軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第35話 証拠

「おい九条。なんだ、あのふざけた連中は。俺等は、あんな恥ずかしい奴に負けたのか……?」

「ええ。冗談みたいな話ですけど」

「ざけんなっ……俺は、あんなクソみたいな格好の連中にボコられたってのかよ……!」

九条が剣を構える傍ら、八崎もまた舌打ちし、苛立たしげに戦斧を握りしめていた。

奴らの戦いには、花がない。

そもそも、背広姿に女子高生の制服そのままという格好が、ダンジョンを舐めきっているとしか思えない。

そんな、自称掃除屋レベルの奴らに、手玉に取られた――

その事実が、八崎と九条の心にぶわっと黒い炎を灯す。

「九条。まず、俺が男の頭をかち割る。お前は女をやれ」

「命令されるまでもないよ。――といいたいけど、前回のことを忘れてないよね?」

もちろんだ、と八崎が忌々しそうに吐き捨てる。

前回、あのリーマン野郎は卑劣にもトラップを仕掛けていた。

スキル発動モーションは見えなかったので、事前に仕込んでいたのだろう。

今回は、同じ轍は踏まない。

基本的に、スキルには独特の発言、あるいは発動モーションが存在する。

呪文スキルに、詠唱があるように。

剣技スキルに、技宣言があるように。

トラップを仕掛ける時は、どんなに小さくても発動モーションがあるはずだ。

「……まず、彼等が移動するのを待とう。移動中に、無意味にトラップを仕掛けるようなことはないだろうからね」

「ああ。前回はあいつらが事前にスキルを仕掛けてたから、やられたんだ。けど移動中、しかも相手はこっちに気づいてねぇなら……おい深緑、”ハイドクローク”使え」

「え。……でもあの隠蔽スキルは、狩人相手には効果がなくて」

「背広男にはな。だが隣の女には効くだろ。アレは動きも素人だ、魔力を見破るようなことは出来ねぇさ」

姿の見えない男に、素人女が抗えるはずもない。

場合によってはあいつを人質に取り、リーマン野郎を脅すのもよいだろう。

「それと、”レビテーション”は使えるか? トラップ回避の浮遊スキル」

「あ、うん。一応……」

「へぇ、やるじゃねえか。じゃあ九条と俺にかけろ」

深六が詠唱を行い、九条と八崎の身体がわずかに浮かぶ。

”レビテーション”は地面からほんのすこし浮遊するスキルだ。

大地に足がつかないぶん、踏ん張りが効かないデメリットはあるが、地雷系スキルや地面を通じた攻撃を回避できる便利な一面もある。

――これで、負けはなくなった。

そもそもトラップ使いは待ち伏せに強く、奇襲に弱い。

三対一、かつ、トラップ対策もレコーダー対策も万全にしたなら勝ったも同然。

あとは、奴らが運悪く迷宮の袋小路にでも向かえば、終わりだ。

背後から奇襲をかけ、一撃。

スキル発動の機会すら与えず、仮に発動しても自分達は地に足をついていないという寸法だ。

(あとは目撃者さえいなければ)

九条が周囲を伺ったとき、八崎が小突いてきた。

鎧姿の二人組が、広間先にある通路を曲がっていくのが見える。

……あの先は、マップによれば袋小路。

チャンスだ。

――目撃者がいる可能性もあるが、その時はそいつらも始末すればいい。

神はこれまで九条に散々不運と不平等を押しつけてきたのだ、今回くらい幸運を呼び寄せてくれてもいいはず。

九条は八崎とともに地を駆ける。

浮遊魔法のおかげで足音はない。

九条はすかさず剣を、八崎は斧を振り上げながら声もなく通路を曲がり――もらった、と勝利を確信して、

「「――!?」」

……いない?

三人の前に現れたのは、周囲を草原の壁に囲まれただけの、だだっ広い……直線だけ。

二人が曲がったはずのそこには、人間どころかモンスター一匹の姿もなく、穏やかな風がふわりと駆け抜けていくのみ。

――ハイドクローク、か?

いや。その程度で自分達の目を欺けるはずはない。

「おい、九条。……あいつらはどこだ?」

「……奥か? でも、あの一瞬で?」

目の前にあるのは、五十メートル近い一直線だ。

ダンジョンとはいえ、数秒で駆け抜けるには無理がある。

……とはいえ他に道がない以上は、奥に進むしかない。

訝しみながら、九条が。続いて八崎が道を進む。

遅れる形で、深六がぼてぼてと腹を揺らし震えながら後を追う。

……広がるのは、違和感。

自分は何か、大事なものを見落としていないか。

何か、大きな勘違いをしていないか。

じわりと広がる恐怖を押し殺し、気のせいだ、勘違いだと自分に言い聞かせながら、九条達は突き当たりにある曲がり角を曲がり――

やはり、何もない。

突き当たりは、ただの袋小路だ。

あり得ない、と、九条が思わず八崎と顔を合わせ――

ピピ、と。

聞き覚えのある電子音。

八崎が身構えた直後――背後で、魔力の増大を検知。

続けて、ボン、と激しい爆発音とともにダンジョンの壁が轟音とともにはじけ飛んだ。

「「っ……!」」

背後を取られた――いや、トラップを壁に仕掛けられていた!?

