軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第80話 会議

城ヶ崎との小粋なトークを終えたその足で、影一と綺羅星は迷宮庁の所有するタワービルへと足を運んだ。

前回クエスト”凪の平原”首狩り兎および草原ゴーレム退治の際にも用いた会議室だ。

陣頭指揮を取るのは、前回と同じく迷宮庁所属の後藤と虎子。

ごつい体躯を黒服で包み、迷宮庁と書かれた腕章を下げながら、後藤が集まった掃除屋や攻略者達に改めて説明を始めた。

「急な申し出にも関わらず集まって頂き、改めて感謝します。では早速ですが今回発令された緊急クエスト、新規A級ダンジョン”海底水晶洞”攻略への助力について、説明させて頂きます。既に迷宮庁は本ダンジョン五階ボス”マザースフィア”の元に到着していますが……」

A級ダンジョン”海底水晶洞”ボスモンスター”マザースフィア”は、巨大な星形を模した物質系モンスターだ。

物質系とは石や金属といった物体の外郭をもつモンスターで、外見の通り高い斬撃・属性耐性をもつケースが多い。

有効なのは打撃系、および特定の属性魔法だ。

「本モンスターの攻撃法は、本体にある星状の突起から排出された複数の個体”アタックスフィア”による自爆攻撃。ひとつひとつが誘導型爆弾となり、こちらに襲いかかります。……それらを適時ばらまきながら攻撃してくる、戦いにくいボスといえるでしょう」

横で聞いていた綺羅星が、厄介そうだと呟き、でも……

それ位なら迷宮庁の人達だけでも、倒せそうじゃない? と小首を掲げる。

事実”マザースフィア”単体なら、影一が手を出すまでもないだろう。が。

「そしてここからが、本題になります。本ボス、マザースフィアにある程度のダメージを与えると……おそらく残存魔力量が半分以下になった時、マザースフィアは自爆します。

これ自体が強烈な攻撃ではありますが、厄介なのはその後、無数の”マザースフィア”分裂体を迷宮中にばらまくこと。

……分裂体は実力こそ本体に大きく劣るものの、性質自体はマザースフィアと全く同じものを持ちます。

そして分裂体を放置すると、自然に魔力を吸収しふたたびマザースフィアとして成長する。

要するに、分裂体を全て叩かなければ、ボスの討伐に至らない仕組みとなっています』

うわぁ……と、会議のあちこちから溜息が聞こえ、なんと厄介な、と愚痴が飛ぶ。

懐かしいな、と影一も薄く笑う。

マザースフィア討伐クエストは前世、LAWで開催されたチャレンジイベントの一つだ。

プレイヤーが一丸となり、ダンジョンで分裂するボスを倒そう! という趣旨の元、皆で盛り上がる……はずだったが。

増える、爆発する、逃げる、の三重苦に加えてドロップも経験魔力も渋いことから、当時のプレイヤーより『クソモンスター代表』、『運営の自己満足』、『激マズこんぺいとう』等のありがたいハッシュタグを頂いたある意味伝説のボスでもある。

なお、当時ソロ専だった影一はイベントに参加していない。

討伐報酬アイテムは謎のまま――ゲーマーとして非常に気になるため、クエストに参加した。

「最後に、本クエストが緊急と銘打った理由を説明します。資料にも書きましたが、本ダンジョンは高侵食、かつ分化ダンジョンに分類されるものであり、危険性が高いと判断しました」

「……先生、高侵食ダンジョンって何ですか? 分化って?」

おっと、説明していなかったか。

「綺羅星さんはS級ダンジョン”凪の平原”や”穴蔵”というダンジョンを既にご存じですね? 定期的にモンスターを退治すれば、迷宮の拡張……地上侵食を抑えられるダンジョン」

「はい。人類にとって、どちらかといえば利益になるダンジョンですよね」

「ええ。S級ダンジョンは現状全てそれに属しますが……高侵食ダンジョンはその逆。つまり侵食度が早くゲートクラッシュが起きやすい。さらに、分化――勝手にダンジョンが増殖し、被害が拡大するケースに繋がります」

ダンジョンが出現するメカニズムはまだハッキリしていないが、通説としては、魔力が一定箇所に集積することで出現すると言われている。

人口の多い箇所にダンジョンが発生しやすいのも、人間から漏れ出た魔力の影響という説もある。

東京をはじめとした大都市にダンジョンが出現しやすい理由でもあり、また、住宅街や職場によくダンジョンが現れる理由でもある。

「しかし、分化ダンジョンはそれらと全く異なるメカニズムで発生します。例えるなら、悪性腫瘍が転移するようなイメージでしょうか。対応が遅れると被害が急速に拡大することは歴史が証明しています」

