作品タイトル不明
第106話 秘策
時は数刻、遡り――夕暮れ時。
突如発生したゲートクラッシュに震える城ヶ崎の前で、綺羅星がスマホをポケットにしまうのが見えた。
「先生の許可が出ました。今から、ダンジョンのボスを速やかに退治します」
「お、お願いします、綺羅星さん。すみません、こんなお願いをして……」
口にしながら、でも、でも、と城ヶ崎は混乱する。
ダンジョンって危険は無いんじゃなかったの?
ゲートクラッシュなんて迷宮庁のデマで、いやでも、目の前では確かに……
「ただ。城ヶ崎さんにもひとつ、お願いをしても良いですか?」
「え。何でしょう……?」
「ダンジョン内の道案内をお願いしたいんです」
固まる城ヶ崎に、綺羅星が急ぎ足で階段を降りていく。
「地上に出現したゲートの位置によって、ダンジョンの内部構造も変化します。……自宅に出現した場合、家の構造がそのままダンジョンの構造に似ている時があるんです。なので、城ヶ崎さんの記憶が攻略のヒントに繋がります」
そんな話は初耳だった。
けど、彼女はプロと肩を並べて戦っている子だ。本当なのかも……
「最速でボスを撃破し、被害を抑えることが出来れば、周辺への被害も早期に抑えることが出来ますし」
「! なら、近所への評判も……」
「ええ。それに私達は”友達”ですよね? なら、協力して頂けませんか?」
「っ……は、はいっ!」
友達。そう、私達は友達だ。
考えてみれば……自宅に訪れた危機に対し、友達と協力して乗り越える。
すごく……すごく高校生らしい、友達らしい展開だ!
それにそれに、考えてみれば、今朝見た星型のモンスターはあまり強そうに見えなかった。
ゲートクラッシュがどれ程厄介かは知らないけど、綺羅星さんもいるし、城ヶ崎のインベントリにも時価一千万はする装備品もある。それなら――
「綺羅星さん、がんばりましょう! 友達として!」
「ええ。友達として危機を乗り越えるため、協力をお願いします」
「はいっ」
良かった。本当に偶然だけど、最高の展開だ。
ダンジョンなんて正直もう見たくもないけど、仲直りできるのならそれだけで価値がある。
本当にありがとうございます!
私はこれから、友達と仲直りをする最高の瞬間に立ち会います。
ああ。ダンジョンって実は、友情を深めるには最適な場所なのかもしれない。
わくわくしながら二人で地下に走り、灰色のダンジョンゲートを、ぴょん、と軽快に飛び越え――
「……え?」
入口より数歩先、開けた小部屋にて足を止める。
――現れたのは、ふよふよと風船のように浮かぶ星型の存在。
今朝、城ヶ崎とみたのと同じ……けれど、そのサイズは……
「嘘……朝見たときは、あんなに小さかったのに」
朝見たときは、せいぜい20センチ程の小石だったものが。
いまや城ヶ崎の背丈ほど、およそ1.5メートル程にまで成長している――
「っ、待って。え、こんなに大きく――」
「小さいですね」
「え」
「前にダンジョンで見たときは2メートル越えてたから、あれの四分の三……体積で考えたら半分以下。ダンジョンの生成と、地上の移動で消耗してる……? 外見や行動パターンが同じだとしても、ステータスはC級上位レベル……」
綺羅星が目をこらし、モンスターの何かを観察している。
よく分からないけど、友達にはアレを倒す算段があるらしい。
なら、後は綺羅星さんに全てを托し、城ヶ崎は控えるだけだ。
……あれ?
でも、ダンジョンの案内っていう話は――
「じゃあ、城ヶ崎さん。友達として協力をお願いします」
「え、ええ。でも協力って」
「大丈夫ですよ。あなたは居てくれるだけで、役に立ちますから」
綺羅星が横に並んだ直後。
いきなり胸ぐらを掴まれ――視界が揺らぐ。
え、と呆気にとられる間もなく。
城ヶ崎の身体がいきなり浮かび、浮遊するボスモンスターへと投げつけられ――浮遊していた”アタックスフィア”が反応。
「――――!!!」
空中で盛大な花火を散らし。
悲鳴をあげる間もなく、城ヶ崎の身体がゴミのように吹っ飛んだ。
*
マザースフィア本体戦の見学に、マザースフィア分裂体との戦闘。
それに継ぐ三戦目ともなれば綺羅星とて、相手の攻撃パターンくらい熟知している。
ヤツの初手は必ず、浮遊させたアタックスフィアを全投入する全弾発射。
一番の対策は、他人を囮にすること。
かつて先生が、名前も忘れたモブ男を投げて示したように。
「先生の教え、その一。資源は有効活用しましょう」
城ヶ崎を囮にしたのち綺羅星はインベントリを展開。
メリケンサックを装備し、次のアタックスフィアが再出現するより先に加速をつけて飛びかかる。
マザースフィアの戦闘パターンは比較的シンプルだ。
誘導攻撃を仕掛けるアタックスフィア、及びボスを守護するガードスフィアの誘導さえ怠らなければ、ノーダメージも不可能ではない。
前方、壁のように並んで展開したガードスフィアにフェイントをかけ、横に待避。
続けて右足を蹴り正面に加速、マザースフィアの下部を力一杯殴りつける。
みし、と音を立てて、ダメージ。
装甲が弱い――前回は微々たるダメージしか通らなかったが、今回はガードの上からでも殴りきれる。
いや。
前回の戦闘を経て、綺羅星のレベルが上がったのかも……?
