軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「話の通り、呪われた姫というのは本当だったか……」

第二王子の言葉で、雪乃の予想が当たっていたことが分かった。

この、とても他国の王女を迎えるとは思えない部屋は、人質だからということだけではなく、すでにウエンディという人物を知っていたからなのだ。

呪われた姫。

呪われた子。

王女としても、そうでなくとも、とても王国同士の交渉に使えるようなカードではないし、なのに送られて来た理由も全部嘘。

嘘だと知っている。

病弱で大事に育てられた姫という嘘。

おそらく、アウリラからスパイのような人間が入り込んでいた。

ただ、彼は真実も知らない。

頭が弱く使い物にならないため、不用品として放り出されて来たと考えているのだろう。

雪乃は馬鹿ではない。

しかしまあ後半は当たっている。

真実は多いほうが、小さな嘘を隠してくれる。

雪乃は、呪われてなどいない。

ただひたすら、祖国を憎んでいるだけだ。

「呪われた姫? 私のことですかぁ?」

首を傾げてみせると、彼は大きくため息をついた。

そしてそのまま、出て行こうとする。

雪乃は慌てて呼び止めた。

「あ、あのー、すみません、一日に30分ほどでいいので、裏庭に出てもいいですかぁ?」

「……なんのために」

「運動ですぅ」

「なんだって?」

「運動ですよ。乳母に言われたのですぅ。毎日陽に当たって、運動をしなさいって」

彼の顔は、盛大に歪んだ。

乳母というのはせいぜい三歳まで、三歳の頃に言われたことばを未だに守っている16歳というのは、確かに色々と問題がありそうだ。

「ほらぁ、ここ、裏庭が近いし、そんなに大変じゃないと思うんですよねぇ」

「……朝11時から30分だけ、こちらの護衛をつける」

「分かりましたぁ。あ、それから」

「なんだ」

すでにドアノブに手をかけている彼に、こればかりは本気で聞いた。

「あなたの名前、なんでした?」

第二王子には無視されたが、元メイド、現侍女のオリーブが、彼の名がシリル・グリフィン・メルーだと教えてくれた。

使節団はみな知っていたらしい。

どうせ覚えないだろうと、雪乃には黙っていたそうだ。

馬鹿じゃないだろうか。

ともかく、雪乃は午前中に30分の運動を許された。

翌日から、時間通りに騎士がやって来て、雪乃を連れ出す。

そして、30分きっかりで連れ戻す。

この城の裏庭は、祖国のそれよりも広かった。

かつては同じ場所を円状にぐるぐる回っていたが、今は四角く移動できる。

花も植えられていたし、池もあった。

池の中には魚がいて、水面をはねる姿を眺めたりもした。

時々、宰相のウォーカが様子を見に来たが、特に何を言うこともなく、微笑み合って終わりだ。

「宰相自ら監視かな……余裕がおありだこと」

分かってはいたが、退屈ではある。

祖国ではメイド服を着てうろうろすることも出来たが、ここではさすがに無理だった。

持ち込んだ本も、もう何回も読んで暗記してしまった子供用のものだし、他にこの世界のものはほとんど知らない。

だから頭の中で日本の歌を歌ったり、日本のドラマやアニメを思い出しておさらいしたりしているうちに、三カ月が過ぎた。

久しぶりに、シリル第二王子が訪れた。

「レヴァーゼ王国に、花嫁の交換を要請した」

「あらまあ」

それは面白い。

三カ月間顔を見せなかった夫候補は、どうやらその間に全くの無関係な間柄になったらしい。

「交換って、私とダリア王女?」

「そうだ。返答は、否、と」

「まあああ、それはそれは」

扇で口元を隠していなければ、ニヤニヤがばれてしまうところだった。

どうやら、帰国した使節団の報告は、王の心には響かなかったらしい。

レヴァーゼの王は、父とはいっても、元々、良く知らない人だ。

雪乃は自室の周辺をメイド服でうろうろしたが、そもそもあの部屋自体、ある種の離宮のようなものだった。

王宮内ではあったが、側妃たちが集められた棟で、王妃や王のいる中枢とは距離がある。

騎士たちや侍女たちも、由緒正しさと気品が求められたものの、政治的な関わりのある者はほとんどいない。

だから、盗み聞きする内容も、側妃や子供たちの噂のようなもので、国の政がどのように回っているのか、他国との関係はどうなのか、うかがい知ることはできなかった。

レヴァーゼ王国自体は力があるのだと思う。

なにしろ歴史は長く、蓄えた分の財力と政治のノウハウがある。

近隣国との関係も良好だ。

しかし、それは裏返せば、想定外の事態に弱いということでもある。

武力で政権を動かす国に対して、新興国とあなどると、どんなことになるかなんて、今までの経験から導き出すことは難しい。

それでも、他の目のある国は、己の立場をしっかりと決め、腰を据えてあたっているはずだ。

絶対に傘下には入らないことを目的とし、有利な交渉や自国の武力を強化する国。

あるいは、穏便に現状を維持するために、ある程度相手の要求をのみつつ、対等な関係を築こうとする国。

連合国に引き入れられた各地方国が、それぞれ割り当ての国と様々な交渉をしているだろう。

レヴァーゼの相手は、ここアウリラ。

そして王はただ、なあなあで済まそうとした。

王子妃を要求されたから、不要な駒を送り付け、それが相手の意に沿っているかどうかなど考えもしない。

あなどっている。

あるいは、何も考えていない。

「それで? どうなさるおつもりですかぁ?」

「君に言う必要はないな」

思わず言った。

「いやいや、あるでしょう。そもそもないと思うならなぜ、そんなことをわざわざ伝えに来たのですかぁ?」

シリル王子は、いったん口を開け、閉じてから、また開けた。

「……君の立場を分からせるためだ」

「そうでしょう?

ですから、これからどうするのかもお聞かせいただくべきでしょう?

