日からもよろしく頼む」

鉱山の入口前広場には多くの鉱山労働者が詰めかけていた。

一段高いところで演説しているのは現場監督だ。

鉱山事故のとき、どこでぶつけたのか額に傷があって、それは痕となって残ってしまったが傷と言えばそれくらいで、今はこうして元気だった。

「みんなも知ってのとおり、これほど早く操業再開できるようになったのは彼女たちのおかげだ!」

ワァッと歓声が上がる。

「魔導士エミリ!」

呼ばれてエミリが壇上へと上がると、

「——エミリちゃーん!」

「——今日も可愛いぞお!」

「——いつも元気をありがとうな〜!」

「——激しい言葉で罵ってくれぇ!」

熱心なファンの声が上がる。

(なんか間違った声援ない?)

とエミリは思ったが、気にしたら負けだ。

「発明家アストリッド!」

続いてアストリッドが壇上へと上がる。

「——アストリッドさん……!」

「——結婚してくれぇ!」

「——どさくさに紛れて求婚してんじゃねえ、殺す」

「——あぁ!? てめぇが死ね!」

アストリッドのコアなファンがバッチバチの殺気を飛ばし合う。

「メイドのニナ!」

次にニナが壇上に上がると——声援は引き潮のように静まっていく。

そして、多くの鉱山労働者たちが膝をついて両手を組んだのだった。

「——聖女様……」

「——この方がおられてほんとうによかった……」

「——あなた様に施していただいた食事は一生忘れません……」

これまでとは違う雰囲気にニナがぎょっとする。

「え、え? え? これってどういうことですか?」

「いいのよニナ、あんたはわかってなくて」

エミリに手を引っ張られ、横に立たされた。

実のところいちばん多くの鉱山労働者に影響を与えたのはニナだった。

エミリやアストリッドは、その現場で彼女たちを目の当たりにした者からしたら「とんでもない」とすぐにわかる。逆に言うと彼女たちを見ない者にはすぐに「とんでもなさ」が伝わらない。

一方のニナの本領は後方支援だ。

食事の準備やちょっとしたケガの治療。

ほぼ全員に影響がある。

それらをその小さな身ひとつで瞬く間にこなしていくのは奇跡にしか見えず、さらに誰にも分け隔てなく優しい言葉をかけてくれることから、「聖女様」という呼び名は完全に定着した。

「彼女たち3人に、イズミ鉱山で働く全員の気持ちとして、このメダルを贈呈したい!」

3つのメダルは手のひらほどの大きさで、「イズミ鉱山における献身的な働きに最大の感謝と敬意を込めて」と文字が彫られてあった。

そしてそれはピンク色の光を放っていた。

「ピンク……?」

「ああ。合金なんだが、いい色だろう? こまめに拭いてやると錆びずにずっと輝きを保てるんだ。……私は金ぴかがいいと思ったんだが」

現場監督が渋い顔をすると、女性の鉱山労働者が、

「女の子に金ぴかなんて悪趣味もいいとこじゃないかよ!」

と声を上げた。

それに同意する他の女性たち。

きっと彼女たちの意見だったのだろう。

「かわいいわね」

「うん。面白い金属だなぁ、これは。あとで配合比率を教えてくれないかな」

エミリとアストリッドは早速受け取って表と裏を確認しており、

「君はピンクなんてイヤだったかね? やっぱり金ぴかのほうが……」

「い、いいえ! とっても気に入りました!」

あわててニナは言った。

ニナは、感謝されたこともそうだったけれど、こんなに気遣ってもらったことがこれまでほとんどなかった。

「メイドなら当然」こなすべき仕事をこなしてきた。

トゥイリードからは深い感謝をしてもらったけれど、それは彼が特別優しいのだろうとニナは思っていたのだ。

これほど大々的な感謝は、生まれて初めてだった。

どうしていいかわからなくなったのだ。

「……えへへ」

でも、手にしたメダルのずっしりした重み、そして柔らかなピンク色の輝きに思いがけず笑みがこぼれた。

「さて……私からもうひとつ話したいことがある」

現場監督は言った。

「ティエン」

鉱山労働者として壇上のニナたちを見上げていたティエンは——最前列のかぶりつきだったけれど——名前を呼ばれて、ぴこんと耳が立った。

「復旧作業に追われていてきちんと話すことができなかったが、この場で、正式に君に謝罪をしたい。君を『幽霊犬』などという侮蔑の言葉で呼んでしまったことをお詫びしたいのだ。申し訳なかった……! 君は、高潔な精神を発揮して、侮辱した私を鉱山の奥まで救いに来てくれた……ほんとうにありがとう」

深々と頭を下げた。

しん、と静まり返った場で、視線がティエンに集まった。

横にいた、赤髪でガタイのいい男は、はっきりと言った。

「許せねえなら、それでもいいんだぞ」

と。

だけれどティエンは首を横に振った。

「ううん、チィはもう気にしていないのです。許すも、許さないもなくて……ニナはチィの身体をよみがえらせてくれました。エミリやアストリッドは危険な事故現場でチィの手助けをしてくれました。3人のことを考えたら、その他のことは全部小さなことに思えたのです」

鉱山労働者たちから声が上がる。

「——偉れぇなぁ……ティエンちゃんは」

「——確かにあの3人を思ったら現場監督なんて小せえよなぁ」

「——ティエンちゃん、こんなに大きくなって……うっ、うっ」

「——アンタなんで母親ヅラしてんのよ?」

ぱらぱらとして拍手は、やがて大きなそれへと変わっていく。

壇上の現場監督が目をぱちくりさせていると、

「——察しが悪いぞ、現場監督! ティエンちゃんは許してくれたってことだろうがよ!」

その野次にハッとして、もう一度深々と頭を下げた。