軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第66話 無能な味方

「いや~実をいうとッスね? 俺等まだ顔出しすらしてない新人配信者なんッスよ。狩人ランクもC級、まだまだ初心者。ま、これから超有名配信者、ゴマメちゃんも超える存在になるッスけどね!」

閑静な住宅街の一角にできたゲート前にて、キラッ!

とリーダーらしき男が、白い歯を輝かせて笑う。

爽やかな茶髪に甘いスマイルは、いわゆるイケメンの類いに入るだろう。

……が、綺羅星が先に着目したのは男の装備品だ。

黄金色に輝く軽装鎧。竜の模様を刻み、強力な炎耐性を付与した小手。

ズボンの上には金属サポーターの膝あてをつけ、付与アビリティによる疲労軽減まで行っているらしい。

極めつけは、彼が背負う剣。

虹色の鞘に収められたその剣は”七色の剣”と呼ばれる、七色属性を秘めたレアアイテムだったはず。

「あ、やっぱ俺の装備気になるッスか? やっぱ分かる人にはわかるんスねー! 知ってるっしょ? 七色の剣。神剣ゴラムっていう神配信者のひとが使ってたやつで、あ、最近チャンネル登録数100万いったらしくて、俺昔から超ファンで! 悩んだんスけどフンパツして買っちゃったんすよねぇ。あ、俺の名前カザミって言うっす」

ま、フツーの掃除屋には手の届かない武器っすよねぇ!

自慢するリーダー――カザミに続き、取り巻きの男が「ホホオ!」と高笑い。

「オホホホホ! 覚えておきなさぁい? ブラザーズは最強のコンビ、その中でも最強なのはカザミ兄様、次いでわたくし、ザマスですわ! わたくし達の実力、とくとご覧にいれて差し上げまぁす!」

外見は、まさに変態。

ピンク色のモヒカンヘアーに、厚化粧をした細身の男――キモい男が紅色の唇を抑えて「オホホ!」とお嬢様言葉を発している。

鎧こそ軽装だが、得物はなんと銀色に輝く扇子。……一応、近接武器だけど……。

「お、おで、バカだからわかんねーけど……おでも、頑張るっ」

最後に、小太りの男。

もじゃもじゃの黒髪に毛皮風のシャツ、さらには腰蓑と、いかにも原始人風な装備を揃えているが、今どきこんな装備も非常識だ。

得物は、木製の巨大ハンマー。こちらはまあ、使い道はわかりやすいが――

「お、おでら最強のブラザー。兄貴達は最強なんだど……だ、だよな?」

「オホホ! んもう、当然のことを繰り返さなくて良いざますよ? 相変わらずお馬鹿ねぇ、あなた。そんなのだからバカマルって呼ばれるざます」

「そうッスよ、バカマル。あ、こいつの名前ほんとはカシコマルって言うんスけど、あんまりにも馬鹿なんでバカマルって呼んでるっす」

だってマジ馬鹿なんすよアッハッハ、と笑う男。

カザミ、ザマス、バカマル――三人揃って”ブラザーズ”というグループらしい。

「んで、自己紹介が終わったところでッスよ? じつはお願いがあってッスねぇ、お嬢さん。今日の掃除、俺達も一緒に手伝わせてくれないッスか?」

「は? え、手伝いって……」

綺羅星は思わず影一を伺う。いやな予感。

真っ当な掃討協力以外で、急に他パーティについていくケースでよくあるのは……。

「……もしかして、寄生ですか?」

熟練狩人の後ろにへばりつき、報酬を横取りする連中を、オンラインゲームになぞらえてそう呼ぶことがある。

金銭的な報酬に限らず、モンスターへのとどめだけ横取りし、経験値――成長魔力だけを奪う卑劣な手もあるとか――

「いやいや、そんなつもりはないッスよ! ただ俺等まだ素人で? だからぁ、ここは強~いブラザーと一緒にいると安心安全ってわけ!」

「オホホ! 千里の道も一歩から、わたくし達の栄光のロォードもこれからざます!」

「お、おで、バカだからよくわかんねぇけど、あ、兄貴達は賢いから……言う通りにする……」

「でも……」

「もちろん俺等の取り分はナシでいいっす! それなら迷宮庁に申請しなくても大丈夫っスよね? 経験値も、俺等が自力で倒したぶんだけ。ね? ね? まさにWin-Winの関係ってやつッスよ」

へらへら笑うカザミに、それなら……

と、唇をもにょっとさせる綺羅星。

正直かなり嫌な気分だが、相手の言い分もわからなくもない。

そもそも綺羅星とて、保護者として影一が常についてる状態だ。

新人ならなおさら、誰かに頼りたい気持ちは分かる。

……でも。

何だろ。

理由はわかるけど、なんか、すごーく嫌だな……と、影一を伺うと――

「お断りします」

「……え?」

「お断りします」

「え、えぇ~? そりゃないっすよブラザー。どうみても、そっちのメリットになってることしか言ってないッスよね?」

カザミが慌て、綺羅星も一応は同意する。

彼等はメリットしか告げていないような……。

「お尋ねしますが。あなた方は、本ダンジョンの事前調査は行いましたか?」

「え? あ、もちろんッス! 今回は”洞窟”型で、ゾンビが出てくるっスよね? それ位……」

「ゾンビが登場するフロアで、その剣をどう扱うつもりで? 七色の剣は、特定のスキルと組み合わせないと攻撃属性がランダムに発動する癖の強い武器です。そして、ゾンビ系モンスターは炎、光こそ弱点なものの、闇、土属性は無効ですが」