私がこれからどうなるのか、そういうお話でしょう?」

しばらく考えた彼は、ゆっくりと話し出した。

無視されるかもしれないと思っていたので、意外だ。

「レヴァーゼはこちらの要求に応えなかったものとみなされる。

つまり、友好的な関係を拒否した、ということだ」

「ふんふん」

「我々はそれを、連合国全体に周知する」

「なるほどなるほど」

もはや扇で顔全体を隠さなければならなかった。

この連合国、ひいてはこの地方国の勢いは、止まらない。

おそらく今後も、じわじわと領土の拡大を目指すのだ。

だとすれば、連合国から国をひとつ挟んだだけのレヴァーゼは、恰好の侵略地ということになる。

まずは、経済制裁だろう。

レヴァーゼは平地が少なく、国全体が砦としての強さを誇るけれど、その分、食料自給率は低い。

食品の輸入を断られれば、かなりの打撃だろう。

加えて、鉱山からの採掘も先細りで、輸出に関しては元々、別の外貨獲得を開拓しなければならない時期だった。

他国にレヴァーゼの連合国に対する立場が知れ渡れば、大国におもねって取り引きの量を減らしてくることが考えられる。

「言っている意味が分かっているのか?」

眉を顰めるシリルに、ようやく扇を外して、ぼんやり微笑んで見せた。

「いいえ、ちっとも」

「だろうな……」

「あの国が、この後、やっぱりどうぞってダリア姉様を送ってきたら、どうします?」

「ありえそうもないが、もちろん、突き返す。

すでに二度のチャンスを蹴ったのだ、三度目はない」

「では、結局私はどうなります?」

答えは期待していなかったが、シリルはにこりともしない顔のまま、

「少なくとも、なんらかの決着が付くまではこのままだ」

と言い捨てた。

だとすれば……。

「二年はかかるでしょうねえ、ならばやっぱり、何か暇つぶしをいただけません?」

そう言ってみると、シリルは何やら少し考え込んだ。

そして、壁際をちらりと見た。

そこには、祖国の自室から持って来た本がずらりと並んでいる。

あれは飾りか、とでも思っているのだろう。

もう全部何回も読んだんですよ、とはもちろん言えないので、気づかないふりでにこにこしておく。

「……考えておこう」

一週間後、シリルがまた訪れ、刺繍道具を与えてきた。

「刺繍……刺繍かぁ……オリーブ、あなた出来る?」

ぶんぶんと首を横に振られた。

それはそう、上級貴族と職業婦人のたしなみ、それが刺繍だ。

メイドだった彼女とは縁遠い。

当然、ウエンディにもそのような手ほどきはなかったし、前世の雪乃も手芸の趣味はなかった。

「刺繍が出来ない、と?」

「出来ませんねぇ」

「……よくも恥ずかしげもなく……詩の暗唱などは」

「趣味で? えっ、趣味で? 何が楽しいんですかぁそれ」

ますます冷ややかな目つきだが、何度も舌打ちをしつつ、他の時間つぶしを考えようとしているようだ。

苦労性だろうな、この人。

「馬は」

「えっ」

「馬は乗れるのか」

「乗れるわけないわ、でも乗りたいと思ってました!」

思いがけない提案に、思わず声がひっくり返った。

