軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒幕との再会①

ルシアンのだだ漏れる本音に耐えきれなくなったエステルが、「一人にしてくれ」と顔を真っ赤にして部屋を出ていってからほんの数分後。

呼吸が整い、顔色が戻ったルシアンはクロードに聞いていた。

「クロード、一人にしてくれって何分ぐらいだ? 三分? 五分? 六分だとさすがに長すぎないか?」

「闇聖女のことになると知能が下がるのほんとにやめてにゃ。あの闇聖女が言ってた通り、常識で考えれば王城の中は一番安全な場所だ。心配しないでほっといてやれよ、王子様の愛が重すぎるんだよ」

「……うるさい」

エステルの前とは全く違う幼さでそっぽを向いたルシアンだったが、内心はとんでもなく浮かれていた。

「エステルが俺と結婚を考えている……だと? 俺は死ぬのか?」

「お前、知能下がりすぎて忘れてそうだけど、前にちゃんと求婚受け入れてもらってたはずだぞ? お兄様のお誕生日の夜会で」

「だってあれは我ながら強引すぎた。エステルが明らかに戸惑っているのに、無理に頷かせた」

「自覚あったんだな。だから踏み込めなかったのか」

黙れ、と使い魔に毒づこうとしたところで、扉が叩かれた。

コンコンコン。

「ルシアン殿下、いますか?」

部屋を訪ねてきたのはスレヴィだった。

「こんな時間にどうしたんだ?」

「リーナからルシアン殿下をお呼びするように頼まれたんです。例の五人の自白が始まったと」

ルシアンは懐中時計に目をやった。

(自白させる闇魔法をかけてから五日目の夜か。黒幕に繋がる情報は、相当に心の奥底に隠されていたことになるな)

「わかった。すぐに行く」

そう告げて立ち上がると、スレヴィはきょろきょろと周囲を見回して不思議そうにする。

「あれ? エステルはここにいないんですか?」

「……ああ。少し外に出ている」

「! 外って、どこですか? この棟の中ですか? 誰か護衛の人はついていますよね?」

スレヴィが俄かに空気を変えたのを見て、ルシアンに緊張が走る。

「いや。風にあたりに行くと言っていた。……一人だが、何か問題が?」

「そ、それはどれぐらい前のことですか? 風にあたりにってどこへ」

焦りでぷるぷると震え出し、先の見えない質問ばかりを投げてくるスレヴィに、ルシアンは聞き返す。

「何があった」

「……五人の自白から、黒幕の狙いはやはり光属性魔法の使い手だと判明しました。しかし、伝説の聖女様を慕う人間たちではなく、『光魔法を使う者がいたらどんな手段を使ってでも消せ』という過激な教えをする宗教の教徒たちだったということがわかったんです。これまで、僕を虐げてきた人たちとは完全に違う種類の人間だと。だから、念のためエステルも保護するようにリーナから言われていて」

スレヴィの焦りの理由を理解したルシアンは、自分自身を落ち着かせるためにもゆっくりと教え諭すように話す。

「しかし、フリード国でエステルが光魔法を使えると知っているのはごく一部の人間のはずだ。それこそ、俺たちぐらいなものだろう。大丈夫だ」

「そ……そっか。そうですよね」

ルシアンの言葉に、スレヴィが冷静さを取り戻す。けれど、入れ替わりでクロードがサッと顔を青くした。

「闇聖女、この前のパーティーの日に女の子に光魔法を使ってたな……」

「……何だって?」

張り詰めたルシアンの声が部屋に響くと、クロードは報告する。

「しかも、その場所が王城の門に繋がる結構人通りが多い場所で……でも、ほんのわずかな魔力だったから、見る人が見ないと光魔法だとはわからないとは思う」

聞いていたスレヴィがまた慌て出した。

「! 実は、その黒幕はパーティーに参加してたんです。エステルが光魔法を使った場面を見ていないとは言えません」

「黒幕は誰だ?」

ルシアンが問いかけると、スレヴィは震えながら答える。

「王族の私的な護衛組織に所属しているグレンダという名前の女性の軍人です。リーナによると、三回目のときに僕の護衛についた人のようで……普段は普通の軍人に擬態していましたが、実際には新興宗教の教祖様なのだそうです。あの五人をはじめ、信者は彼女の命令なら何でも聞く状態で、極めて危険だと」

