作品タイトル不明
スレヴィの誕生日パーティー③
腰まである黒い髪に、頭の上に二つ並ぶ三角の黒い耳、尖った牙がのぞく赤い唇。とても美しい、長身の猫獣人の女性だ。
ドレスではなく軍服のようなものを身につけているが、男性と同じ服装をしていても妖艶な空気を纏っている。
まるで、正面に立っているだけでつい赤くなってしまうような、何ともいえない色香を放っていた。エステルとは身長の差が大きく、完全に見下ろされてしまう。
「オリオール王国からまいりました、エステル・シャルリエと申します」
一応、挨拶をすると、猫獣人の女性はそれを無視してクロードに話しかけた。
「それで? あなたは謝罪に来ると思っていたのに、来ないでこんなところで子守なんてしているの?」
「めんどくせぇな」
クロードは片頬を上げてチッと舌打ちをする。知り合いなのか、と驚いたが、このクロードの答えを聞くと、頬の引っ掻き傷の相手はおそらく彼女なのだろう。
(そういえば、前にルシアン様が「あいつもあいつで楽しんでいるようだ」と仰っていたわ。つまり、その相手はこの方……?)
敵対心全開で睨みを利かせてくる彼女は、エステルのことを上から下まで舐めるようにじっくりと見てくる。
「見たところ、身体能力が低そうだし魔力も弱そうね。……なるほど、フリード国の王子様の婚約者だからわざわざクロード様が護衛についているのね? いいこと? ここは特別な能力を持つ者だけが暮らしていける、特別な国なの。悪いことは言わないから、早く出ていきなさいな」
(⁉︎ いきなりこんなことを仰るなんて、この方、ものすごい差別主義者なのね……)
直接言わず『顔だけ聖女』という間接的な表現に留めていてくれた母国が、ものすごく優しく思えてしまった。
怒りも劣等感も何もかも消えて呆然とするエステルだったが、ルシアンからエステルの護衛を任されているクロードは聞き流すわけにはいかないようだった。
頭をぽりぽりかきながら、これ以上なくかったるそうに息を吐く。
「ふーん。妬いて、恋敵に見える女を攻撃か。見た目のサバサバ感からは想像できないほどめんどくさいタイプだな、あんた」
「⁉︎ なっ……パ、パーティーに誘ったのに、断ったあなたが悪いんでしょう⁉︎」
「どうして遊び相手の誘いに乗らないといけないんだ? だって『遊び相手』、だぞ?」
悪びれる風もなく言い放ったクロードに、猫獣人の女性の顔が真っ赤に変わった。
「言わせておけば……!」
怒り狂っている彼女を前に、エステルは焦る。
(せっかくのスレヴィのお誕生日会なのに。それにここでトラブルが起きたら、スレヴィ暗殺の犯人を捕えるという本来の目的が台無しになってしまう)
けれど、クロードは全然その辺のことを気にしていないようだった。ルシアンから命じられているのは『お前が死んでもエステルは守れ』。
遊び相手とトラブルを起こして作戦を台無しにしてはいけないことなどは眼中にないようで、猫獣人の彼女をなだめる気は全くないようだ。マイペースに無視している。
(待って、使い魔に情緒はないの……⁉︎)
仕方がないので、エステルが割って入るしかなかった。軍服を着た迫力美人相手に反論するのは怖いが、クロードが役に立たないので仕方がない。
「どうか落ち着いてくださいませ。このパーティーはスレヴィ王子殿下のお誕生日会です。このように騒いではお祝いの席に水をさすことになります」
「ふーん。あなた、顔だけかと思ったらなかなか言うじゃないの」
猫獣人の彼女は目をカッと見開くと、エステルにずいと顔を近づけた。
「いいこと? 覚えてらっしゃい。デートを邪魔した罪は重いわよ」
「にゃ、デート? だから誰が……むんっ⁉︎」
やっぱり面倒そうに応じつつ、目の鋭さを増したクロードの口をエステルは押さえる。これ以上、事態を面倒な方向に持っていきたくはなかったのだ。
(クロードって、猫の姿になってお腹の中に何でも入れちゃうのよね。ここでそんなことが起きたら大変! クロード、我慢して……!)
それを見ていた猫獣人の彼女は、とんでもなく意地の悪い顔をしてぷいと踵を返した。
「フン! あんたみたいな弱い女を見てると、虫唾が走るわ!」
そうして、黒髪をなびかせ、軍服に合わせたヒールの音を鳴らしながら去っていく。
(随分嫌われてしまったみたいだわ。スレヴィの暗殺を阻止する作戦とは関係ないみたいだから、別にいいのだけれど)
猫獣人の彼女の後ろ姿を見守った後、エステルはしおしおとクロードに謝った。
「クロードって遊び人だったのね。意外だわ。ごめんね、いつも私のカフェで護衛なんてさせていて……」
「そこかよ」
「だって」
普段、クロードはルシアンに命じられてエステルのカフェで暮らしている。もちろん、エステルの護衛のためだ。
(でも、クロードが遊び人……いえ、遊び使い魔だったのなら申し訳ないわ、楽しみを奪っていることになるんだもの)
王都のはずれの素朴なカフェ。あの場所はどう考えても、夜遊びになんて行ける場所ではないし、クロードが無理をしているのは明白だった。
申し訳なさすぎて謝ったエステルだったが、クロードとしてはどうやら違うらしい。
「……違うにゃ。オレがあのグレンダって名前の猫と遊んでたのはちょっと違う理由があって」
「違う理由?」
「んにゃ。ルシアンが戻ったら話……」
その瞬間、会場全体が揺れるような轟音が鳴り響き、視界が炎の赤に染まる。
(な、何⁉︎)