元ゲーム、LAWではイベント時専用のダンジョン大量発生だったが、それが厄介な形で再現された形だ。

放置するわけにはいかない。

影一が説明を終えた頃、質疑応答を挟んだのち説明会が終了し散会した。

ダンジョン攻略開始は、明後日の九時。

綺羅星も今回は、学校を休んで参加するという。……母親の許可が取れるかは、まだ分からないらしいが。

できれば彼女には参加して欲しいが――と、影一が思案したところで、ふと人影。

「こんにちは、影一さん綺羅星さん。先日は兎ゴーレム討伐作戦へのご協力、ありがとうございました」

顔を出したのは迷宮庁職員、後藤のサポート役こと、虎子。

う、と綺羅星が苦手意識からか身を引き、影一は気にせずゆるりと会釈を交わす。

「お二方、突然申し訳ありません。お時間、宜しいですか?」

「もちろん」

では、と虎子に案内され――となりの綺羅星が、場所を変えるんですか? と小首を傾げた。

*

言われるがまま案内された小さな会議室にて――綺羅星はふと、妙な気配を覚えて足を止めた。

何だろう。ダンジョンじゃないのに、ダンジョンにいるような……

奇妙な感覚に襲われたが、ぺこり、と頭を下げる虎子に意識がそがれてしまった。

「影一さん。改めましてナンバーズの件および、Re:リトライズの件にて大変ご迷惑をおかけしております。改めてお詫び申し上げます」

「お気になさらず。迷宮庁が原因ではございませんので。それで、要件の程は?」

腰掛けた影一の問いに、虎子は淡い笑みを浮かべ。

「玉竜会という名前をご存じでしょうか」

「耳にはさむ程度には。が、私はただの一般人でして、詐欺グループとの繋がりなどありませんよ」

「それはもちろん。……ただ現在調査中のRe:リトライズが、どうもその組織と繋がりがあるようでして。もし、影一さんが先方から何らかの被害を受けた場合は、すぐこちらにお伝えください。……それと」

虎子がふと思い出したように、可愛らしいボブカットを揺らして影一達を伺い。

「実はその玉竜会につきまして、先日、迷宮庁に匿名のリストが届きました。ダンジョンに関わっている者のスキルまで表記された、大変ありがたいものなのですが……」

「信憑性の程は、問題ないのでしょうか。匿名となりますと、罠の可能性もありますが」

「現在調査中です。と同時に、情報部は本リストの出所を探っているようでして……」

すっと、彼女が僅かに呼吸を深く吸い、ふっと吐き――

「影一さん。綺羅星さん。もし、このリストのことや、Re:リトライズとのトラブルについて何かご存じでしたら”教えろ”……あ、失礼、教えて頂きたいのですが」

虎子がやんわりとお願いした途端、ぐわん……と。

隣で聞いてただけの綺羅星が、目眩を起こしたようにふらついた。

……?

「何も知りませんけど……」

!?

いま、口が勝手に……?

え、あれ、と戸惑う綺羅星に――影一がぺちっと肩を指先で弾き、はたと意識が戻る。

「いたっ。……あ、あれ?」

「私も存じません。それと、褒められたやり方ではありませんね、と、先に伝えておきましょう」

「すみません。命令なもので」

「私も元社畜な身ですので、お上の命令に逆らえないのは分かります」

ごめんなさい! と両手を合わせた虎子はその後、幾つかの簡単な確認を終えてお別れした。

綺羅星は最後まで「?」と意味が分からず首を傾げ、違和感を覚えつつ部屋を出る。

――答えを知ったのは、迷宮庁の建物を出た後のことだった。

「綺羅星さん。先程あなた、スキルをかけられてましたよ」

「え!? 地上なのに……」

「迷宮庁の建物の一部をダンジョン化してるようですね。ちなみに、かけられていたスキルは簡単な自白を促すものです」

あの程度の見え見えな罠に引っかかってはいけませんよと言われ、う、と綺羅星は声を詰まらせる。

――っていうか。

「先生は大丈夫だったんですか」

「ええ。というより、事前に耳打ちされてたんですよ。スキルを発動するので防いでください、と」

「へ? ……スキルを発動したのに、どうして防御するようお願いするんです?」

「まあ、迷宮庁も一枚岩ではないということでしょう」

理屈に合わない、という綺羅星の意見はごもっとも。

が、世の中、仕事をしていると理屈だけで済まないことは多々あるもの――社会人は大変ですね、と影一が薄く笑っていると、隣の綺羅星が「それにしても」と憤慨する。

「だとしても、疑うほうも疑うほうです。だいたい何ですか、ギョク何とかって組織。先生にリストなんて関係ない話でしょうに」

「ああ。リストを横流ししたの私です」

「!?」

「邪魔者を迷宮庁にまとめて排除して頂くための、ささやかな援助のつもりだったのですが、裏目にでてしまいましたね」

私とて人間、ミスはするものです、と笑う影一に。

この人怖い……と思わず呟く綺羅星であった。