「! ルシアン、あの女だ。オレが遊んでるフリしてずっと張ってた女! やっぱり『それ以外』だったか! くそ! 何でオレは面倒になって切っちまったんだ」

ルシアンはクロードと顔を見合わせた後、険しい顔で言い放つ。

「――すぐにエステルを探しに行く」

ルシアンの部屋を飛び出したエステルは、少し歩いて庭園まで出ていた。

(この王城はとても広いのよね。長く滞在させてもらっているけれど、ほとんどが知らない場所だわ)

普段、エステルが行動しているのはリーナの部屋がある東側の棟だ。エステルたちが泊まっている客間もそこにあり、不自由はしない。ということで、実はこうして散策するのはほぼ初めてだった。

(結婚に関わるルシアン様の本音が恥ずかしくなって、逃げ出してきてしまったわ。戻ったらきちんとお話ししなくては。……ルシアン様がいいと仰るのなら呪い返しを無理に解かなくてもいいかもしれないけれど、一応、呪文を覚えて帰りたいわ)

そんなことを考えながら、東側の棟から一番近い庭園に足を踏み入れる。雪の上を歩くと、絨毯とは違う不思議な感覚がした。

氷でできたオブジェや花々が並ぶ庭は、冬の国であるフリード国ならではの美しさ。夜間用の青白い明かりに照らされると、そのどれもがキラキラと輝いて見える。

しんとして音がしない幻想的な光景と、エステルには馴染みのない肌を刺すような冷たい空気。毛皮のショールをきゅっとつかんだエステルは、誰に話しかけるでもなく笑う。

「夜の氷って、ここまで神秘的に見えるのね。ルシアン様にもお見せしたいわ……」

「――フリード国を楽しんでくれているみたいでよかったわ?」

覚えがある声に、エステルはびくりと肩を揺らして振り返る。

「あなたは」

夜の明かりの下で、闇に呑まれそうなほどに長く美しい黒い髪と、白い雪に映える真っ赤な唇。美しいスタイルをさらに魅力的に見せる軍服。

この前の、スレヴィの誕生日会で話しかけてきた猫獣人の女性だった。

(この方、ルシアン様がクロードに命じて身の回りを調べさせていた方だわ)

庭園には衛兵の気配はあるものの、ほかの客はいない。偶然ここで会うには不自然すぎるように思えて、エステルはすぐにこの場を去ることにした。

「……ほんの少し、風に当たりに来ただけですので。そろそろ戻らないと婚約者が迎えにきてしまいますので、失礼いたします」

無意識に自分の居場所を把握する人間の存在を示すと、彼女は黒い猫の耳をピンと立て、にやりと笑った。

「そうなの? あなた、やっぱり意外とちゃんとしているタイプなのね。ただ銅像の聖女様にそっくりなだけの女だと思ってたら、全然違うからびっくりするわね?」

「あの」

「私ね、グレンダっていうの。私が大嫌いなものを教えてあげましょうか?」

戸惑い、警戒心を高めているうちに、グレンダが近づいてきてエステルの前に立つ。

あまりの不自然さに『走って逃げよう』と思ったものの、体格の違いにすぐに捕まるだろうと考え、他に策はないか思案しかけたそのとき。

エステルの口に何かが押し当てられた。

それが、薬品を含ませたハンカチだと気がついたときにはもう遅い。

「私が大嫌いなものはね、私のお気に入りの男に手を出す人間と、光属性の魔法よ」

(あ……)

エステルの世界は暗転し、何も見えなくなったのだった。