いずれにせよ、勝てる。
油断はしないけど、確実にやれる。
モンスターには例外が存在しない。
行動パターンに適した対処を行い、攻めきれる火力があるなら、勝利は確定したようなもの。
けど。
さらに的確に、正確に勝利を収めるには――?
「っ……と」
ボスがアタックスフィアを再出現させたのを感知し、後方に引く。
この時間が無駄だ。
マザースフィアは時間をかけると自己修復を始める。
一気に攻めたいが、近接戦オンリーかつ火力の低い綺羅星ではどうしても、回復持ちとは相性が悪い。
強行突破も出来なくはないが……アタックスフィアの誘導だけでも行う、タンク役がいれば……。
「――あ」
閃きが走った。
……この手なら、いけるのでは?
綺羅星はフロアの隅へと退避し、それに近づく。
地べたに転がっているのは、アタックスフィアの直撃を受け瀕死のままびくんびくんと痙攣している城ヶ崎だ。もちろん生きている。
最初から見越して、投げた。
むしろここで城ヶ崎に死なれると、綺羅星としても大変に困る。
ゲートクラッシュを起こしたゲートに対し、迷宮庁に連絡せず犠牲者を出した、なんて、狩人としては大失態だし、そもそも城ヶ崎は綺羅星の友達だ。
友達とは助け合い、協力し合うもの。
なので彼女にもぜひ、お友達としてモンスター退治に協力して頂きたい――
「よし。これなら……!」
インベントリを起動し、綺羅星は白銀色に輝く盾を取り出す。
爆破攻撃を防ぐ”ホワイトシールド”を床に寝かせ、その上に城ヶ崎を仰向けに。
続けて、影一から「あると便利ですよ」と言われた、マジックロープ――本来は落とし穴の下を調査したり敵を捕縛するために用いる縄を取り出し、城ヶ崎の身体をシールドに固定する。
最後に、作戦の要。
「城ヶ崎さん。死にたくなければ、これを飲んでください」
「っ……き、綺羅星さ、痛い……た、助けっ……もごぉっ!?」
顔面泥だらけになり今にも死にかけな城ヶ崎に、無理やり瓶の口をねじ込んだ。
秘策――”ガッツポーション”
その効果は一定時間、魔力が全損しても生き残ること。
当時の綺羅星は、ただ瀕死のまま悶えるだけだと文句タラタラだったが……。
ごぎゅ、と女の喉に無理やり薬を流し込んだのち、綺羅星は改めてホワイトシールドを両手で抱えた。
その先にはもちろん、城ヶ崎をくくりつけたまま。
構わず、前方から迫るアタックスフィアに突撃。
ぎゃあああああ、と友達の奏でる最高の悲鳴を耳にしながら、無傷の綺羅星はさらに接近。
ボス間近、ガードスフィアが守護のため展開されたその直前スレスレに、ホワイトシールドを床にたたきつけ設置。
直後、待避。
再びボスの頭上に出現した、アタックスフィアは――
逃げた綺羅星ではなく、ボスの真正面。
盾にくくりつけたまま身動きできない、タンク役を引き受けてくれた健気な友達をターゲットに定め、雨あられの如く絨毯爆撃を繰り広げる。
「いだ、いだぁあああ、助け――――――っ!?」
よし、成功!
ガッツポーションの効果が続く限り、アタックスフィアは心優しいお友達がすべて引き受けてくれる。
友達なんて鬱陶しいだけと思っていたけど、なるほど、持つべきものは友達だ。
城ヶ崎さんの言葉にも学ぶところがあったなと感心しつつ、ぎゅっと拳を握りなおす。
「先生の教え、一石二鳥……ううん、一石三鳥、かな?」
前回は、死ぬ前と死んだ後、二度にわたる再利用だったけど。
人間って瀕死でもじつは使えましたよ、と先生に教えてあげようと笑いながら、綺羅星は再びボスへと飛びかかった。
――友達って、実はとてもいいものかもしれない。