軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 駆除

綺羅星が息を飲むなか、影一はネクタイを改めつつ獲物を見定める。

出現したモンスターは“キラービー”。

D級下位のモンスターであり耐久力は低いものの、外見通りの回避率にくわえ尾針に毒をもつタイプの魔物だ。

新人狩人であっても一撃でやられることはないが、攪乱されている間に毒が回り、気がついたら……という事例を聞く。

「ということは、ダンジョンボスは“クイーンビー”ですか。さて……」

敵影、およそ十。

ただし通路の奥からさらに羽音が聞こえるので、実際はこの倍か。

無数の複眼が、影一と綺羅星を捕らえる。

敵愾心がはっきりと伝わる中、後ろに控えた綺羅星が、おずおずと、

「っ、あ、あのっ……勝てるんですか? 影一さんは武器とか……」

「そうですね。実をいいますと、私の基本スタイルはトラップと弓を用いたものですので、飛び回る小型モンスターとの相性はあまりよくありません。……ただ、それ以上に悩ましいのは」

ふむ、と影一は首を鳴らし、すこし考えて。

「綺羅星さんに不愉快に思わせないこと、でしょうか」

「へ?」

「お守りすると口にした手前、怖い思いをさせて心理的ストレスを与えたくもありませんので」

口約束とはいえ安全を保証したなら、彼女には傷一つつけるべきではないだろう。

一度交わした約束は、きちんと守るべき。

なら、影一のやるべきことは……

キラービーの一匹が、羽音を鳴らして迫る。

自転車が猛スピードで突っ込んでくるかのような勢いで迫り、直前でくるりと反転。

フェイントをかけた後、空中よりご自慢の毒針を突き刺そうとする敵に、影一は素早くインベントリを展開し――

ぷしゅー! と。

銀色の殺虫スプレーを吹きかけた。

直撃をうけたキラービーがたまらず空に逃げるも、すぐにひっくり返り、地面に落ちてぼふんと煙に変化する。

……は? と呆けた声をあげる綺羅星。

「……え? か、影一さん? ……それ、何ですか?」

「ダンジョン専用の殺虫スプレーです。虫系モンスターに効果バツグンですよ」

「え……えぇ……?」

影一の得意技は、確かにトラップと弓だ。

が、たとえ武道の達人であろうとG相手にはスプレーを使うだろうし、頑固な汚れには洗剤を使うだろう。

同じように、モンスターにも適材適所がある。

「相手の弱点を突くのは、モンスター攻略の基本です。そして私の仕事は掃除なので、正々堂々と戦う必要などありません。……そもそも、数多のモンスター相手に同一の武器やスキルで戦い続けるのは不便でしょう」

配信者や狩人の中には、己のスタイルを固定して戦う者も数多くいる。

それは自体はべつに悪くないとは思うが、影一はその方針は取らない。

というか素直に、得意武器を使い分けた方が便利だと思う。

……ただまあ、このスプレーにも弱点がある。

「ただ、この方法には欠点もありまして。この対昆虫スプレーですが、人間にもいささか毒になるのです。私には耐性がありますが、綺羅星さんには影響があるかもしれません」

「え」

「そこで対策を行います」

影一は再び己のインベントリを呼び出し、彼女にそれを用意した。

それは、全身がもふっとした真っ白な……衣装、というか。

昔、宇宙ステーション体験コーナーで見たことあるような全身防護服に「……は?」と綺羅星は目を丸くし、影一はにこりと笑う。

「こちら、防護服になります。外見はゴテゴテの宇宙服ですが、防御力および対状態異常性能は保証いたします。……こちらを装備して頂けませんか? ああ、ご存じかと思いますが、ダンジョン内の装備品は自らの意思で“着る”と念じれば服を着替える必要はありません」

「っ、は、はい……知ってますが……?」

「実例を示しますね」

影一の身体が、光に包まれた。

直後。

背広姿だったはずの男があっという間に、全身ゴテゴテの白服――月に降り立った人類スタイルに変貌した。

鬱蒼と茂る密林に突如現れた、もこもこ人間。

つるんとした半透明の頭部がダンジョンの疑似日光をにぶく反射し、一歩進む度にドスンドスンと音が聞こえてきそうな重装備に早変わりした男が、のしのしと蜂の集団へと歩いていく。

ぷしゅー。

ぷしゅー。

間抜けな音とともに、撃墜される蜂の軍勢。

怒りにまかせ襲ってくるモンスターも、影一の宇宙服(仮称)の強度が頑丈なのか傷一つ通す様子はない。

その様を見つつ、綺羅星はつい、思う。

(なんか、火事現場で放水してる消防士のおじさんみたいになってる……鳥インフルエンザが出た養鶏所で消毒作業する人みたいな……)

モンスター退治って、こんなんだっけ?

もっとこう、二足歩行の牛やドラゴン相手に、槍や剣で格好良く挑むのが、狩人だったような……?

疑問を抱きつつも、綺羅星も指示通りに宇宙服(仮称)を手にし、念じることで身につける。

視界がマジックミラーのように薄まり、全身にずしっと重量を感じながら顔をあげれば、影一がにこりと頷いていた。

「ご協力ありがとうございます。では、あとは私にお任せください」

「ありがとうございます……でもこれ、私の知ってる魔物退治じゃない……」

「外見に拘ってるうちは、掃除屋としては二流であるというのが私の持論です。それに」

影一はそこで、綺羅星にも分かるくらい、透明カバーの奥で唇をつり上げながら。

「慣れれば楽しいものですよ。こちらは一切傷つくことなく、相手だけを一方的にやり込める。私の理想とする戦闘スタイルそのものです」

「えぇ……?」

「ゲーマーなら誰だって、ノーダメージで敵を完封したくなるでしょう?」

ドン引きする綺羅星に気づかず、影一はまるで家の掃除でもするかのように。

ぷしゅー、ぷしゅー、とスプレーを巻きながら、のしのしと迷宮を歩いていく。

……何これ?