軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 武器屋2

影一が前世で親しんだゲーム、LAWのダンジョンには稀にモンスター以外の登場人物も存在する。

町中を歩くNPCや、クエスト進行の中心人物となるキーキャラクター等だ。

その中で、影一が当時ゲーム中で最も顔を合わせていた人物こそ、彼女……

NPC鍛治師、スミス=ニャムドレー氏だ。

本来NPCであるはずの彼女が、どうしてここにいるのか。

ダンジョン内に存在するということは、モンスターと同種とも言えるが……LAWにおいて彼女は友好的なNPCかつ、強力なキャラクターでもあった。

もし日本政府をはじめ、世間に存在が知られれば厄介なことになるだろう。

――なので、影一が密かに匿っている……という程でもないが、彼女の存在を知りながら世間には黙っている。

十分ほど待つと、スミス氏が諦めたようにぴょこっと耳を揺らし――影一に気づいて、うわぁ! と悲鳴をあげた。

「にゃは、いるならいるって言ってくれん? 影一のオッサン」

「失礼。仕事中の邪魔をするのは流儀ではありませんので」

「いや全然? 元がダメだとやっぱダメだね」

にしし、と笑い彼女のウサギヒゲがひょこりと動く。

鼻先がちょっと赤く、小さく伸びたおひげが揺れる様には愛嬌がある。

「ニャムドレーさんにしては、珍しい仕事を受けられましたね。武器製造ではなく強化ですか」

「金持ちのボンボンが、自前の武器をもっと強くしてくれ~って店員に無茶言ってきたみたいでね。うちのスタッフが断り切れなかったんだって。でも無理なもんは無理でーす」

「諦めると?」

「サブスキル付けて誤魔化すよ。武器本体じゃなく、柄に魔石を埋め込んで疑似的に出力を増加させる。ま、剣の耐久力は落ちちゃうけどねぇ。何もしないでお金取るわけにもいかないし?」

ついでに見栄えもよくなるし、とケラケラ笑うニャムドレー。

元NPCにしては融通が効くよなと不思議に思っていると、彼女がにやりと唇を歪めた。

「できてるよ、例の」

「ありがとうございます。早速頂いても?」

彼女とともに奥の倉庫へ向かう。

影一が重箱を開き、するりと抱えたのは、しなやかなカーブを描いた弓に台座と弦を張ったもの。

普段使いしているクロスボウに、よく似た――ただし、サイズが通常の二倍ほどあり……

なぜか、矢を引くべき弦が五本ある意味不明の代物に、影一は満足げに頷いた。

「注文通りの品、ありがとうございます。名前は確か”竜弩砲”でしたか」

「うん。でも仕様通りにしか作ってないから、仕様通りにしか動かないよ? ボクがいうのも変だけど、頭おかしくない?」

「問題ございません。実践をお披露目しましょうか?」

常識的に考えて、弦が五本並んでる弓など使えるはずがない。

と、普通なら即お断りされる案件を現実にしてくれる彼女の存在は、本当にありがたい。

さて、と影一は倉庫にて弓を構える。

――影一の本質は、安心安全。

トラップや弓を使うのも、敵を安全圏から一方的に攻撃したい欲求に基づいたものだ。

ゆえに、弱点もある。

相手が極端に頑丈である場合、弓やトラップでの攻撃が通りにくい。

火力においてはどうしても、近接武器に劣る場合があるのだ。

そこで考えたのが本武器”竜弩砲”。

五つある弦を影一はまとめて引き、その一つに魔力を込め射出する。

放たれたのは、ただの白い魔力弾。

通常攻撃に過ぎない一撃を放ったのち、影一は二本、三本と白弾を立て続けに具現化し、超高速で放ち続けていく。

要は、一発で火力が足りないなら五連射すれば良いじゃない――

という、頭の悪い理屈だ。

「……一応言っておくけど、クロスボウって本来そういう使い方しないからね? ていうか、その使い方なら弓でもいいんじゃない?」

「弓の曲線軌道が、私には合わなくて。かといって銃はコストがかかりますので、これ位が丁度良いのです」

「貫通スキルとか火炎付与スキルで火力増強すればいいんじゃ……」

「スキルを使うと、証拠が残るので好きではありません。その点、通常攻撃やトラップ系は証拠が残りにくいので」

仕様に満足し、影一は得物を下ろす。

「いつもありがとうございます。支払いはいつもの口座に」

「こちらこそ。いつも驚かせて貰ってるよ」

スミスが笑い、影一も柔らかく微笑む。

センテンスの短い、必要な会話だけをこなしてくれるのはありがたい。

頂いた武器をインベントリに収納しつつ、要件は済ませたので――と、ついでに。

「ニャムドレー先生。まだ可能性の話ですが、いずれ、私以外の方のための武器を発注するかもしれません」

「へぇ? オッサンが他人の話をするなんて珍しいこともあるね」

「気まぐれから弟子を取ったので、まあ、可能性として」

「もし来たとき顔見せしてよ。わくわくするような”根源”持ちの狩人は、いつだって大歓迎さ」

「いま、上の店にいますよ。宜しければお連れしましょうか?」

「お? いいや、じゃあ直接見に行こうっと」

とん、と席から立ち上がった彼女に、影一は眉を寄せる。

……彼女がダンジョンの魔物と同じ存在なら、ダンジョンから出られないのでは?

疑問を悟られたのか、ニャムドレー氏がにゃははと笑い。

「このゲート、実はもうクラッシュしてる。ていうか、ボクが壊した。でも、モンスターが出てくるわけじゃないから許してね?」

「なんと。……だとしてもダンジョン産の存在は、魔力がうすい地上で活動し辛いのでは? ゲートクラッシュで外に出てきた魔物は極端に弱体化するとも聞きますが」

「弱体化はするけど、動けなくはないのさ。それに最近、ボクも地上に慣れてきたしね。君達、地上人がダンジョンに慣れるように」

ニャムドレー氏がまた挑発的にひげを揺らし、影一はじつに興味深いものを覚えながら、ともにエレベーターを登る。

そろそろ、綺羅星の武器選びも完了したことだろう。

彼女のセンスは、どんなものか。

性格的には、見た目の悪くないショートソードを選びそうだが……それでは面白くない。

と、ニャムドレー氏とともに綺羅星がいる試射場に顔を覗かせると――

ブルオオォォォォォ――――ッ!

猛烈な駆動音と共に。

ガリガリ激しい歯音を鳴らし、高速回転するチェーンソーを片手に――

試験用の案山子を一心不乱に切り刻み、凄惨な笑みを浮かべている女子高生の姿がそこにあった。

ほほう、と影一は素直に感心する。

血飛沫の代わりに、案山子がばらばらと肉片のように零れ落ち。

とても試用とは思えない勢いで得物を振り下ろす愛弟子に、隣のニャムドレー氏がゲラゲラ笑った。

「わぁお。素質の塊。さすが君の見込んだ弟子だね」

「ええ。彼女、真面目ですけど性根が歪んでいるので、将来いい子に育つのではと期待しているんですよ」