最長二年の暇つぶしに、まさかの乗馬。

雪乃の時にも経験できなかったことだが、実はずっと乗ってみたいと思っていた。

前世では猫を飼っていて、動物園の年パスを持っていたし、どうやら動物が好きなんじゃないかと思っていた。

こちらでは生まれてこの方、一切生き物に触っていない。

旅の道中、馬車を引く馬には興味津々だったが、当然、近寄らせてはもらえなかった。

「では、君が祖国から連れてきた馬を調教しておく。

準備ができ次第、諸々の手配をしよう」

「どこで乗れるんです? 外ですよね? 外に出てもいいんですか?」

「ああ、こちらの監……護衛が付くところで、決まった時間ということになるが、前々からそういう話はあった。

さすがに部屋に閉じ込めっぱなしでは、人道的ではない」

花嫁として強制的に人質をとっておいて、人道的とは笑わせるが、もちろん口を閉じて黙っておく。

「馬は楽しみか?」

「とても」

「では、その代わりに、これを読め」

シリルに手渡されたのは、児童書のようなものだった。

小学四年生が読むような、と言えばいいだろうか。

「なぜ?」

「お前の部屋の本はどれも手ずれして読み込まれてある。

ならば、次はそのくらいの本を読んでみるべきだ」

「……え、ええー、私こんなの読めなぁい」

今更児童書など面倒で、可愛く言ってみた。

「では乗馬もなしだ」

やるじゃないか、と雪乃は腹を立てつつ思う。

レヴァーゼの教育係が、無理矢理ペンを握らせようとしてきたのとは違い、飴と鞭を心得ている。

「分かりましたぁ……。

では、お馬の準備、お早いお知らせ、待ってますね。

それと、そのお知らせは別に王子様じゃなくてもいいですからねぇ」

「……つまり?」

「あなた、第二王子でしょう? 偉い人なのに、わざわざどうでもいいお知らせに走って来なくてもいいと思いますぅ」

こんな遠くまでね、と、自室の待遇にこめた皮肉は口には出さない。

シリルは表情の読めない顔で、いいや、と言った。

「我が花嫁への伝言は、誰に頼めるものでもない」

「どうせ結婚しないじゃないですか」

「馬鹿を言うな、お前は我が国が要求し、そうしてやって来た花嫁だ。

いまさら結婚しないなどということになれば、それは国際的にも道理の通らない話になってしまう」

なるほど、対外的にはそうだろう。

ましてや今は、こうした類の交渉が多方面で行われている。

もし仮令一国でも、迎えた花嫁を放逐したとなれば、相手国の警戒が高まり、信用度が低くなる。

もちろん、レヴァーゼの行く末が決まるまで、の話だ。

だとしたら、おおよそ二年の間、この王子はただただ婚約者のある状態で時間を浪費し、他の婚約者も探せず、関係が解消されるのを待つしかない。

「最初からダリア姉様が来ていればねぇ」

雪乃の口からこぼれたのは、そんな本音だった。

そうすれば、面倒な制裁を計画せずとも良かったし、雪乃も満足だったし、シリルも優秀な妻を迎えられて、万事うまくおさまった。

いや、それでも、ダリアの犠牲は必要だったか。

「シリル様も大変ですね、呪われた子を嫁にしなさいって、王様に言われたんですか?