一定確率で無効化される武器を振り回すつもりか、と影一。

続けてピンクモヒカンを睨み、

「その扇子。何に使うつもりです?」

「お、オホホ! こちらの扇子は敵を直接刻める魔力を秘めてるざます! この刃で敵を華麗に……」

「毒霧をふりまくポイズンゾンビにも近接戦を? 毒対策は?」

「……お、オホホ? D級ダンジョンに、ポイズンゾンビなんて出ません……ざます、わよね?」

「予測難易度と、実際の難易度が違うことはよくありますがね」

やれやれ、と影一は最後にバカマルを見つめ、……ふむ、と。

「えっと……おで……」

「あなたは一応マシですね。大ぶりのハンマーで敵を潰す。明快です。不要であることに代わりはありませんが」

「いやいや、んな訳ないっスよ! バカマルよりは俺の方が強っすよ、それに俺等、狩人C級だし? 実力は……」

「狩人がB級から一人前と言われる理由をご存じですか。C級までは、装備品の力だけでごり押し取得できるんです」

C級以下の狩人が、迷宮庁の公式クエストを受注できない理由もそれだ。

以前”ナンバーズ”と呼ばれる配信グループと一悶着あったが、彼等は、素行はともかく戦闘能力だけは標準以上のものを持っていた。

彼等は明らかに、それ以下――

「いやでも、俺等は邪魔しないッスよ! なんなら、ブラザーの後ろにずっといても……」

「私がこの世で、最も嫌いなものをひとつ教えましょう。それは、モンスターでも、私の邪魔をする敵でもありません」

影一は、すっとカザミを指差し、淡々と告げた。

「私が最も嫌うのは――無能な味方。私が上官であれば、即座に銃殺を許可します。……失礼、間違えましたね。私が無言で銃殺します」

「…………」

「セオリーの分かっていない素人により、パーティが崩壊した事例は事欠きません。効果の薄い攻撃をひたすら行い、モンスターのヘイトだけ余計に買って場を乱し、当の本人は活躍した気になっている。害悪の極みです」

ゲームに例えるなら、全員S級プレイヤーの中に一人C級が混じり、身勝手に三乙してクエスト失敗に陥らせるような奴がいる状態だ。

味方にいるだけ害である、と、影一はハッキリ彼等に断言する。

「自覚があるのであれば、引き下がることをお勧めします。――今ならまだ、間に合いますよ」

「ま、間に合うって……」

「私の慈悲が、です」

では、と影一が彼等に背を向け、綺羅星も続けてダンジョンゲートをくぐる。

途端に景色が変化し、ごつごつとした岩場に囲まれた”洞窟”ステージを見上げ――

数歩進み、”察”した綺羅星が、足を止めた。

「……先生。後ろですが……」

当然、影一も気づいている。

背後からのそのそとついてきたのは、さっきの……

「つまりブラザー! 有能な俺等なら大丈夫ってことッスよね? 後輩にハッパかけてくれるとは、さすがッス!」

「オホホ! わたくし達の有能ぶりをご理解頂けるとは、中々やるざますねぇ」

「お、おで、バカだからわかんねーけど……そ、そういう意味……なのか……?」

好き放題に言い放ち、剣、扇子、ハンマーを構える三人組。

いやいくら何でも読解力がなさすぎでしょ、と綺羅星が冷や汗を流しながら振り返れば、彼等はさっそく耳につけたレコーダーを起動し、さらに頭部にはちまきのように装備した配信用カメラを稼働。

……本気なの?

ていうか、私達まで一緒に配信してどうするつもり――

「妙ですね」

「え」

「レコーダーと配信用カメラだけならまだしも、ポケットに盗聴器とGPS。……あれでは配信用というより、監視用だ」

「……え?」

ダンジョンで利用される通信機器はその仕様上、電波も魔力に一時変換される。

影一の”察”には全て筒抜けだが……だとしても、あまりに数が多すぎる。

「綺羅星さん。すこし様子を見ましょうか」

「それって、どういう……」

「彼ら自身はただの馬鹿ですが、何者かに私を監視するよう利用されている可能性があります」

「……珍しいですね、先生がそういうことを仰るの。いつものように、罠にかけて消すのかと……」

「さすがに、あれだけカメラがある中で三人同時にやるのは不自然です。それに」

影一が声をひそめ、そっと綺羅星に呟いた。

「私を不快にするストレス源は、根っこから駆除しなければ二度手間です。……カメラの向こうにいる人間を掴んでからでも、遅くないでしょう?」

その口調が、あまりにも平然としたものだったので。

綺羅星はぞわりと寒気を覚えつつ、……歩く速度をすこし落とし。

一応。

念のため。

無駄だと思うけど……すこし下がって、綺羅星はカザミ達にそっと囁く。

「あの……今ならまだ間に合いますので、帰った方が……ダンジョンって危険なんです。モンスターとかモンスター以外とか。それに、人間の命って、ひとつしかないって、ご存じですか……?」

「なに言ってるッスか、ここまで元気づけられてあり得ないっすよ、配信始めちゃいましたし!」

「オホホ、心配ご無用。わたくし達の実力をみせてあげるざます!」

「お、おで、がんばる……兄貴達ががんばるなら、がんばるぅぅぅ!」

忠告を無視して気合いを入れる”ブラザーズ”三人衆に。

綺羅星は心の中でそっと十字を切りながら、影一の元へと戻っていった。