軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第97話 予想外

ふむ、と。

自宅のゲーミングチェアに腰掛けていた影一は、”情報屋”から届いたメッセージを前に珍しく考え込んでいた。

些か、予想外のことが起きた。

ひとつは、迷宮庁による玉竜会の捜査が遅れている件だ。

迷宮庁への狙撃、米国産ダンジョンでしか入手できないはずの、スナイパーライフルの使用。本来なら今日にでも動いて然るべき案件――影一の読みでは、今日中にでも玉竜会は壊滅してもおかしくないと思ったのだが……。

これは……上層部に、変なのがいるな?

以前、ナンバーズが”雪原氷山”にたどり着いたときにも覚えた違和感だ。

彼等はどういうワケか、非公開情報だったはずの派生ダンジョン”雪原氷山”の場所を正確に割り出し、ボスの元へと直行した。

影一が氷竜を全滅させてたのも遠因とはいえ、そもそも”雪原氷山”の情報が漏洩している時点で不可解だ。

二つ目の問題は、玉竜会のターゲットが綺羅星に向いたことだ。

愛弟子が狙われるのは、想定しなかった訳ではないが……予想より、早い。

家族持ちの女子高生より、一人暮らしのおじさんを狙う方がやりやすいと思うのだが……。

(玉竜会の三人を仕留めた時、相手の社長に動きを見られたのが不味かったですかね。いささか、調子に乗って挑発しすぎましたか)

影一の実力を正しく認識し、綺羅星にターゲットを変えた可能性はある。

そこまでして自分を狙う動機は、わからないが。

いずれにせよ、綺羅星の安全は最優先。

ダンジョン外での襲撃も考慮すれば、今から二十四時間見守るのが最適解ではあるが……些か、気に入らない。

自分の行動が他人によって二十四時間ずっと制限され、しかも迷宮庁がいつ動くか不明という状況は、影一の愛するノンストレスの道には大いに反する。

通常業務に穴を空けてしまうのもそれはそれで不自然だし、社会人としても失格だろう。

さらにつけ加えるなら――

「いまは、邪魔をしたくないのですよね」

いま、綺羅星は岐路に立っている。

友達との決着を、近日中につけるだろう。

その勇気ある行動を――部外者であるおじさんや、玉竜会とかいうどうでもいい連中が茶々を入れるのは……

無粋の極み、というものだ。

「…………ふむ」

影一は珍しく悩み、くい、と眼鏡を押し上げる。

……。

…………。

当初の予定は丸つぶれだが、仕方ない、と影一は立ち上がり――

*

「いやいや、影一のオッサン、戦争でもはじめる気?」

「似たようなものでしょうか。……生産は可能ですか?」

「にゃはは、もちろん。ちょいとびっくりしただけだよ」

影一の無茶振りに、可愛いウサギ髭がひょこっと揺れる。

彼が足早に伺ったのは、いつもの武器屋『マイショップ』地下――半ダンジョン化した空間にお住まいのNPC武器職人、スミス=ニャムドレー氏の元であった。

隣には、同じく店員である破光さんがニコニコと楽しげに並んでいる。

「あらあら、影一くん。今日はいつもとずいぶん違う武器を注文しに来たのね。……ああ、もちろん問題なんてないわよ、武器は正しく使ってこそ武器だもの」

「ありがとうございます。大変急なお話で」

いえいえ、と彼女。

影一の急用と聞きつけ、時間外にもかかわらず出勤して貰ったのは本当に感謝しかない。

破光さんが改めてインベントリを出現。

段ボール箱をその中から取りだし、さて、と。

「……説明はいらないと思うけど、ご注文の品は、麻痺、毒、混乱、睡眠および即死効果を含むガス爆弾ね。密室空間で使うと、弱いモンスターを一掃できるわ。それを12個ね?」