可愛がられてないんですかぁ?」

「可愛い可愛くないの話ではない。ちょうど見合うのが私しかいなかっただけだ。

父にも母にも兄にも、泣いて謝罪された!」

なんだ、ただの仲良し家族か。

同情して損をした。

「お馬、お願いしますねぇ」

雪乃の念押しに、彼はまた、舌打ちを返した。

たった五日ほどで、雪乃は上品な乗馬服を与えられ、裏庭を通って馬房まで連れ出された。

さすがに出来る国は決定までの過程が早い。

無駄に時間を消費しないという点で、雪乃はこの国が好ましいと思ったくらいだ。

「これが……馬」

前世含めて初めて馬に触った。

思ったよりも硬いが、温かい。

故郷からの長旅に同道してきたせいか、最終日は少し薄汚れていたように遠目からも見えた。

しかし、今は真っ白に輝いている。

綺麗にしてもらったらしい。

「元々、乗馬馬としての躾はされていた。それに馬車を引かせてきたらしいな」

誰か、兄弟か王の馬になるはずだったのだろう。

それが、急遽、輿入れのための道具になった。

白馬というのは珍しいから、かき集められた際に、アピール力があるとみられたに違いない。

「名があるのか?」

「知りませんねぇ」

「では君が名付ければいい、君の馬だ」

「わあ、じゃあ白いから、『王子様』で」

「お……駄目に決まっているだろう、馬鹿にしているのか君は」

「白馬といえば王子様が乗っているのにぃ?

仕方ありませんね……じゃあエフォーナにしましょうねぇ」

雪乃は、騎士なのか兵士なのか分からないが、軽装をした体格の良い男に馬上に乗せられ、背中から支えられる形で馬に乗った。

王子は偉そうに腕組みしながら、それを眺めている。

想像以上に視点は高かったが、ぽくぽくと馬が歩くとそよ風が感じられ、気分がいい。

ただ、膝をしめろだの手綱に力は入れるなだの色々と背後の男が言っていたが、上半身がゆらゆら揺れてちょっと酔った。

「おえっぷ」

なので、早々にお終いにされてしまう。

まあ今日だけではない、まだまだ時間はある。

残りは明日からゆっくりとだ。

そう思ったが、翌日の雪乃は、ベッドから起きられなかった。

こわばった顔のシリルが、こちらはまだ寝間着だというのに、ずかずかと寝室に入ってくる。

「君の希望だったのだ、だから馬も、人も調整した!

それが一日で飽きただと!?