だが幸い、爆破された壁は九条達から離れた後方だ。

直撃を狙ったのだろうが、こちらを視認していないせいで、タイミングがずれたのだろう。

「ちっ、相変わらずセコいやり方しやがって……! おい出てこい! コソコソ隠れて、俺達を見てるんだろう!?」

同じく、ダメージのなかった八崎が戦斧を振りかざす。

連中はとことん卑劣な戦法を好むらしい。まさにクズの極み、人間の風上にもおけない奴らだ。

もっと自分達のように、正々堂々と振る舞ったらどうだ、卑怯者が!

「ね、ねえ。えっと……」

「あぁ!? 何だ深六、奴らを見つけたのか!?」

「そ、そうじゃないけど……」

「なにか見つけたのかい?」

もしや、奴らを見たか。

九条の問いに、深緑はもじもじと膨れた饅頭みたいな頬を揺らし、爆破された壁を示して青ざめる。

「そこの壁、こ、壊されて、瓦礫、山積みだけど……僕等、閉じ込められてない?」

「「――なに?」」

*

影一の愛用するトラップスキル”地雷”は、何かが触れた時点で爆発する”接触起爆型”と、こちらが任意で魔力を飛ばすことにより爆発する”指示起爆型”の二種類が存在する。

また、トラップスキルという名称から誤解されやすいが、本スキルは床であろうと壁であろうとアイテムであろうと、影一が触れれば設置することが可能だ。

その気になれば、歩きながら靴底でトラップを仕掛けることも出来るほど。

実際、隣でみていた綺羅星ですら、影一がいつスキルを発動したのか見えなかった程だ。

ふむ、と影一は計画通りにコトが進んだのを確認し、――綺羅星を抱えたまま、ダンジョンの天井から着地する。

”草原”フィールドの壁は、もふもふとした草木の生えた素材でできており、その気になれば掴むことができる。

当然、天井も同じ。

そう。影一達は角を曲がったのち、天井に張り付いていた――それに気づかず通路を通り過ぎた連中を確認し、通路を爆破しただけ。

「覚えておいてください、綺羅星さん。レコーダーが一般化されてなお、ダンジョンでの犯罪は後を絶ちません。そして今のように、察を怠らなければ事前に気づくことが可能です」

「は、はい」

影一も綺羅星も背後から迫る三人組に気がついていた。

”ナンバーズ”の面子のうち二人――九条と八崎は魔力を隠していたが、残る一人……小太りの男は、綺羅星ですら気づけるほどの素人だった。

魔力の隠蔽は、パーティ全員ができなければ意味がない。

むしろ中途半端に隠すのは、悪巧みをしていますと公言しているようなものだ。

勉強になりましたねと笑う影一に、綺羅星はおずおずと後をつきながら、ふと背後を振り返り。

「あの……閉じ込められたあの人達、どうするんですか?」

「あのまま放置します。……もちろんこの場で全員始末しても良いのですが、義理立てといいますか。彼等は説明会には出席していませんでしたが、一応、私達と同じ兎ゴーレム狩りクエストに参加している参加者らしいので」

そして民間のクエストならともかく、政府公認クエストにて死者が出るのは宜しくない。

お役人にも、お役人の立場というものがあるだろう。

「……先生も、人の心配をするんですね……?」

「いえ。政府公認系クエストで死者が出た場合、原因をきちんと調査するケースが結構あります。証拠を残したつもりはありませんが、迷宮庁の調査課が優秀だという話はよく聞きますので。――それに、今回のクエスト出発前に”安全バッチ”を貰ったでしょう? あれは狩人の魔力が著しく減少すると、救援信号を発する効果があります」

そのため、彼等を直接害すれば政府お役人に犯行が露見してしまう可能性がある。

もちろん普段通り、始末した遺体をインベントリに収納して誤魔化すことも可能だ。

しかしダンジョン外はともかく、ダンジョン内におけるインベントリ隠蔽は意外と知られた手口でもある。

「……でも先生。言い方はあれですけど……彼等が生きてたら、生きていたで、私達が犯人だと言われません?」

「証拠はありますか?」

え、と戸惑う綺羅星に、影一はごく当たり前のように、笑って返す。

「レコーダーは使えません。なぜなら、彼等自身がレコーダーブレイク……妨害電波を発していましたし、そもそも、自分達の犯行が映像に残るような真似はしないでしょう。仮にしていたとしても――彼等の視界に、私達が罪を犯した場面が、ひとつでも残っていましたか?」

改めて言われ、綺羅星は証拠がまったくないことに気づく。

影一はうすく瞳を細め、ごく当たり前のように、告げた。

「私の主義は、安心安全ノンストレスです。警察にバレるかもしれない、なんていう不安を抱えたまま夜を迎えるようなら、既に全員消しています。そうしなかったのは、する必要がないと判断したからに過ぎませんよ」