「12ダースで。狭いダンジョン全域に充満させますので」

「豪快な掃除ねえ。でも、ボスに即死は基本無効よ?」

「問題ございません。敵の混乱、および後衛にいるモンスターを全滅させる目的ですので」

「ただなー、影一のオッサン。さすがにその量作るとなると、そこそこの素材やお金も頂くよ? こっちも慈善事業じゃないんでね」

「支払いはこちらで如何でしょう」

影一もまたインベントリを出現させ、取り出したのは――大量の魔石、及びモンスターの素材。

「「!?」」

「こちら、ベヒモスの甲殻および雷角、ついで氷竜の翼膜に爪となりますが、釣り合いますか?」

「……マジで? え、まだ未発見の新素材だよね、ボクがいうのも何だけどおかしくない?」

「楽しみでしょう? 世界のまだ誰も使ってない素材を使っての武器作り」

ニャムドレー氏も破光氏も、生粋の武器マニアだ。

彼女らは法の倫理――素材の入手先や違法性よりも、いかに優れた武器を、いかに衝動を放てる得物を作れるかにこそ価値を置き、それ以外はどうでもいい人間。

そんな彼女らにとって、新素材はあまりにも魅力的だろう。

「そうだ。ついでに、こちらもお願いしたいのですが……」

と、影一はインベントリの奥底に眠っていた――

”神威ブレード”も取り出した。

うおお、と目を見開く一人と一匹に、影一はついでとばかりにお願いする。

「可能であればで良いのですが、こちら、改造が可能か検討して頂けませんか」

「か、改造!? こんなモンを……?」

「私には使いにくい、というか相性が悪くて。――現時点でどういう武器に改造するかは考えておりませんが……まずは改造可能かどうか、改造するならどのような素材が必要かを知りたくて」

現時点で、影一が手に負えないと感じるほどの敵は存在しない。

が、いずれ出現するであろう、影一ですら手にあまる難敵に対し、対策を練っておくのは悪いことではないはず。

「いやぁ~……影一のオッサンが想定する敵って、どんなヤツなん?」

「想定される筆頭はラスボス。次点で、S級ダンジョン最終ボス。最後に、私と同じ高レベルの規格外転生者」

「転生……?」

「まだ一人しか面識がありませんが、今後もし別の者が、それも私と敵対する者が現れた場合、厄介なことになるかと」

まあ今回の件には関係ありませんが、と影一は話を戻し、

「最後に。……破光氏、ニャムドレー氏。もう一つお願いがあるのですが、本武器屋『マイショップ』地下の倉庫をお借りしても宜しいでしょうか」

「構わないけど……どうして?」

「一時的に、私のインベントリを空けたいのです。今回は、大がかりな作戦になる予定ですし……私も、必殺技を使う予定ですので。――ご協力頂けた際には今後、私が入手した新素材を可能なかぎり優先的に、本店『マイショップ』へと融通することをお約束いたします」

影一の提案は一見すると破格にみえるが、実際には異なる。

口止め料だ。

新素材といえば聞こえは良いが、ベヒモスの雷角や氷竜の翼膜など、もし店頭に並べようものならたちまち迷宮庁が駆けつけ、入手先を問いただすことだろう。

レアアイテムだから、と、安易に武器を作成できないのがゲームと現実の異なる所だ。

また現在、影一は彼女らに多量の爆弾を注文したが……

何らかの理由で影一がミスをし、爆弾の出所を問われれば、武器屋『マイショップ』に被害が及ぶ可能性もあるだろう。

つまり、この話を引き受けた時点で、影一と彼女らは一蓮托生――下手すれば両倒れの可能性もある。

普通なら、受けるはずもない。

いかに新素材とはいえ、店頭で売れなければ商売にならない。

しかし――

「いかがでしょう?」

「え、乗るしかないでしょ、影一のオッサン」

「ですよねぇ。私も乗ります」

金、安全、逮捕や犯罪など、元々モンスターであるニャムドレー氏はもちろん、破光ですら興味がない。

彼女らが興味を抱くのは、ただひとつ。

優れた武器、それだけだ。

生粋のゲーマーなら、心当たりがあるだろう。

山ほどの大金よりも。

大量のスキルポイントや経験値、レベルよりも、夢見るもの――新素材を用いた、最強武器の作成。

彼女達はそれを、自分や他人のセーブデータがぶっ壊れてもいいから求めたい、狂信者だ。

だからこそ信頼できる。

その価値観はあまりにも単純であり、人間よりも――モンスターに近いから。

引き受けてくれるだろうと推察はしていたが、影一は改めて一礼をする。

「ご協力、感謝いたします。そちらにご迷惑がかからぬよう、誠心誠意、配慮いたしますので」

「いやいや、影一のオッサン。こっちのことはこっちで何とかするんで、安心してな。……それより、これだけ大仕事。そっちこそ金出るん?」

影一はゆるりと首を振る。

今回は、全てが影一のサービス残業だ。

一銭にもならず、むしろ自分のリスクを高める行為でしかないが――それでも、影一はゆるやかな笑みを崩さない。

「これも可愛い弟子のため。ついでに、私の人生の豊かさを維持するため。まあ元の火種を撒いたのは私でもある以上、責任をとるのが大人の仕事というものでしょう」

誰にともなく呟き、さて、と影一はネクタイを正す。

明日は盛大な大掃除。

まあ、ゴールデンウィーク前に面倒事をひとつ片付けたと思えば良いか、と、影一はお借りした倉庫でインベントリの整理をせっせと開始するのであった。