ふざけているのか!」

雪乃は、寝たまま答えた。

「大きな声を出さないでくださぁい。

あと、女の部屋にノックもせずに入って来ないでください。

それに飽きてなんかいませぇん、誰が言ったんですかそんなこと」

「昨日の今日で来ないとの連絡だ、飽きた以外にありえんだろう!」

「なんだ。勝手な思い込みじゃないですかぁ。そんなことでよく怒鳴れますね」

「思い込みだって? だったら正当な理由があるんだろうな」

「当たり前でしょう。見て分かりませんかぁ」

「分かるか!」

「筋肉痛ですよ、見た目は元気なのに起きられないんですからぁ、考えたら分かるでしょう」

筋肉痛、とシリルは呟いた。

聞いたことがあるようなないような、というレベルの反応だった。

王妃以外はみな筋肉で出来ていたような国だから、そんなこともあるだろう。

双方黙り込んだところで、ドアの隙間から、

「あのぅ」

と声がした。

「どうしたのオリーブ」

「裏庭の運動のお時間ですので、騎士様がお迎えにいらっしゃいました。

帰ってもらってもよろしいでしょうか」

「いえ、入ってもらって」

「筋肉痛なんじゃないのか、君は」

「日に当たらないとだめよ。おんぶしてもらうから平気でぇす」

「駄目にきまってるだろう! 馬鹿か君は!」

「なんで?」

「寝間着で? 王子妃となる婚約者が? 騎士におんぶ? ありえない」

ありえないらしい。

「さすがに着替えますよ、ねえ姫様?」

「そうよオリーブ、それだわ、当たり前よ、だったらいいわよねぇ?」

無言になったシリルを追い出し、オリーブに手伝ってもらって着替えをした。

膝ががくがくする。

太ももとふくらはぎが痛すぎて、体を支えられないのだ。

よたよたと寝室から出ると、待っていたらしい騎士が、手を取ってくれた。

「なんだそれは……本当にただの筋肉痛か?」

「王子様、まだいたんですかぁ。

こっちはろくに運動もしない16年だったんですぅ、むしろ歩けていることを褒めて欲しいですね。

騎士様ぁ、おんぶして裏庭へ連れて行ってください。

どうせ動けませんから、その辺に放り出して、30分たったら迎えに来てくれていいですぅ」

騎士は肯くと、おんぶではなくお姫様だっこをしてくれた。

前世でもされたことがない。

乗馬といい、転生も意外と悪くない。

「すごい、これがお姫様抱っこね。初めてだわ、こんなふうなんだ」

そのまま裏庭に運ばれたが、さすがに放置していなくなってはくれなかった。

オリーブが敷いた柔らかなシートに座り、クッションを当てられ、木漏れ日で日向ぼっこをする。

手足の筋肉はとんでもなく痛い。

けれど悪くなかった。

なんとなくそれは、自分の体と世界との境目を感じさせる。

今ここに自分があることを、痛みだけが教えてくれる気がした。

それでもさすがに、ずっとこれではまずいだろう。

雪乃は、翌日から、自室と裏庭でストレッチを中心に体力づくりを始めた。

前世では、職場の女性たちに触発されて、ジムに通っていたから、基本の動きは分かる。

ヨガとラジオ体操で筋肉痛が起こらなくなるまで、一カ月かかった。

そこから少しずつ乗馬を始め、同時に、裏庭での運動にボクササイズを開始する。

運動強度がけた違いなのと、そもそも使う筋肉が違うため、また筋肉痛になった。

最初10分も動けなかったのが、30分続けられるようになったころ、すでに半年以上が過ぎていた。

乗馬には、いつもシリルが付き添った。

そればかりか、途中から、裏庭の運動にも時折顔を出すようになっている。

ヨガのポーズに顔をしかめつつ、ヨガマットを要求すると、似たようなものを用意してくれた。

ボクササイズの動きにさらに顔をしかめつつ、大きな姿見を要求すると、裏庭に据えてくれた。

なんだかんだ、いいやつだ。

だからお返しに、そうやって一緒に過ごしている時間を使って、レヴァーゼの情報を少しずつ与えた。

世間話に織り交ぜて、重鎮たちの名前や、役職、意思決定の流れ、それから、王子や王女を含めた王宮内の人間関係に至るまで垂れ流した。

王宮の造り自体はさすがにわざとらしいかと思い、よく食卓に上がった料理のことなども話した。

材料から出入りの業者を特定できるだろう。

そこから色々と分かることもある。

そうやって過ごしていたある日、シリルに少し不機嫌そうに言われた。

「視察に行く。君も同行するようにと、王の命だ」

「お城の外に出ていいのぉ?」

「ああ。だが、余計な口はきくな。付け焼刃で淑女のふりをしてもボロが出る。

君は、挨拶以外は黙って笑っていればいい」

思わず、鼻を鳴らす。

シリルの言葉ははからずも、レヴァーゼ王が手紙に書いて寄越した言葉と同じだった。

こうした人種は、他人の痛みを知らないから、こんなことを言えるのだ。

雪乃は、父王や兄弟姉妹に抱いた気持ちを久しぶりに思い出した。

シリルの顔を見て、

「いいわ、得意だわぁ、それ」

と言った。

苛立ちを隠す扇がなかったから、あえて微笑んだ。

ただほんの少し、少しだけ、失望とともにチリリと胸の奥が痛んだ。